2-2 改稿版
2016/04/06
2-2、2-3は話の展開が性急すぎるので消去して、書き直しました。
こちらの改稿版から最新話でございます。
作中の日付の設定も25日のクリスマスから、24日クリスマス・イブに変更でございます。
お手数ですがこちらからの話からお読みになって頂ければ幸いでございます。
「はぁ~、よりによって何であんなタイミングで」
義妹の雪華にはやんごとなき誤解をされ、親友に局部を見せ付けてしまったイチ。
彼は今、ダイニングテーブルの上に両膝をついて指を絡ませ、その上に額を乗せて項垂れていた。
ああ~、雪華の誤解はどうやって解こう。そもそも、友人宅で裸になっているだけで不潔って話が出るんだ。もしかして、アレなのではないか……腐女子。あんなに可愛かった義妹が腐って――いや待て、男同士が不潔って事は、違うか。よかった、腐女子の義妹はいなかったんだ。しかし――。
などと、どんよりとしたオーラを滲み出しながら呟く。
「イチ~ご飯が冷めないうちに食べようよ」
先ほどまでは花瓶に活けられていた青い花しかなかったのだが、イチが顔を上げると目の前には料理が並べられていた。
シチューの中には大きめに切られて人参のオレンジ色とブロッコリーの緑が鮮やかに彩られ、皿の隣にはトーストされたバケットが置かれている。
テーブルの中央にあるサラダは、千切ったレタスを皿の底に敷き、厚切りのトマトが並べられており、その上にはモッツァレラチーズと、生ハムで花を作ろうと奮闘した夢の後が添えられていた。
「これまた、手の込んだ料理を作ったな」
「初めてだけど……よっと、上手にできているでしょ?」
そう言いながらレギは、メインディッシュの鶏の丸焼きにナイフ入れながら、自慢げに話す。
レシピ本を何冊も買い込み勉強して、動画投稿サイトをいくつも視聴しながら調理の仕方を学ぶ。
その結果が目の前に並ぶ料理の数々だ。
イチは早速バケットを手に取り、シチューの中にバケットを突っこみたいが、我慢する。
未だにレギは鶏の丸焼きの解体に手こずっていた。
「先に食べてていいよ?」
気を遣ったレギがそう言うのだが、イチは首を横に振り言う。
「せっかくだから一緒に食べようぜ」
「ちょっとだけ待っててね」と、レギが笑いながら言うと、右手に持つナイフに力を込めて切り分けていく。
先ほどまでは見てくれを気にしながら、どこかお上品に切る姿を演じたのだが、もうその必要は無い。それよりも友人を待たせる方が問題だと考えるレギは、乱雑に解体したドラムの部位を小皿に別けイチに渡した。
「食べていいのか?」
「さっきから、いいって言っているじゃないか」
二人は手を合わせて「いただきます」と言うと、会話を楽しみながら料理を食べる。
「どう、美味しい?」
「すげー美味いよ。これならもう、俺が料理を作りに来る必要はないな」
「いや、それはちょっと困るかな……はは」
料理の出来を褒められるのは嬉しいが、正直言って作るのは面倒くさい。それを毎日やれと言われれば――苦笑いを浮かべて頭を掻くレギ。
彼の一人暮らし歴が長い。その間ずっと自炊をしていなかったので、自然と出来合いの総菜やら、レトルト食品を食べていた。
その事を知ったイチは毎日、毎日、通い妻――元い、通い夫の如く朝晩のご飯を作り来ており、土日は泊まりがけで、独りぼっちのレギのお節介を焼いていたのだ。
その事に対して後ろめたさがあるレギ。けれど今更インスタント食品とレトルトだけの生活に戻るのは、心の底からゴメンである。
何とかしてこの話題を変えるべく、レギは思い出した様に口を開く。
「そう言えば、さぁ。何処で拾ってきたの」
「…………ッ」
ビクン! と体が引き攣り、動悸が激しくなるイチ。別段やましい事をしたつもりはないが、レギの物言いが余りにも素っ気なさ過ぎた。まるで、道端で段ボールに入れられ捨てられている犬猫を拾ってきたときと同じ対応に思える。
だからこそイチの脳内では落ちてきた少女と、捨て犬猫が重なり、いけないプレイをしている感覚に襲われるのだ。
「いやさぁ~、信じられない話しだけど……空から女の子が落ちてきたんだよ。それも、池のど真ん中に」
「ああ……それで、びしょ濡れだったんだ」
「そうそう。まさか十二月の池に飛び込むなんて思いよよらなかったよ」
事のあらましを告げるイチは笑いながら喋っていたのだが、段々と表情を険しくさせて腕を組む。
