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1-1

 チラチラと白い雪が舞い落ちる十二月。

 とある高等学校の一室では、ひときは盛大な賑わいをみせていた。

 やれ『ホワイトクリスマスね』や『今日は彼氏と外泊なの~』などと甲高い女子生徒の声が響く。

 そんな中、一人の少年は椅子に座ったまま腕を組んで瞑目していた。


 彼の名は菖蒲(アヤメ) 一八(イチハツ)

 思春期の多感な男子生徒からは、一発、一発と腰を振りながらよばれ、アヤメという女の子っぽい名字にコンプレックスを持っていた。

 だからといって決して虐められているわけでもなく、友達がいないと言う訳でも無い。

 その証拠にイチハツの元へと一人の少年が歩み寄る。

 訂正。少年の後ろには複数の女子生徒が群がっており、後ろから必死に声を掛けている。

 

「ねぇ、レギ君。今日は暇なの?」

「そうだよ、せっかくのクリスマスだし一緒に遊ぼうよ!」

「えぇ~レギ君はうちらと遊ぶんだよ~」

「そうだよね~レギ君」


 レギと呼ばれる少年の名前はレギーナ・デア・ファトス。彼を一言で表すなら、俗に言うイケメンという言葉がしっくりくる。

 周りにいる少女達の黒髪とは異なり、うなじを隠す程度に伸びた髪は綺麗な金髪。整った顔立は思わず男でも息を飲むほどだ。

 背はさほど高くはないが、気さくで裏を感じさせない性格は全学年の女子生徒だけではなく、男子生徒からも評判は高い。

 どうでもいい話だが、一部の男子には熱狂的なファンが居るとか居ないとか――。


 それはさておき、レギの腕を掴んで纏わり付く女子生徒達に苦笑いを浮かべ、彼は苦笑しながら言う。


「ゴメンね。クリスマスは毎年()()と過ごしているから、予定が埋まっているんだよ」


 その一言を切っ掛けに周りの女子生徒から「「「「ええぇぇぇ~」」」」と、不満の声が上がる。

 近くに席に座るイチは自分の名前が呼ばれると、恐る恐る目を開く。

 彼の目に映るのは手を振ってにこやかに笑うイケメンのレギ。その後ろには嫉妬の炎に目を燃やす女子生徒達。


(またか……毎年の事ながら……レギが悪いわけでもないから、文句も言えないんだよな)


 嫉妬の籠もった視線を一斉に浴びるとげんなりした表情になるイチ。

 そんな彼の後ろから巨躯の男が肩をバシバシと叩きながら大きな声を上げる。


「レギとばっかり遊んでないで、俺とも遊べよ――いえ、遊んで下さい!」


 二メートル程だろうか、思わず見上げてしまうほどのガタイのいい男は頭を深々と下げて謙る。

 しかし、女子生徒達は深い、深いため息を零して言う。


「イヤよ、どうせ相撲の話しばっかりでしょ?」

「○×高の友達から聞いたけど、アンタ合コンで永遠と相撲について語っていたんでしょ?」

「何が悲しくてクリスマスの日に廻しの話しに花咲かせないと言えないわけ?」

「レギ君とアンタを比べたら、横綱と幕下よ!」


 一方的な物言いに男はプルプルと肩を震わせながら、一歩前に出て叫ぶ。


「言い過ぎだろお前ら! そんなに文句ばっかり言っていると、廻し一丁で四股踏むぞ! 今ここで四股踏むぞ! 四股四股! あと、最後に幕下って言った奴……好きだ!」


 一斉にため息を漏らし「うわーサイテー」と、彼女達は言葉を吐き捨てるなり、その場から離れていく。

 男はイチの方に振り返ると涙目で親指を立てていた。 

 まるで、「お前を虐める奴は追い払ったぞ!」と言わんばかりである。

 そんな彼を見てため息を零す男がいた。

 彼はイチの元へ来るなり頭を下げる。


「弟がすまんな」

「いやいや(つとむ)には感謝しているよ、賢治(けんじ)

「ほら見ろ兄貴! 俺は間違ってない。負けたけど、勝っていない!」


 ドヤ顔でポージングを決める(つとむ)と呼ばれる大柄な男の言葉を聞いて、兄貴と呼ばれる賢治(けんじ)は頭を押さえる。

 彼らは双子の兄弟で、大柄な男の名前は谷風(たにかぜ) (つとむ)

 スポーツ全般なら何でも熟し、身長二メートルの巨体は相撲部にとって期待の星だ。


 もう一人の兄貴と呼ばれる男は谷風(たにかぜ) 賢治(けんじ)

 弟の(つとむ)とは違い、細身の体。しかし入学以来、全てのテストで満点をたたき出している頭脳の持ち主。

 まったくもって似ても似つかない双子の凸凹兄弟だが、学年においては有名人である。


「いつもいつも迷惑掛けてゴメンね」

 

 三人でワイワイと話しているとレギが申し訳なさそうに、右手をチョップする――片手拝みをしながら話しの輪に入ってきた。

 妙に日本人臭い仕草がイチのツボに入ったのか、彼は笑いながら口を開く。


「気にしてないよ。それよりも今年も遊びに行って良いんだろ?」

「うん、問題無いよ。今年は僕が料理を作るよ」


 イチの笑顔につられてレギは嬉しそうに顔を綻ばせる。と、同時に教室の一部や廊下から黄色い声が沸き起こる。


「きゃー! やっぱり王道はイチ×レギきゅんよね!」

「でもでも、イチは総受けだと思うの! ほら、双子兄弟からの獣じみた愛が……ふふ」

「やっぱり俺、レギきゅん見ていると、胸が苦しい……赤い実がはじけたかも」


 (いや、爆ぜろよお前ら!)と、心の中で怨嗟の籠もった言葉が浮かぶが口には出さないイチ。

 表情を硬くさせて腕を組むイチを見て(つとむ)は言う。


「お前達ってホント仲が良いよな」

「そうだな、昔はあんなに仲が悪かったのに。毎日顔を合わせる度に喧嘩していたな」


 ニヤニヤと笑いながら賢治が昔を思い出して口を開くと、レギは恥ずかしそうに頬を染めて俯く。

 辺りから又もや黄色い声が沸き起こり、イチはそれを鎮めるべく話題を変えることに。


「そんな事より、お前達の今日の予定は?」

「「とりあえず、ナンパかな?」」


 何食わぬ顔で、仕事帰りのサラリーマンが居酒屋で生ビールを注文するかの様に、凸凹兄弟は双子らしく見事にハモって言うのだが、質問への回答が余りにも俗すぎる。

 イチは目眩がしそうな頭を押さえていると、(つとむ)が近くの席に座りながら言う。


「そう言うイチの予定は? レギの家に行くだけか?」

「いや、八時まで日雇いのケーキ屋でバイト。その後は義妹のプレゼントを買って、レギの家だな」

「いやまて、イチ。お前、なんでクリスマスにケーキ屋のバイトなんだ? しかも日雇いって……お前まさか」


 予定を告げた途端に賢治が眉を顰めて話しに割って入る。

 これから言われることを予想してイチが顔を逸らすと、賢治は「はぁ~」と、ワザとらしくため息を零し、弟の(つとむ)は腕を組んで苦笑いを浮かべた。

 三者三様の有様をみてレギは口元を手で隠しながら言う。


「イチの良い所は優しいところだね。だから一緒に居たいって思えるけど……逆に悪いところは――」


「「「お人好しの所だね」」」


 三人が見事に同じ事を言うのでイチは項垂れ、レギは自分の口まねをした双子に文句を言っていると、授業を知らせるチャイムが鳴り響く。

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