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先生、精霊が呼べません!4


 そうして失敗すること32回。いい加減、マナの声が嗄れてきたので一旦休憩。予想通りとは言え、呼ばなくてもやたら出てきたがる花の精さえ全く来る気配を見せないなんて。魔法陣の前にしゃがんでチゥチゥとブリックパックのイチゴオレを飲んでるマナを見やりながら憐れに思う。


 魔法陣はヘニャヘニャだけど一応描けている。噛みまくりだけど呪文も間違ってない。やっぱり魔法力がたりないんだろうか。考えて頭を捻りながら、魔法陣を足先でツン、とつついてみた。すると。


「あっれー? 誰かと思ったらララちゃんじゃーん!」


 ポワンと軽い音をたてて少女の姿をした愛らしい小さな妖精が目の前に現れた。


 鮮やかなピンクと白のグラデーションカラーの髪、花壇に咲いているインパチェンスの花の精だ。


「わあ。休憩中なのに妖精さんが出たよ?」


 いきなり目の前に妖精が現れてステンと尻餅を着くマナ。あーイチゴオレ零した。


「幽界の方に魔法陣が見えてたんだけどさー、なんかすっごいヘニャヘニャで怪しい形してるし、全然魔法力感じられないから気味悪がってみんな飛び込まなかったんだよね。そしたらさっき急にララちゃんの魔法力感じられたからさー」


 なるほどね。私が足でつついたせいで魔法力が籠もっちゃったんだ。それでようやく出てきたって訳か。


「えーまさかララちゃんがこの魔法陣書いたんじゃないよねえ? それともわざと下手っぴに描いて、私たちが出てくるか試してた?」


「いや、私が描いたんじゃないけどさ。でもまあ、あんまり言わないでやってよ。本人は頑張って描いたんだから」


 今日1日それを描けるように惜しみない努力を費やしたヤツが目の前にいるんだ。下手なのは事実だけど、お手柔らかにしてやってくれ。


 私の言葉にインパチェンスの精は、尻餅を着いているマナにようやく気付くとチロリンチロリンと羽を揺らし近づいて行き


「誰? ララちゃんの友達? あなたが私のこと呼んだの?」


マジマジとマナの顔を覗き込んで尋ねた。


「わ、はー。妖精さんだー。初めて見たー。可愛いなー可愛いなー」


 アホ面全開でマナは目の前の妖精に魅入っている。口ポカンですっごいアホ面。鏡見せてやりたい。けれどインパチェンスは


「あは! 可愛いだって! ありがとー! あなたも可愛いよ、その丸い目とかーチョンマゲみたいな結んだ前髪とか!」


なかなか上機嫌な様子を見せる。花の精は可愛いとか綺麗って褒め言葉に弱いからね。


「可愛い妖精さんに褒められた!」


「あはは、私、インパチェンス・ワレリアナ。チェスリって呼んで。あなたは?」


「高浜マナ、私立葛飾高等学校1年魔法学科です。好きな食べ物は湯豆腐です」


 あれ。好物って苺大福じゃなかったの。じゃあなんで人にあげまくってたんだ。そんな私の些細な疑問など知る由も無く、意外にもマナとインパチェンスは意気投合している。


「へー、マナちゃん魔女なんだ? 全然魔法力感じないけどね。でもそんな事より可愛いかどうかの方が大事だよね。マナちゃん可愛いから私好きよ?」


「わーうれしー。私もチェスリちゃん好きー」


「ね、これからプリクラ撮りに行かない? 駅の向こうのゲーセンに新しいの入ったんだって。お友達になった記念に撮ろうよ」


「行く行くー」


 コイツら魔女と妖精である意味とかないよね。“可愛い”で世界が構築される恐るべき乙女脳。花の精ってこれだから。まあ、でもマナには丁度良かったのかな。


「良かったね、マナ。これで初めて妖精と契約が結べるじゃん」


 おそらくすっかり肝心なことを忘れてるマナに向かってそう言ってやると


「あーマナちゃんとは契約は無理かなー」


インパチェンスは可愛い子ぶって首を傾げながらもハッキリと否定した。


「ゴメンねー。あんまし魔法力低い子に召喚されると私のランクが下がっちゃうんだ。あ、でも、私とマナちゃんは友達だから。契約を超えた友情?みたいな。ズッ友だよね」


 なんかはぐらかされてるけど。結局マナの魔法力は主従には値しないってワケか。仕方ない。幽界の生き物にもルールはあるからね。けれど、契約を断られた本人はいつものようにヘラヘラしている。


「チェスリちゃんとズッ友、嬉しいな」


「だよね! 契約よりずっといいって! あ、そーだ召喚は無理だけど遊ぶときは電話してくれれば行くから。これ番号」


 おいちょっと待て! 電話って何!? それこそルール違反じゃないのか!?妖精が俗っぽい事すんなよ!!


「ありがとー。じゃああたしの番号もあげるー」


「あはは、マナちゃんの番号『0707』って、コレもしかして『マナマナ』のつもり?」


「当たり」


「あははは、かわいー」


 もはやフツーの女子高生同士の会話にしか見えないふたりに頭痛がしてきた。魔法ってなんだっけ。召喚ってなんだっけ。


「とにかく、妖精は呼べたんだから気が済んだでしょ。後はふたりで仲良くやんな。私、先に帰るから」


 痛む頭を押さえながら立ち去ろうとした私の腕を、マナとインパチェンスがガッチリ掴む。


「ララちゃんもプリ撮りに行こー」


「そうだよ! ララちゃんも友達でしょっ?」


「いや。私はアンタと主従の契約結んである筈だけど」


「主従より友情! ね、ララちゃんも一緒に行こ!」


 本当にこの妖精ときたら、契約のセオリーをことごとく覆しにきてる。妖精王にチクッたろか。調子にのったインパチェンスにイライラしたものの。


「お友達になったチェスリちゃんと、チェスリちゃんを呼んでくれたララちゃんと、あたしと。3人で記念にプリが撮りたい……」


 腕を両手でムニムニと掴んだマナの、例によって子犬的な懇願を籠めた眼差しで見つめられ、私はシブシブと承諾をした。


 

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