自分で言っておきながら、まったくもって信じられない話しだ。
「どうしたのイチ?」
「その……な、レギは信じるのか? 今の話しを」
「イチはくだらない嘘をつく人間じゃないからね、信じているよ」
全面的に迷わず肯定するレギの態度が嬉しくて、食事中にも関わらず抱きしめたいと思うが、埃が舞い上がるし、ホモ疑惑を持たれたくないので止める。
学校でも散々、腐女子達の餌になっているので、ガソリンタンクを抱えながら火中に飛び込む真似はしない。例え人の目がなくてもだ。
それはさて置き、イチがこうも不安に思っている理由は件の少女が食卓に居ないからである。
空から落ちてきた少女の姿が見えなくて、だからこそ自分が助けたのは幻でないかと思ってしまう。
そもそも人は鳥のように空は飛べないし、空から落ちてくる状況と言えばスカイダイビングや、航空機の事故、あるいは高いところからの飛び下りぐらいか。
しかし、あの少女は落下する。というよりは浮かびながらゆっくりと降下。という言葉がしっくりくる。
その様な光景を目の当たりにすれば、普通の人やそうでない人でも自分の正気を疑うであろう。
たとえ端末機器に画像や動画を残していても。
「あの子って何者なんだろうな。宇宙人とか?」
真剣な表情でイチは呟く。対面に座るレギは口元に運んでいる最中の手が止まり苦笑いを浮かべる。
何でよりによって宇宙人なんだ。もっとこう別の可能性は思い浮かばないのか。君が拾い上げてのは女の子だっただろ。銀色の皮膚に子供サイズの背丈でもなく、はたまた触手が生えているわけでもないのに……宇宙人なんてあんまりだ。
などと複雑な感情を顔には出さずに思い浮かべるレギは、スプーンを皿の上に置き言う。
「宇宙人はないんじゃないかな?」
「でも、それだと……レギはなんだと思う」
「……本人に聞いてみるのが一番だね」
何か口に出したそうにするレギだが、視線を落としてここには居ない少女に全てをゆだねる。
「それもそうか」と言うイチは納得がいったと言わんばかりの表情だ。
そして、肝心のここに居ない少女の事について尋ねるのは自然の流れだろう。
「なぁレギ……」
「なに?」
「あの子は今どこに?」
「客室で眠っているけど、どうかしたの?」
「体を拭いて?」
「そうしないと風邪を引くでしょ」
大きく息を吸い込み、自分の心の中でくすぶる黒いモヤモヤを吐き出すイチ。
目の前で深い深呼吸をする友人を見て、レギはスプーンを口に咥えて首を傾げる。
「いやさ、お前がイケメンで女の子にモテるのは解るよ。でもよ……」
突然何を言い出すんだと眉を顰めるレギ。彼のことなどお構いなしにイチは言葉を続ける。
「気を失っている女の子の体を弄るのは人として、ね?」
本当に何を言っているんだと、理解できないレギ。そんな彼を見てイチは、すっかり友人は遠くの世界――大人の階段を昇ったんだなと、寂しいさと妬みが込み上げる。
そんな絶望という色に染まったイチの顔を見て、レギはハッと気づく。彼も何か誤解をしているのでないか?
雪華といい、イチといい、似たもの義兄弟だなと苦笑いを浮かべながら言う。
「別にやましい事をしたわけじゃないんだよ?」
「本当に? でも体とか拭いたのなら……その、凄かった?」
「…………」
「ほら、ここに来るまでにあの子を背負って来た訳じゃん。でも濡れてて滑るから、落ちないようにお尻をしっかりと掴むのは不可抗力で――」
彼がいきなりこんな話しをしだしたのは、女の子の裸を見てであろうレギに対して対抗心を燃やしたからか。
レギはカタカタとスプーンを持つ手を振るわせながら、呆然とイチのカミングアウトを聞いていく。
「手の感覚は正直なかったけど……とっても柔らかかったんだよ。背中に押しつけられているモノのそうとな逸品だったね」
「…………ッ!」
「それでね、やっぱり凄かった?」
彼女の正体や、なぜ空から落ちてきたのか色々と聞きたい事はあるのだが、なんだかんだ言ってもイチは思春期であり、女の子の体に興味が行くのは仕方がないことだ。
イチの期待の籠もった視線を受けて少女の体を思い出したのか、レギは顔を真っ赤にして言う。
「だ・か・ら! やましい気持ちなんて一切ないし、あの体に興味なんてないよ!」
声を荒げて叫ぶレギの姿はまるで、小学生がからかわれて躍起になって反抗するそれである。
大人になったと思っていた友人がまだまだ子供である事が分かると、イチはホッと胸をなで下ろした。
そんな彼もまだまだ未熟者である。