先生、精霊が呼べません!6
かくして、寮の中庭には30人近い人数の寮生が集まり、一躍花火大会会場と化した。わいわいとみんなで水の入ったバケツを用意し、気の利いた子がテーブルや飲み物までセットして、場はパーティーさながら盛り上がっている。
けれど、いざ花火を始めようとして問題が。
「風けっこう出てきちゃったね。危ないかな」
「ライター、1個しかないや。もっと買いに行く?」
些細ながらそんな問題が勃発してなかなか花火に火は着かない。マナは早く花火がしたい気持ちが溢れ出すぎて、ヘビ花火を握りしめている。あーあー手が黒くなるよ。
これ以上火薬臭くなった手で部屋に戻られては、同室の私としてはたまんないんだけど。だから、仕方ない。庭の隅っこに座って眺めていた私は立ち上がると、地面に足で魔法陣を描いた。
「シルフィード召喚」
早口でチャッチャと詠唱を済ませても私の魔法力ならちゃんと風の精は出てくる。中庭に一瞬風が渦巻き、私の目の前に薄緑の髪をおさげにした眼鏡っこがオズオズと現れた。
「こ……この度はお呼び頂きありがとうございます……な、何か御用でしょうか……?」
シルフィードは風の精霊。四大精霊王のひとりのくせに物凄い気弱で人見知りだ。すぐに幽界に帰りたがるコイツと契約を結ぶのが実は1番難しかった気がする。
「シルフィード、悪いんだけどこの風止めてくんない? 今からみんなで花火するの」
私の命令にシルフィードは何故か一瞬ビクリと怯える。なんでよ。どんだけヘタレなのよ。
「わ、分かりましたぁ」
どうしてだが半泣きになりながらも、シルフィードは指先ひとつでピタリと風を止めた。それを見て中庭中から歓声が沸いて、シルフィードまたビクつく。
「あ、あの、もう帰ってもよろしいでしょうか……?」
「ああ、どうもありがとう。ご苦労様」
役目を終えたシルフィードは涙目になりながら一礼すると、逃げるように魔法陣の中へと消えていった。風の精霊はいつもこんな調子なので、大した命令じゃなくてもあの子を呼ぶとなんだか罪悪感が湧く。あれで部下のピスキーとかまとめられてるのかね。心配だ。
「ララちゃん、今の風の精霊さん? すごいねーすごーい」
魔法陣に消えてったシルフィードを見たマナがノテノテと駆け寄ってくる。火薬で黒くなった手で近付いてくるので、私はそれを避けながら
「邪魔。今度のは危ないから離れてな」
とマナを隅っこへ押しやった。そして、足元の魔方陣を風から火へと描き換える。
「アータル召喚」
詠唱と共に魔力を送ると、魔法陣から轟音をたてて火の柱が立ち上がり、やがてそれは火をまとったムキムキのおっさんになった。火の精霊、アータルだ。
「やややっ!! おなごだらけ!! ここは何処でごわすか!? 何故に女人だらけでごわすか!?」
ぶっとい角を生やし魔人みたいなおっかない出で立ちのくせに、コイツは女が大の苦手だ。ただでさえマグマのように赤い身体が、中庭に集った女子高生たちを見てますます赤く染まっていく。
「ララ殿! 何故に拙をこんなおなごだらけの場所に呼び出すでごわすか! はひぃ!!」
「あーゴメンね。花火に火をつけようと思って。しばらくそこに立っててくんない?」
「はひぃ! 拷問でごわす! 『ドキッ! JCだらけの花火大会』だなんて、拙には拷問でごわすー!」
文句を言いながらも契約上アータルは私に逆らえない。キャッキャと花火に火をもらいに来る女子高生に身悶えしながら、アータルはなんとか着火道具の役目を務めた。




