2-3 改稿版
2016/04/06
2-2、2-3は話の展開が性急すぎるので消去して、書き直しました。
2-2改稿版から最新話でございます。
作中の日付の設定も25日のクリスマスから、24日クリスマス・イブに変更でございます。
お手数ですが2-2話からお読みになって頂ければ幸いでございます。
夕食をご馳走になったイチは、お礼の代わりと言うことで今現在、台所の掃除を行なっている。
本当は食器を洗うだけだったのだが、シンクの中には使用済みの調理器具や、野菜の皮や灰汁で汚れていた。
いくら美味しい料理が作れたとしても、後片付けができていないことにイチは「まだまだ、だね」と呟きながらジャージの袖を捲って気合を入れる。
それを見ていたレギは「あ、後でちゃんと片づけるつもりだったんだよ」と、言い訳をするが、後回しにする人に限って、何かと理由をつけてはやらないであろう。
その事を経験則で分かるイチは首を横に振って掃除を始めたのだ。
「そういえば……ケーキを買っていたんだよ」
「本当に!? それじゃ~お茶の準備をしてくるね」
掃除も終わり一息付いた頃、イチは自分がケーキを買ってきたことを思い出した。
イチはケーキ取りに、荷物を放置してある玄関へと向かい、レギは紅茶の準備と受け取り皿を準備するためキチンへと歩く。
紅茶缶やティーポッドにティーカップを二つ、ミルクピッチャーとシュガーポットをお盆の上に載せて、イニングへ行くと、そこには先ほどと同じ姿勢でイチが黄昏れていた。
彼の前に置かれているケーキの白い箱は、所々が水を吸ってふやけている。それぐらいならイチも落ち込むことはないのだが、箱を縛っているピンクのリボンが解かれており、中は相当酷い事になっているに違いない。
覚悟を決めたレギは一気に箱を開けると、剥き出しのスポンジ生地は所々が無残にも欠けており、フルーツなどは辺りに散らばっている。
更に、持ち上げた箱が異様に重いと感じて中を見ると、クリームが内側にギッシリと付着しているでないか。
確かにこれなら落ち込むな。と、苦笑いを浮かべるレギは紅茶の準備をして、ケーキを切り分ける。
箱についた生クリームをナイフで取り、ケーキの周りを白くデコレーションして、散乱しているフルーツを上に置けば、充分にケーキだ。
「気を遣わせてゴメンね?」
ケーキと聞いて舞い上がって自分がコレを見たらガッカリするのでないかと、途方に暮れていたイチに言葉を掛けるレギ。
「それよりこっちこそ……こんなケーキでゴメンな」
二人の皿の上に置かれているケーキのデコレーションは素人臭いが、まだましだ。
それよりも、テーブルの中央に置かれている悲惨なケーキだったモノを見れば、いくら男同士のクリスマスとは言えコレじゃあんまりだ。と、罪悪感に苛まれるイチ。
そんな彼にレギは赤い包装紙でラッピングされた包みをテーブルの下から取り出すと、イチへと向ける。
「ちょっと早いけど、メリ~・クリスマス!」
「え、プレゼント……」
毎年イチは何かしらレギからプレゼント貰っているが、自分からは渡したことがないし、催促されたこともない。
その代わりイチはクリスマスディナーを作っていたのだが、今年の料理はレギが作ってしまった。さらに追い打ちを掛けるように、プレゼントを贈ってきのである。
それに比べて自分はどうか? 得体の知れないびしょ濡れの女の子と言う厄介ごとを連れてきて、ケーキはぐちゃぐちゃでプレゼントもない。
「本当に気にしなくて良いからね? イチは毎日、ご飯作ってくれているから、そのお礼だよ。安物だけどね!」
わざわざ相手に気を遣わせないようにと安物だと言い、さらにプレゼントを贈らなくても言い理由まで添えるレギを見て、コレがイケメンか! と、イチは驚愕する。
驚くイチを見てレギは照れくさそうに笑う。性別を感じさせないその笑顔を見れば、胸の鼓動は早まり、イチも気恥ずかしそうに顔をそむける。
(レギが女の子だったら……)
惜しい。あまりにも惜しい。こんな事ならレギが女の子になりますようにと、流れ星にお願いすればよかったな。とイチは真剣に後悔する。
