シミラル・ゲーム~最強ゲーマーの俺がゲームの世界に行ったと思ったら最弱モブに?~
目が覚めると、俺の目の前は一面緑。
どこまでも草原が広がっていた。
「おいおい、まさか本当に別の世界に来ちまったのかよ…」
どうやら、本当に異世界に来れたようだ。
なぜ、異世界に来たかというと、遡るほど数時間前に原因はあった。
俺の名前は、岸根景。
高校1年生だ。
またの名を、Kradix。
通称ラディだ。
この二つ名は何かって?
会員数、規模、クオリティ。
どの要素においても、他の追随を許さないと言われるオンラインゲームがある。
"アナザーシャングリラ"通称Aシャン。
そこにおける、俺のプレイヤーネームだ。
そして、このゲームをやっている者でKradixという名前を知らない人間は少ない。
なぜなら、俺は、いやラディはAシャン4大ギルドの一つ"朱翼の旅団"を率いるギルドマスターであり、生きる伝説とまで謳われた最強プレイヤーの一人であったから。
「ちょっと、景?いつまでゲームやってるの?遅刻するよー」
「ちょ、結。今いい所なんだって。」
彼女の名前は、仲町結。
俺の幼馴染であり、俺をゲームの道へと引きずり込んだ張本人だ。
彼女は、毎朝こうして俺が不登校にならないように俺の家までやってくる。
彼女が毎朝やってくるのにはもう一つ理由がある。
それは、彼女自身が不登校にならないようにするためだ。
「ねー。まだー?」
「ちょっと待ってくれよUI」
UIというのは、Aシャンにおける彼女の二つ名だ。
"朱翼の旅団"の副マスター、氷槍の魔術師として有名なプレイヤーでもある。
「ちょっと、現実でその名前呼ばないでよ。学校行きたくなくなるじゃない」
「じゃあ休もうぜ」
「だーめっ」
「わーったよ。支度してくるからちょっと待ってろよ」
「りょーかいっ。あんまり、レディーを待たせないでよね?」
「へいへい」
しかし、それが俺と、結の最後の会話だった。
俺が支度を終え、戻ってきたときには結の姿はどこにもなかった。
「あいつ、おいていきやがったな…。」
俺は、支度が遅くておいて行かれたのかと思った。
だから、急いで学校へ向かう。
しかし、そこにも結の姿は無かった。
「おい、景。今日は夫婦そろって登校しなくていいのかー?」
「あいつなら、先に来てるだろ?」
「え?岸根さんならまだ来ていないぞ?」
級友からの冷やかしによって、彼女がどこかへ消えてしまったことを悟る。
ウソだろ…。
あの一瞬で人が消えるなんてありえないだろ。
俺は、動揺を隠せない。
「なあ、なんかあったのか?」
俺の様子から何か異変を感じ取ったのであろう。
俺の数少ない友人であり、よき理解者である舞岡雄二が話しかけてきた。
「どうしよう、雄二。結が、結が…」
「落ち着け、景。らしくないぞ」
「でも、結が…」
「まずは何があったか説明しろ」
そういわれて、何とか冷静さを取り戻す。
そして、朝にあった出来事を事細かに説明する。
「なるほど…。何か手がかりのようなものはないのか?」
「手がかりって言ったって…」
何かないのか?
何か手がかりになりそうなものは…。
そのとき、ふと結としたあるチャットを思い出す。
「ねーねー、ラディ。そういえば"龍王商団"のハイムさんわかる?」
「それって、4大ギルドのマスターだよな」
「そうそう。なんかその人が神隠しの被害にあったらしいよ」
「神隠し…?」
なんだ、それは?
