第三話 先生、精霊が呼べません!
第3話 先生、精霊が呼べません!
7月。今年も嫌な季節がやってきた。
日差しの眩しい午後1時、まもなく次の授業が始まる。科目は体育。そしてその内容は。
「やったープールだ。プールだー」
「泳ぐぞー! これでもかってほど泳ぐぞー!」
……なーんで高校生にもなって、体育に水泳があるかなあ。しかも魔法学科なのに。水泳の授業なんてね、小学生がやってればいいのよ。ビート板持ってバシャバシャしてればいいのよ。
昼食も済み、みんなが次々とプールの準備のため更衣室へ移動する中、私はいつまでも椅子から立ち上がらずにいた。すると案の定プールバッグを抱えたマナが話しかけてくる。
「どうしたのララちゃん。お着替え行こうよ」
「んー……あとでね」
必要の無い荷物の整理なんかしたりして、なるべく時間を稼ぐ。チラチラと時計を見ながら更衣室が空く時間を私は待った。けれど。
「早く行こーよー。ララちゃーん」
プールを待ちきれないマナが私の手をグイグイと引っ張る。
「いいから、アンタ先に行ってなよ」
「ララちゃんも一緒がいーいー」
子供か。駄々っ子か。それでも非力なマナの手ぐらい余裕で交わせていたけれど。
「何やってんのララちゃん! 授業始まっちゃうよ!?」
先走って何故かスイミングキャップだけかぶったシホが、椅子から立たない私を見つけて思いっきり手を引っ張った。
「ちょっ! 待って! 待って! 腕抜ける!!」
「ほらほら! 行くよ!」
怪力シホに強引に手を引かれ、私は半ば引き摺られるように更衣室へと連れて行かれた。
プールの隣にある女子更衣室。どうやらピークは過ぎたみたいで混みあってはいないけれど、まだまだ人は多い。私は部屋の隅っこで誰もいなくなるのを目立たないようにじっと待った。なのに、だ。
「ララちゃん、早く脱がないと」
あーもー、放っとけってば! やっぱりマナはめざとく私を見つけて寄ってくる。しかも制服を脱ぎながら。例によってカボパン丸出しで。
「分かってるから。いいからアンタは自分の着替え済ませなよ」
私の手に押しやられて、マナは頷きながらブラウスのボタンを外し始めた。いつもと変わらない呑気なアホ面は何も考えてない子供みたいなのに。いっちょ前に高校生サイズのマナの胸を、私は横目でチラリと見やった。
まあ、マナは寮のルームメイトだからお互いの下着姿も見慣れてるけどさ。でも、普段は風呂の時でさえなるべく人が居ない時間を狙ってる私としては、こんな大勢で着替え、しかも1時間も水着姿でいなきゃならない水泳は本当に地獄だ。
「ララちゃん着替えないの?」
今度は水着に着替え終わったシホが寄ってくる。ええい、鬱陶しい。けれど、自然と私の目は小さいながらもしっかり曲線のあるシホの水着の胸へと行ってしまう。……Bはある?くそぅ。
「大丈夫だから。ちゃんと着替えるから。あっち行ってて」
つっけんどにそう答えると、シホはキョトンとしたあと側にいたマナに小声で
「ララちゃんて恥ずかしがり屋さん?」
とか聞いていた。いや、聞こえてるから。
なにやら“恥ずかしがり屋さん”のレッテルを貼られたことで、ようやくマナもシホも私から離れてくれた。随分静かになった更衣室で私は大急ぎで着替える。途中、男子と見まごう程の平ったい自分の胸に溜息を吐きながら。
ああ。水泳の授業って生徒の人権無視してるよね。こう、身体的事情とか年頃の女子の心理的負担とかさあ。
まだここは女子高だからマシだけど、共学だった中学時代は本当に地獄だったな。太った男子がからかいで言った『俺の方がデカイ』の一言、思い出すと今でもハラワタが煮えくり返る。まあ、その直後召喚したリヴァイアサンの口に放り込んでやったけど。
過去のトラウマまで思い出して、重たい溜息をひとつ吐く。更衣室にはもう私しか残っていない。着替え終わりスイミングキャップをかぶると、プールから集合のホイッスルが聞こえたので、私は胸をタオルで隠しながら急いでプールサイドへ向かった。




