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第一話 先生、ホウキが飛びません!

第1話 先生、ホウキが飛びません!




「ララちゃん、あたしに魔法教えて?」


 高浜マナはそう言って私に苺大福を差し出してきた。……依頼料のつもりだろうか?結んだ前髪をミョンミョンと揺らしながら、ニコニコと笑う間抜けな笑顔が実にムカつく。


「絶対ヤダ」


 強くそう言い切ってやれば、マナは一瞬悲しげに眉を顰めたものの口元のカーブを崩す事はなかった。


「苺大福あげます」


 いらないし。ああ、もう本当にムカつく、このポンコツ魔女。


 高浜マナはこの私立葛飾女子高等学校魔法学科に於いて、群を抜いた劣等生だ。入学式から5日経った今、私はマナのクラスメイトで寮のルームメイトでもありながら、コイツが魔法を使ったのを1度たりとも見たことが無い。


 最初の授業で基礎中の基礎であるホウキ飛翔の練習中に


「先生! ホウキが飛びません!」


と高らかに言い切りクラス中をざわつかせた事を私は今でも覚えている。


 今の世の中、魔法の能力を持った人間は全人口の0,1パーセントにも満たない。だから別に魔法が使えない事自体が珍しい訳でもいけない訳でもない。問題は、なぜ魔法が使えないのにわざわざ【魔法学科】を専攻したのかと言う事だ。


 その後の授業でもことごとく魔法が使えず醜態を晒すマナに


「アンタ、どうしてこの学校受かったの?」


と聞いてみれば


「AO入学!」


との答えが元気良く返って来た。……AO入学って……幾らなんでも限度があるだろうに。選考委員はもっとちゃんと仕事しろ。


 そんなわけで入学から1週間も経たないというのに、マナは見事学校一の劣等生という不名誉このうえない看板をドドンと掲げて暮らしている。


 しかし、この子は生粋のアホなんだろう。ホウキでひとり飛べなくても、小さな火花さえ指から散らせなくても、いっつもニコニコニコニコ阿呆みたいな笑顔を絶やさない。

 そしてお人よしだけど明るい性格のせいもあってか、超絶劣等性にも関わらず、どうやら友達は多いようだ。少なくとも、人嫌いでキッツイ性格の私よりは友達は多い。



「アンタ他に友達いるでしょ。仲いい子に教わればいいじゃん」


 夕食後、寮の部屋で私に恭しく苺大福を差し出しながら魔法の教授を願い出てきたマナに、私は冷たくそう言って背を向けた。けれど、マナは食い下がる。


「ララちゃんがいい。ルームメイトだし、1年生で1番魔法が上手いから」


 確かに私は運悪くこのポンコツのルームメイトだし、若干15歳にして悪魔召喚が出来る希有の天才魔女だけど。でもだからって、コイツの面倒をみる義理は無い。


「私に教わらず補習でもなんでも受ければいいじゃん」


「受けてるよ」


 えっ、受けててその体たらくなの?マナの更なるポンコツっぷりに思わず心の中で驚いてしまった。


「ララちゃんは魔法が上手いしクラスもお部屋も一緒だから、あたしララちゃんに教わりたいなあ」


 どうしてコイツはこんなホワホワとした笑顔で言うのか。タンポポの綿毛みたいなオーラだ。吹き散らしてやりたい。


「ヤダって言ってるでしょ。大体アンタに魔法教えて私になんの得があるのよ」


「苺大福あげます」


「いらないってば」


「キャラメルも」


「い・ら・な・い」


 馬鹿にしてんのかコイツは。ムカつきが治まらなくなって来た私は自分のベッドへ転がり込むと、素早く手で印を切って空中に結界を張った。


「もう喋りかけるな。こっちに入ってきたら黒焦げになるからね」


 マナは宙に青白く光る魔方陣を見て慌てて後ずさると、そのまま椅子に足を引っ掛けて転倒した。なんて馬鹿だ。


 大丈夫?と声を掛けようとしたけれど、痛そうに頭を撫でながらもやっぱりヘラヘラ笑ってるマナの顔を見て、私はベッドの上でそのまま背を向け目を閉じた。



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