先生、精霊が呼べません!3
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ああもう今日は最悪だ。これだから夏もプールも嫌いだ。
寮に帰っても気が晴れない私はブスッとむくれながら宿題をやっていた。そこに、本日の元凶の一員であるマナが微妙に緊張感を漂わせた笑顔で近付いてくる。
「ら、ララちゃん。今日はゴメンね?」
「もういいからあっち行け。宿題の邪魔」
シッシと冷たくあしらうも、マナはその場に留まり緊張感を保ったまま変な笑顔を浮かべている。とんでもなくウザッたい。
「なに? まだ何か言いたいの?」
不機嫌を露にした顔を向けながら言うと、マナは恭しく都コンブを差し出しながら
「あのね、今日ララちゃん、プールから竜出したでしょ。びゅーって。アレすごいなーって。あたしも教わりたいなーって……」
これまた実に面倒くさい教授を願い出てきた。つまりは精霊召喚がしたいと。うん、無理だね。
「無理。アンタの魔法力じゃぜっっったいに精霊は契約を結んでくれないし、そもそも幽界のゲートが開かない。それ以前にアンタの頭じゃ魔法陣を記憶して描けないでしょ」
どう考えても無理。断固無理。何が何でも無理だと言う事を力いっぱい伝えると、マナは半月型の口元を崩さないまま眉毛だけを悲しげに下げた。
「魔法陣覚えます。100回書き取りします」
「無理だって」
「精霊さんと仲良く出来る様に頑張ります」
「無理、無理」
「都コンブあげます」
「私にコンブくれたってアンタが無理なのには変わらないよ」
そこまで無理を羅列すると、マナは半笑いのまま目をウルウルとさせ始めた。あ、ヤバい。泣きそう。
「もー、分かった、分かったから! やり方だけ教えてあげるから、後は自己責任でやんなさいよ。召喚できなくたって私のせいじゃ無いからね!」
雨の中の小犬みたいな目に負けて、私はスペシャルポンコツな魔女にスペシャルハイグレードの魔法を教える事になってしまった。あーあ。
「やったー! ララちゃんありがとう」
マナは飛び上がって喜んだものの足が床から離れてない。ジャンプ低っ! それから謝礼の都コンブをぐいぐいと私の手に押し付けてきたので、ウザいと思いつつも頂いておいた。
そして翌日。寝る間どころか授業時間も惜しんで魔法陣の書き取りをし、どうにかその形を覚えたマナを、放課後に裏庭の花壇へ呼び出す。
「まずいきなりアンタに四大精霊は無理だから、今日は比較的呼びやすい花の精を召喚するわよ」
「よんだいせいれい」
「そんな事も知らんのか! 授業でやったでしょ! 火、水、土、風の世界を支える四大元素の精霊! 魔女じゃなくったってコレぐらい常識でしょ!」
基礎中の基礎すら理解してないコイツに召喚が上手くいくとはやっぱり絶対に思えない。て言うか精霊も激怒するレベルだよ。他人の家のチャイム鳴らしておいて出てきた住人に『お前誰だ?』って聞くようなもんだよ?
「思い出した。よんだいせいれい、授業でやった」
本当か?と思いつつ、いちいちバカにツッコんでいても埒が明かないので先に進む。
「四大精霊は自然界の王様みたいなもんだからね。いきなりアンタにはハードルが高すぎる。だからとりあえず、今日は人懐っこい花の精を呼ぼうってワケ。土属性の精霊だけど、好奇心旺盛だからちょくちょく現世に遊びに来たりすんのよ。契約はともかく姿を見るくらいなら簡単に出来るわ」
説明をしながらマナに魔法陣を描かせる。悪い頭で頑張って描いた魔方陣は妙にヘニャヘニャだけど、まあ努力は伝わるだろう。
「魔法陣は幽界と現世をつなぐゲート。あとはそこに魔力を籠めて相手に呼びかければ声が届くはずよ」
「こんにち」
「言っとくけど、呼び掛けるって呪文でね。手順を踏んだ言霊を紡がなきゃ言葉に魔力は籠もらないからね」
焦って呪文のメモを取り出して読み上げるマナ。さすがにこれは暗記できなかったので仕方ない。しかし、ところどころ読めない漢字が出てきてつっかえるので、これはもうダメかもしれない。
そしてやっぱり。「しぇーれぃそーかん」と思いっきり噛んで読み上げた呪文が幽界に届くはずも無く、魔法陣からはアリ1匹とて出てこなかった。
「はい、失敗ね。もう1回最初から」
虚しく砂塵の舞った魔法陣に向かって、もう1度呪文を最初から詠唱させる。漢字にふりがなをふってやったのでさっきよりかは幾らか流暢だ。それでもカミカミだけど。




