先生、ネコがしゃべりません!8
「た……高浜さん!どうしたんですか、その格好は!」
「川に落ちました!」
第2チェックポイントで待機していた先生はマナの格好を見るなり卒倒しそうになっていた。さらに川に落ちたと聞いて一瞬白目を剥く。
「と、とりあえず無事で良かったわ。優秀な長谷川さんとチームにしたのは正解ね。とにかく高浜さん、あなたは予備のジャージに着替えなさい」
マナのトラブルっぷりに狼狽しつつも先生は手際よく荷物からジャージを取り出しこちらに手渡した。良かった。これで風が吹くたびヒヤヒヤするスリルから解放される。
予備のジャージに着替えたことで、ビビもマナのカボパンを隠すという決して楽しくない任務から解放されホゥッと安堵の溜息をついていた。よくやった。
「それにしても、道中のトラップは解除したって第1ポイントから連絡があったのに……なんでまた川に落ちたりなんかしたのかしら?」
「すみません。手を掴んでたんですが、ちょっと気を取られた隙に逃げられて川に突進されました」
「…………今、第3チェックポイントまでワープゲートを開くから、そこを通っていきなさい」
「察して下さってありがとうざいます」
どうやら私の苦労を察してくれた先生は、これ以上マナに山を歩かせるのは危険と判断したようだった。それが正解だろう。
「思ってた以上に大変ねぇ……」
ええ、本っ当に大変です。私に労いの眼差しを向けながら先生はワープゲートを開き、手を振って見送ってくれた。
そんなワケで。もはやズルに近い気がする超特別対応で第3チェックポイントの目の前まで来た私達。さすがに今回こそは何も起こらないだろうと思った私は甘かったか。
チェックポイントは目と鼻の先、わずか30メートルまでの距離だと言うのに、突如茂みから現れた巨大な影に道は遮られた。
「く、く、く、クマだーー!!!」
なんと、2メートルは優にあるどでかい野生のクマが私たちの前に立ち塞がった。信じられない。なんという山のトラブルオンパレード。
「うわあーうわあー助けてー」
3人とも必死で逃げるものの、鈍足のマナと空腹でヘロヘロのシホは足をもつれさせ、私を巻き込んで見事ひと塊になって転がった。
「あいたたたた」
絡まり合って倒れた身体を起こすと、既に目の前には腕を振り上げたクマが。
ダメだ! 魔法間に合わない!
襲い来る恐怖に思わず目を閉じ身を縮こめていると――
「に、ににににに逃げてー! ララちゃんもシホちゃんもみんな逃げてー!」
――なんと、私とシホを庇う様に腕を広げマナがクマと対峙しようとしているではないか。
「ば、馬鹿! アンタ死ぬわよ!」
「だいじょーぶだから逃げてー! クマさん止めてー!」
ヤバイと思い咄嗟にマナを救おうと立ち上がるも。……何故だかクマはマナと向かい合ったまま振り上げた手を降ろそうとしない。まるで時間が止まったみたい。……と、その時。
「みんな、逃げるでやんすー!!」
シホのポケットから飛び出したロキが、クマの顔面を狙って飛び出した。一直線に飛んでいくロキの身体は途中で燃え盛る火の玉となり、見事クマの眉間にヒットする。
イモリは火の精霊サラマンダーの現世の姿。現代社会でその能力を発揮することはあまり無いけれど、まさかこんな緊急事態に役に立つなんて。
眉間に強烈な一撃を喰らったクマは唸り声を上げ顔を押さえながらてフラフラとよろける。その隙を突いて私は素早く呪文を詠唱した。
「棘よ力を貸しなさい! 拘束魔法!」
私の命令を合図に、周りの茂みから一斉に棘の蔦が伸び上がる。数百本ものそれは敵に襲い掛かる蛇のように獰猛な勢いでクマへと絡みつき、あっと言う間に黒い巨体を押さえ込んだ。
クマは苦しそうに呻き声を上げてその場に倒れる。植物の蔦とは言え、魔法力を帯びた棘。例えクマの怪力でも解けることは無い。
「ふぅ、危機一髪……」
さすがに私ももうダメかと思った。なんとか助かったと言う安堵感でヘナヘナと座り込むと、騒ぎに気がついた教師達がやっとこちらへ駆け寄ってくるのが見えた。遅いよ。
「大丈夫ですか、あなたたち!!」
「わーん! 恐かったよー!!」
「し、死ぬかと思いました! でもロキさんとララちゃんが、バーンって、シュルシュルビシーって助けてくれました!」
馬鹿ふたりもさすがに命の危機を感じたんだろう、プルプル震えている。かくいう私だってまだ心臓がドキドキ言ってるよ。
クマは教師達の手で地元の保護センターに渡され、私達はケガがない事を確認されるとまたもや特例としてワープゲートでゴールまで送られた。
こうして。ハチャメチャと特例を繰り返しながら、私とマナとシホのチームは一応全てのチェックポイントを通過してめでたくゴールを迎えることが出来たのだった。




