先生、ネコがしゃべりません!6
「ぎゃあああああああああああああ!!!」
抱えられた不安定な体勢のまま100メートル5秒台のスピードを経験する恐怖がお分かりか。凸凹の道を飛び越え、生い茂る木を左右に避け、時に木を蹴り倒しシホは全くスピードを緩めず走り続けた。右肩に抱えられてるマナはとっくに目を回して伸びている。それでも抱えたビビを離さないでいるのだけは偉い。
「間に合ったー!」
チェックポイントの旗と教員達の姿が見えて、シホがキキーっと足に急ブレーキを掛ける。私は自力でシホの服にしがみついてたから大丈夫だったものの、気を失っていたマナはシホの腕からすぽーんと抜け出し、立っていた教師に激突した。
「あたたた……わあ!チェックポイントだ」
その衝撃で目を覚ましたマナは嬉しそうな顔をしたけど、突然後頭部に生徒を投げつけられた教師は脅威に顔を引きつらせている。
「……どういう登場の仕方だお前ら」
第1チェックポイント担当の体育教師が呆れと驚きの色を浮かべながらもカードにスタンプを押してくれた。
「落とし穴に落ちたので大変でした!」
何故だか意気揚々と答えたマナに体育教師はさらに目を丸くすると
「えっ!? お前ら落とし穴に落ちたのか!? あんなベタで丸見えな罠に!? マジで!?」
寄りにも寄ってベッタベタな落とし穴に本気で引っ掛かる生徒がいるとは思ってもいなかったのだろう、大層狼狽した様子を見せた。
「なんたって高浜マナですから」
「そ、そうか……なんか悪い事したな……」
やつれた私の顔を見て色々察してくれたのか、マナの阿呆さを侮っていた教師達は申し訳無さそうに頭を掻くと
「次のポイントまでのトラップは解除しておくから、歩道をちゃんと歩いていけ。迷子になるなよ」
心配そうな眼差しで私達を送り出してくれた。何と云う特別待遇。そもそもマナをこの行事に参加させる事が間違いだったと思うけど。
てんやわんやあったけど、どうにか第1ポイントをクリアし気合を入れなおして第2ポイントを目指そうとしたところで。
「お腹が減って力が出ないよ~う」
顔の濡れたパンみたいな事を言い出したシホがその場にへたり込むと云う事態が。……まあ、仕方ない。シホのさっきの活躍からすれば、相当のエネルギーを使ったはずだろうし。
「ちょっと早いけどお昼にしよっか」
ちょっとどころではなくまだ2時間は早いけど。シホの働きに免じ私は昼食を許可する事にした。しかし。ここで大問題が発生する。
「足りない」
木陰に腰掛けお弁当を広げる事30秒。生徒にそれぞれ配られてあったおにぎりセットをシホは一瞬で食べつくした。
……そりゃそうだよね。シホはいっつも人の5倍~10倍は食べるんだから。迂闊だった。いつもの給食と違っておかわりが出来ないんだから、お弁当5、6個キープしとくべきだった。
あきらかにエネルギーが充填されてないシホに、私は自分のおにぎりセットを差し出す。
「食べていいよ。アンタに倒れられるとこの先困るから」
「でも、ララちゃんがお腹空いちゃう!」
「私は1食ぐらい抜いたって平気。てか空腹で動けなくなったアンタを抱えなくちゃならない事態の方が100倍恐い」
「ら、ララちゃん……ありがとう!!」
感激で涙を流しながらシホは私のおにぎりセットも一瞬で食べ尽くした。けれど、やっぱり2個でもまだ足りなさそう。すると。
「シホちゃん、あたしのも食べて。さっき担いでくれたお礼~」
マナも自分のおにぎりセットを差し出す。シホはやっぱり感激の涙を流しながらありがたくそれを頂いた。
「苺大福もあげます」
「ありがとうマナちゃん! 美味しいよ!」
そうして3人分のお弁当と苺大福を食べつくしたシホはようやく“動けないほど空腹”の状態から“小腹が空いてる程度”まで回復した。よし。後はシホのエネルギーが切れる前にゴールしなくっちゃ。
そう思い慌てて立ち上がると。
ギュ~クルル
…………愉快な音がマナのお腹から鳴り響いたのが聞こえた。そうだ忘れてた。コイツも空腹だったんだっけ。
「鳴ってしまった」
腹の虫を聞かれて照れくさそうに笑うマナ。今さらそんな事で照れるな。
「ゴメンねマナちゃん! 私がお弁当食べちゃったばっかりに!」
「いいよー。あたしにはキャラメルがあるし」
ヘニャヘニャとした笑顔でキャラメルを食べようとするマナの口に、私は自分の持っていた都コンブも詰め込んでおいた。これで少しはお腹膨れるでしょ。
「わあ、甘酸っぱしょっぱい」
口の中でキャラメルとコンブを融合させながらどこか楽しそうなマナの手を引くと、私は再び次のチェックポイントに向かって歩き出した。