聞いたことがあるような…。
「ほら、Aシャンやってる人が次々に疾走して、次の日にその人のキャラそっくりのモブがどこかの町に現れたりするって噂」
ああ、やっと思い出した。
確かこのうわさが流れたのは先月くらいだったはず。
それは、人が一人あたとかたもなく一瞬で消えてしまうという事件から始まる。
当時は新聞の隅の方に書かれているような事件だったが、失踪事件が連続して起きるにつれて世間からの関心も強くなっていった。
そんなある日、一人のユーザーが今までに見たことがないモブを発見したという。
すぐにそのモブはどこかへ消えてしまった。
けれど、運よくその姿を見た人は口をそろえてこう言った。
「その姿は確かに、失踪した人物が使っていたキャラにそっくりだった」
Aシャンはキャラメイクの自由度もかなり高く、同じ顔は意図しない限り作れないとも言われるほどだ。
そんな中で、こんな事件があったのだ。
こんな都市伝説がはやるに決まっている。
「あー、あれってどうせウソだろ?運営だって、そのような事実はないって公式発表してたぞ」
「でも、失踪者って共通して、みんなAシャンユーザーなんでしょ?それも、結構有名な人が多いらしいし」
「そりゃ、Aシャンは国内最大級のネトゲだぞ?スマホのアプリからでもチャットとかに参加できるんだぞ?人が多くて当たり前だろ。」
ええー。とUIから、チャットが送られてくる。
どうやら、彼女は本気で信じているらしい。
少し脅してみるか。
「4大ギルドだと、神隠しにあってないのは朱翼だけだし、次は俺たちの番かもな」
俺は、冗談で言ったつもりだった。
「じゃあ、私が消えたらラディは助けに切れくれる?」
俺は、なぜだかその言葉に圧倒され、一瞬キーボードを打つ手が止まってしまう。
「当たり前だろ?」
「そっか♪頼りにしてるぞ!」
確か、会話はここまでだった。
そう、神隠しだ!
思い出した俺は、雄二に神隠しの噂について告げる。
「そんな、噂があったのか。じゃあ消えた人はゲームの中にでも入ったというのかい?」
分かんねえよ。
でも、俺は確かにあの時、結に助けると約束した。
そう思った俺は、もういてもたってもいられなくなる。
「とりあえず、結の家行ってくる。」
「ちょ、おい。あー、もう、わかった。先生方には俺が何とかうまく言っておくよ」
「サンキュな」
そう言って、俺は結の家へと向かう。
けど、やはり結の姿は無かった。
どうして、こんなことに。
とぼとぼと、行くあてもなく俺はただ歩くことしかできなかった。
小さいころ、いじめられていた俺を助けてくれて、ゲームという素晴らしい存在を教えてくれたのが結だ。
結は俺にいろんなことを教えてくれた。
俺にとってのたった一人のかけがえのない存在。
だから、俺は恩を返したい。
いや、俺は結と一緒にいたかっただけなんだ。
そう思った時、マナーモードにしてるはずの携帯から、ピロリンとアプリの通知を知らせる音がする。
「なんで、マナーモードなのに音が…?何のアプリだろ」
そう思って確認すると、その通知はAシャンのアプリからだった。
Aシャンではゲリラボスやメールの通知を知らせたり、ゲーム内のユーザーとチャットをすることができる携帯アプリが存在する。
「メールが届きました。」
メール…?
一体誰が送ってきたんだ?
そう思い、俺はすぐさまメールを確認する。
「宛先人: 」
え…?
俺は何度も画面を見返す。
しかし、宛先人の名前が書かれているはずの場所には空欄しかなかった。
おいおい、こんなことありえねえだろ。
だが、俺はここでふと思う。
もし、失踪事件がAシャンと何か関係があるなら、このありえないメールは何かの手がかりなのでは?
そう思い、メールを開く。
「あなたは、大切な人のために世界を捨てる覚悟がありますか?」
「あなたの答えを待っています。」
たった2文だけ書かれていた。
世界を捨てる覚悟?
俺はこんな世界に未練なんてないさ。
それが、結を助けられるならなおさらだ。
だから、俺は返信ボタンを押して、謎の差出人へと返信を送る。
「そんなもん、いくつだって捨ててやるよ」
メールの返信を送った瞬間、何かで殴られたかのような衝撃が頭を襲う。
そして、俺は意識を失ったのだった。
その結果、今に至る。
だけど、俺はこの景色を知っている。
なぜなら、ここは、俺が現実世界よりも見慣れたAシャンで見ていた景色だったから。
だけど、ゲーム内のステータスが一つも引き継がれていない。
このままじゃ、雑魚敵にすら負けてしまう。
運動のセンスがそこまでよくない俺の、ステータスは言うまでもなく壊滅的だった。
これから、先が不安だが、俺は結を見つけるまで戦って見せるさ。
作品の受けが良ければ、連載化させる予定です。
アイディアが沸いたのでとりあえず、冒頭部分を短編という形でまとめてみました。