ヒヤッとしたジュースの味と、その笑顔と七夕への願いごと
~7月6日~
「うっ…。冷たっ…!」
思わず声がもれる。
いきなり冷たいものが俺の頬にあたった。
「フフッ…。やっぱりここに来てた」
晴夏は俺の顔をまじまじと見ながらそう言った。
「飲む?コーラ?」
「ありがとう。もらうよ」
俺は笑顔でそう言葉を返すと晴夏から冷えたコーラを受け取った。
「本当にこの砂浜が好きなんだね」
晴夏は横に座りながらそう言った。
「もちろん好きに決まってるよ。だってこの砂浜はキミと初めて出会った場所でもあるし」
「フフッ…。またそんなキザなセリフ言っちゃって。やっぱりドラマの見すぎなんじゃない?」
「でも晴夏ってこういうキザなセリフ好きなんじゃないの?」
「うん…。好き」
彼女は顔を赤らめながらそうつぶやいた。
「あっ、そういえば明日は七夕だよ。蒼一君はなんか願い事するの?」
七夕…。晴夏に言われるまでそんな日があるのを忘れていた。
最後に短冊に願い事を書いたのはいつだろう…。
幼稚園だったかな…。小学生の頃だったかな…。
それさえも覚えていない。
「ねぇねぇ、聞いてるの?」
「あぁ、ごめんごめん。願い事かぁ…。新しいカメラが欲しいな」
「えっ?カメラ?前に私を撮ってくれた一眼レフがあるじゃん」
「いや…。それがこのカメラ、中学生の頃に父さんからもらったやつなんだ。大切なものだけど、もう古くて」
俺は手に持ったカメラを見つめながら晴夏にそう言った。
「へ~。カメラかぁ…。なんか意外だな。もっと違うものかと思ってた」
「何、違うものって?」
「永遠の愛とか…?ほら、蒼一君ってドラマの見すぎじゃん。だからこんなことを言うと思ってた」
「あぁ、なんかごめん」
「フフッ…。べつに謝らなくてもいいよ」
こうやってぎこちない二人の会話が進んでいく。
でもこんなささやかな時間がとても幸せだ。
初めて晴夏とこの場所で出会った時、彼女はひどく悲しい表情を浮かべていた。
でも今ではこうして優しい笑みを俺に見せてくれる。
もっと彼女の笑う顔が見たい。
これが俺の本当の願い事だ。
「あっもうこんな時間…。私、帰るね」
「送っていこうか?」
「送るって…。蒼一君のバイク原付きじゃん。原付きは二人乗りダメだよ。大きいバイクの免許取らないの?」
「ごめん俺、自動車学校が大嫌いなんだ」
「フフッ…。なにそれ。いつかバイクの免許をとって私を後ろに乗せてね!」
そう言って晴夏は帰っていった。
俺はその後ろ姿をただぼんやりと眺めていた。
気がつくと手に持ったコーラがすっかり温かくなっていた。
俺はそのコーラを一気に喉に流し込んだ。
~7月7日~
ドン!!
ドサッ!!
急に誰かに背中を押された俺は勢いよく砂浜に倒れこんだ。
「イテテッ…。晴夏だろ?」
「フフッ…。正解!」
後ろを振り向くと笑顔で笑っている彼女がいた。
「この砂浜、なんだか私達の集合場所だね」
彼女は笑いながらそう言った。
そういえばたしかにその通りだ。
俺が砂浜にいて晴夏が来る。
そしていろんな話をする。
この砂浜は二人だけの世界といっても過言ではない。
でもそんな二人だけの世界を俺は大切にしたかった。
「今日、何の日か知ってる?」
「知ってるよ。今日は7月7日、七夕でしょ。奥姫と菱星が出会う日」
「蒼一君!いろいろと違うよ。七夕は織姫と彦星が出会う日だよ」
「え…。ごめん」
「フフッ…。謝らないでよ。あっこれ…。プレゼント!」
そう言った後、晴夏は俺に小包をくれた。
「えっ!?もらってもいいの?」
「もちろん。開けてみて」
ゆっくりと包み紙を開けてみる。
中には真新しい一眼レフが入っていた。
「こんな高いものもらえないよ。俺、晴夏に何もプレゼント用意してないし…」
「いいからいいから。ねっ?それに私、蒼一君からもうプレゼントもらっているよ?」
「えっ…。俺、何か渡したっけ?」
「これ…」
晴夏はポケットから1枚の写真を取り出した。
それは俺が初めて晴夏を撮った時の写真だった。
写真の中で彼女は輝くような笑顔を浮かべながら笑っていた。
「これ…。もらった時、私すっごく嬉しかったの。この写真があるから、今の私があるの。だから、この新しい一眼レフでたくさん私の笑顔を撮って」
微笑みながら、晴夏は俺にそう言った。
「うん…。本当にありがとう。俺、この一眼レフでキミの笑顔をたくさん撮るよ」
「ありがとう。よろしく…ね?」
また彼女は微笑んでくれた。
この笑顔を守りたい。
そして、ずっと見ていたい。
俺は七夕の日にそう心に誓った。
ふと空を見上げると星空がまるで宝石箱をひっくり返したようにキラキラと輝いていた。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
二人の出会いについてはシリーズを参照してみてください。