先生、精霊が呼べません!2
「泳げる者は右半分のコースで練習を、泳げない者は左のスペースでバタ足の練習をしろー」
生徒を集めた体育教師はざっくりとした指示を出して、開始のホイッスルを鳴らす。まあ高校の水泳なんてそんなもんだよね。一応25メートルは泳げるので右のコースへ行くと、1番にプールに飛び込んだシホが遊回魚並みの速さで泳いでいた。さすが体力バカ。
そんなシホに生徒の多くが感心していると
「高浜!? 大丈夫か!? なんでお前はビート板持ってて溺れるんだ!?」
体育教師がありえない状況で溺れたマナを救命する声が聞こえた。先生、ソイツ水に入れない方がいいですよ。
マナが溺れないように体育教師が付きっきりになってしまったので、放っておかれた他の生徒は自主的に練習し、やがて休憩時間となった。
「全員水から上がれー。身体あっためろよー」
指導に従い各々プールサイドやベンチで休む。身体を温めるという口実が出来、私はここぞとばかりにバスタオルを羽織った。よし。胸が隠せる。そうしてプールサイドに座っていると
「ララちゃん、ララちゃん。白いの拾った」
プールの底に落ちていたと思われる塩素を嬉しそうにマナが見せに来た。この小学生脳め。
「手荒れるよ。プールに戻しておいで」
親切にそう言ってやったところで
「私は20個拾った!」
プールを隅から隅まで泳いでいた馬鹿2号が両手いっぱいの塩素を抱えて見せに来た。
「そんなに拾うな! 水の消毒の為に入れてあるんだから持ってきちゃダメなの!」
私に叱られるとマナとシホは明からさまに顔に“しぶしぶ”と書きながら、塩素をプールへ投げ捨てた。なんでよ。そんなにイイ物でも無いでしょうが。
塩素を手放したマナとシホが戻ってきてちょこんと私の隣に座る。
「あーやっぱプールは気持ちいいねえ」
なんて言いながらシホは伸びをしてゴロンとそのまま転がった。何と云うか、本当に自由だな。それを見たマナも真似をしてゴロンと寝転がる。
「寝っ転がるの気持ちーねー。お日様まぶしー」
花も恥らうお年頃の女子が、いくら女子高とは云えプールサイドで大の字になって寝るのはどうかと思うけど。水際の開放感とは恐ろしい。いや、コイツだけか。
プールでテンションが上がってるのか、マナとシホは隣り合って寝転がりながら、やがてキャッキャウフフとじゃれあい出した。犬っころみたい。けれど、そんな無邪気な光景はシホの何気ない一言で私に緊張の糸を張り巡らす。
「マナちゃん、胸けっこうあるよねー」
やめろ!!!
その話題はやめろ! 頼むから! 後生だから! 背筋に嫌な汗の伝った私は、気付かれないようにジリジリとその場から離れようとした。しかし。
「牛乳いっぱい飲んでるから」
「私もけっこう飲んでるんだけどなあ」
「じゃあシホちゃんはこれからおっきくなるよー」
「そっかあ。ねえ、ララちゃんは?」
なんで私に振るのよ!! いいよその会話に交ぜなくても! 放っといてよ!
聞こえなかったフリをして尚もジリジリその場から離れようとすると、同じ速度でジリジリとマナとシホが追いかけてきた。
「ラーラちゃん?」
来るなっての。
「ララちゃん?」
本当にもう勘弁して下さい。
半泣きになりそうになりながらジリジリ逃げてると、突然ピタリとふたりの動きが止まった。おや? と思い顔を上げると。
「……じー……」
「……じー……」
丸い目を好奇心に輝かせながら、マナとシホが私の胸に視線を送っていた。……う゛う。突き刺さるような視線に晒され固まる私。
やがて、視線を外すとマナとシホはお互い見つめあい
「これから、これから」
と温かい笑みを浮かべた。
「う、うるさーい!! 何が『これから』だ! 胸が無いから何だって言うのよバカにすんなー!!」
コンプレックスをダイレクトアタックされて怒りと羞恥がメーターを振り切ってしまった私は、無意識に魔法力を全開にしてしまった。
「うわー!! プールから竜がー!!」
轟音を上げて渦巻くプールの水。それは巨大な竜の形をして天に向かい立ち上がる。私は興奮のあまり詠唱も魔法陣もなしでリヴァイアサンを召喚してしまっていた。
「コラー! 何やってるんだソコー!!」
体育教師がホイッスルをピリリリと鳴らしながら駆け寄ってきたけど、次の瞬間、水の竜にサックリと飲み込まれた。
「わあ、先生がー」
「ら、ララちゃん落ち着いて! 胸が小さくてもいい事あるよ!」
「うるさーい! もープールの授業なんて無くなっちゃえー!!」
ひとしきりリヴァイアサンを暴れさせたあと、私は5時間目の授業を台無しにしてしまった事でお説教と反省文の提出を余儀なくされた。