プレゼントを貰ったと言うのに気むずかしい顔をされれば、贈った方はたまったもんじゃない。
「もしかして……余計なことだったかな?」
「イヤイヤイヤ、全然、全然そんな事ないよ!? 開けても言い、てか開けるけどな!」
レギが寂しい笑顔を見せるので、焦るイチは包装紙を力任せに破り中身を取り出す。
「ははは、プレゼントってコレか!」
「えっと、どうしたの?」
プレゼントの中を見るなり笑い出すイチ。その声には嘲罵の色は含まれていない。逆に心のそこからプレゼントを喜んでいるようだ。
何故そこまで喜んでいるのか解らないレギが首を傾げていると、イチは赤いマフラーを手に取り言う。
「いやさ、俺も雪華のために安物のマフラーをプレゼントで買ったんだよ。それも赤いやつを繁華街の○×店で。これもそうだろ?」
「イチもあの店で買ったの!?」
「ああ、だからそれが可笑しくて……似たもの同士だな」
マフラーの話で盛り上がり、イチは指輪を買いに行って失敗した体験談を語っていると、遠くから着信音が鳴り響く。
その着信音は玄関から聞こえてきており、イチが濡れた荷物を置いている場所だ。
自分のスマホの着信音だと分かると、イチは不意に時計を見る。
すでに時刻は十の針を過ぎ、もうすぐ十一時だ。時間を確認するとイチは、俯いて呟く。
「今夜は……帰りたくないの」
「現実逃避してないで、早く電話に出ないと、後が怖いんじゃない?」
ゴクリ。と、生唾を飲み込んだイチは、ゆっくりとした動作で玄関へと向う。それまでに切れればいいな。と思うが、相手の気は長いようだ。
鞄からスマホを取り出すと、液晶ディスプレイにはたった一文字だけ『母』と、着信主を示す単語が映り出されていた。
イチは大きく息を吸い込み気合を入れて、画面にタッチする。
「もしも――」
『アンタは! 今何時か分かる!? 何処にいるの!』
「今はレギの――」
『レギ君の所に居るなら何で連絡しないの! 泊まるなら、泊まるってちゃんと電話しなさい!』
「はい。ごめん――」
『謝るのは家で、顔を見ながらしなさい! 五分よ。五分以内に帰ってきなさい!』
「分かりました。直ぐに帰ります」
『まったく! 本当にまったく! それじゃカウント始めるわよ? い~~ち――』
いきなりカウントダウンが始まり、イチは直ぐさま通話を切ると同時に走ってダイニングへと向う。
慌ただしく響き渡る足音に、レギは半笑いでお茶を飲む。
「ご愁傷様かな?」
「やべ~よ。あと五分以内に帰ってこいって……濡れた服を持って帰るから、ビニールくれないか?」
「はいどうぞ」
すでに準備していたビニール袋を手渡すレギ。それを受け取りお礼を言うと、バスルームへと走る。
濡れた制服を袋の中へと押し込み、玄関へと向う。
鞄を肩に掛け、雪華の為のプレゼンを小脇に抱えると、レギが声を掛けてきた。
「コレを忘れるなんて酷いじゃないか」
冗談交じりの声で赤いマフラーを首に巻いてくれる。
「悪い悪い、それじゃ帰るわ!」
「おばさんにヨロシクね」
「直接言うのはどうだ? 久しぶりに俺んちでお泊まりしようぜ!」
客人がいれば怒られるのも和らぐかも知れないと、打算的な提案をするが、レギは首を横に振って言う。
「ほら、イチが連れてきたお客様をほっとくわけにも行かないでしょ?」
「ああ、そうだよな……チクショウ!」
と、叫びながらドアを開けるイチは、レギに向って人差し指を向けて大きな声を上げる。
「寝ている子に変な子とするなよ!」
「人の事より、自分の事を心配しないと……あと四分もないんじゃないか?」
余裕の表情で切り返せば、イチは顔を青くさせて走りだす。レギは玄関から外に出て、廊下を走って行くイチを見ながらスマホを取り出す。
「明日の朝食は、あの子の分も合わせて三人前でお願いします。ちなみに洋食がオススメかな?」
メッセージを送ると、マンションからでたイチがスマホのディスプレイ大きく振りながら「分かった!」と、叫びながら走り去る。
そんな彼の姿が見えなくなるまで、レギは廊下にもたれ掛りながら眺めているのであった。