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2-5 

2016/04/17

改稿しました。

お風呂回を中途半端に使うのは勿体ないので。


  風呂から上がったイチは、まだ少しだけ湿っている髪の事など気にせずにベッドに仰向けで倒れ込むと、眩しすぎる照明を遮る様に瞼を落としながら、彼は今日一日の出来事を振り返る。

 せっかくのクリスマスイブだというのに、半ば無理矢理バイトをする事になったが、結果的には義妹、雪華の友人と少し良い雰囲気になれた。

 それに、雪華の意外な一面も見られたし、友人のレギが初めて手料理を振る舞うという珍事も起きた。

 更に、雪華のためにクリスマスプレゼントを贈れば、彼女とレギも同じ赤いマフラーを選んでおり、三人とも贈り物がダブってしまっていた。


 ここまでの出来事なら、青春の一ページとして思い出に残る話しだ。

 だが――だがしかし、今日の出来事はそれだけではない。

 もっと重要で、今日おきた全ての出来事が色あせてしまうほど衝撃的な事件が――夜空から少女が落ちてきたのだ。

 口に出して言えば余りにも荒唐無稽な話しであり、その場に居合わせたイチ本人も未だに実感がない。


 明日になれば、あの少女は目を覚まし話しを聞けるかも知れないが、聞いてどうなるのか?

 そもそも言葉は通じるのか――いきなり襲われるという事態もあるかも知れない。

 段々とネガティブな事態ばかりが脳裏をよぎる。

 そう、冷静に考えれば考えるほど怖くなってくるのだ。

 (普通の高校生の自分に何が出来るのか?)と悩むイチはゆっくりと瞼を持ち上げる。

 LEDの照明がチカチカと瞳に入り込むと不快ではあるが、少女の事から意識が逸れるので丁度良い。

 けれど、長時間見続けることもできず、腕で顔を隠して瞑目するイチは明日の朝食の献立を考える。

 そうした方が現実的――否、現実逃避を始めるイチ。


「はぁぁぁ~……疲れた」


 思わずため息がこぼれた。体の奥底から息を吐き出せば、疲れまでも抜けていくかのようだ。


「お疲れです、兄さん」

「疲れたと言うか……うん、やっぱり疲れた」


 ベッドに体を沈ませて、脱力しきっているイチはふと目を見開く。

 独り言を呟いたつもりだが返事が返ってきた。

 それも鈴を転がしたような高い声だ。


 イチは腕をどかして首を横に向けた先には、組んだ両腕をベッドの端に置き、その上に頬を預けている雪華が心配そうに見つめていた。

 お互いに無言で見つめ合っていると、不意に雪華が手を伸ばす。


「熱はないみたいですが、お体の方はどうですか?」

「……いや、先も母さんに言ったけど……体の方はだ、大丈夫だよ」


 額に添えられた雪華の手はひんやりと冷たくて体の熱を奪っていくが、高まる鼓動が全身に熱い血液を循環させればイチの頬は赤く染まっていく。

 彼女を女性と意識したことは一切なかったイチだが、紛れもなく雪華は血の繋がらない一人の女である。たとえ戸籍上は義兄弟姉妹だとしても。


 先ほどまでは真剣に色々と考えていたが、そこは思春期まっただなかの男の子。空から落ちてきた少女の事から一気に思考が雪華へと移り変わる。

 どうして雪華が自分の部屋にいるんだ。いつの間に――と、混乱しているイチとは対照的に、穏やかな表情の雪華は伸ばした手を額から上へとずらし、頭を撫でる。

 義妹に子供扱いされたことに屈辱感はないが、気恥ずかしさを覚えたイチはそれを紛らわす様に口を開く。


「ど、どうしたんだ雪華。何か用事でもあるのか?」


 声が上擦り、イチは更に羞恥に悶える。

 そんな彼の声を聞くと雪華の手はピタリと止まり、イチを見つめて何度も瞬きを繰り返す。


「……そ、そのですね、お母さんから温かい飲み物を持って行くように……言われて」


 頭から手を離した雪華はその手を握り、消え入りそうなか細い声を発しながら頬を赤く染めて俯く。

 雪華はイチが友人の家で裸でいるのを見て兄が取られると焦るが、それがタダの勘違いと解り安堵していた。

 しかし、いずれ自分から遠く離れていくかと思えば――自然と手が動いたのだ。

 自分の取った行動に対して、今すぐにでも枕に顔を埋くめて足をばたつかせたい雪華。

 その悶える心を隠す様に、イチの机に置かれたマグカップを手に取る。


「体が温まりますよ。飲みますか?」

「あ、ああ。ありがとう、頂くよ」


 湯気が立ち上るマグカップを受け取るため、イチは体を起してベッドの端に座る。

 床に座っている雪華はイチと目線を合わすため立ち上がると、彼の横を見つめるが、学習机の椅子を引いてそこに座ることにした。

 先ほどイチと触れあい満足した雪華。これ以上は自分の身が持たない。今でもイチにバクバクと高鳴る鼓動が聞こえているんじゃないかと不安がる。


 最近やたらと積極的な雪華が、距離をおいて座ってくれたことにイチは内心で安堵して、受け取ったマグカップに口をつけた。

 口の中に温かなミルクが広がり、イチはホッとため息を零す。

 そんな彼を雪華は揃えた膝の上に手を置いて見つめている。

 お互いに無言で何を言えばいいのか、口が開かない。


「そういえば雪華」

「何ですか?」


 この沈黙に耐えきれなくなったイチは、必死に頭を回転させ何かを思い出したかのように口を開いた。


「明日は暇なの?」

「いえ、明日は学校で冬期講習の予定です」

「それじゃ、終わったら連絡をしてね」


 彼女としては、連絡を入れるのは別に問題はないが、その理由が分からず雪華は首を傾げる。

 不思議そうな表情の雪華を見て、イチは苦笑しながら言う。


「指輪、一緒に買いに行くって言っただろ?」

「あ……あれって、本当の事だったんですか!? 冗談とかじゃなくて……ッ!?」


 目を見開き、両手で口元を押させる雪華。イチは顔を逸らしてマグカップを一気に煽る。恥ずかしさのため彼女を直視できないようだ。


「ほら、合格祝いの為に指輪を買うんだから、早く寝なさい。明日は冬期講習なんだろ?」


 そう言いながらイチはマグカップを突き出す。それを両手で受け取った雪華は、ゆっくりと立ち上がり扉へと歩いて行く。


「あの、兄さん……」


 背中を見せたままポツリと雪華が呟く。


「うん? どうした」

「嘘じゃないですよね? 明日になって「ドッキリでした!」って言ったら私……」


 少しだけ振り返る彼女の横顔は、雪の様に冷たく目もつり上がっていた。

 雪華から滲み出るオーラに押されたのか、イチは日和りながらも、しっかりと言う。


「そ、そんな訳ないだろ!」

「そうですよね、明日が待ち遠しいです」


 雪華は身を翻して、頭を深く下げて部屋を後にした。その時の彼女の表情は目尻をだらしなく下げており、イチに何時も見せてくれる顔だった。

 それを確認したイチは深いため息を吐いて、ベッドに倒れ込む。

 謎の少女のに対する不安な気持ちなどは一切頭に残っておらず、安らかに眠りにつけそうだ。


 イチがウトウトとしている頃、雪華は温かいマグカップを握り締めながら、階段を下りていた。

 まだ、ほのかに熱が残るマグカップのように、雪華の心もポカポカと温かくなっている。

 浮かれそうになる足取りを必死に押さえ、ゆっくりと階段を下りていく。


「明日は兄さんとお出かけ……デートって事かな。兄さんと」


 ニヤニヤと笑いながら最後の段を下り、廊下に足がついたところで、ふと雪華は視線を落とす。

 手に持つマグカップを見つめて、廊下の左右を確認する雪華は、ゴクリと喉をならすのであった。

書き直すかも?

キャラクターに感情移入するため3-5話まではこんな展開の予定。

3-5の終わりから、前回消去した2-3の展開にして、ラストまで持って行く感じです。

その為もう少しだけゆっくり展開が続きます。

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