とあるギルドの説明回
舌の根も乾かぬうちにお待たせして申しわけありません。
「WOW・・・」
正直自分のことながらドン引きである。
さっき、エイダさんは何と言ったか。冒険者でトライ以上は1万人に一人、ペンタ以上に至ってはかつていた勇者のみだと。
それが、これである。
○●○●○●○●○
サエキ ゼン
天職
【賢者】
【錬金術師】
【鍛冶師】
【鑑定士】
【侍】
○●○●○●○●○
「おいおい、こりゃなんの冗談だ」
「私もペンタをこの目で見ることになるとは思いませんでした」
そりゃ俺も自分がかつての勇者と同じような天職になっているとは思ってなかったさ。
「と、ともかくこれで冒険者登録の手続きは終わりましたが、オルガさん、どうしますか?」
「そう、だな。おいゼン、お前はこれからどうするつもりだ?」
「いや、どうするも何も冒険者として活動するつもりです」
「それなら、先に冒険者の意義とルール、あとはこんだけ天職が多いんだ、各職業に関しての説明も聞いていけ。時間はあるか?」
各天職に関する説明をしてくれるというならこっちとしても願ったりかなったりだ。ということで素直に頷くと、オルガが天職に関して語りだした。
「まずはお前の天職に関してだ。お前ほどに天職が多いのは過去勇者しかいなかったが、天職の内容に関してはほとんど既存の天職だ。つうわけで、各天職に関して大まかな説明をする。
まずは【賢者】に関してだ。
【賢者】は先のエイダの説明で【魔術師】と【僧侶】の天職を持つものが目覚めると説明したんだが、それは100%の説明じゃない。正確に言うと現在確認されている【魔術師】【僧侶】【付与術師】【召喚術師】の4種類の天職のうち2つ以上持っているものが目覚めるとされている。
元々持っていた天職がさらに強力なものになり、持っていなかった2つ乃至1つの天職の能力も使えるようになる。
基本的には【魔術師】が攻撃魔術、【僧侶】が回復魔術、【付与術師】が補助魔術を得意としている。【召喚術師】はその名の通り精霊や魔獣などを召喚して戦わせる少し特殊なものだ。
次に【錬金術師】だ。
これは主にポーションなどの薬類、あとは魔法石なんかの合成ができる。
冒険の助けになる多種多様な道具を作れる他、ゴーレムなどを生成して戦闘させることもできる。この辺は【召喚術師】と似ているな。
次に【鍛冶師】。
この天職は基本的に武器防具の生成・修復がメインだ。人によっては鍋や包丁など、日常生活に使うものを作るものもいる。この職を持っているものは9割5分まではドワーフ族でな。人間が持つことはあまりないから人間の中ではレアな天職と言っていい。
次は【鑑定士】
これはエイダと同じ天職だ。あらゆる人・モノを鑑定し、その詳細を知ることができる天職だ。ただ、習熟度によって鑑定の詳細に差が出る。習熟度に関してはいろんなものを鑑定していくことで徐々に上がっていくものだから、冒険中気になったものがあれば積極的に鑑定すると良い。
以上がお前の天職に関しての説明だ。ただ、最後の【侍】という天職は俺の記憶上存在しない天職でな、残念だが教えられることはない。【鑑定士】のスキルは、習熟度が低くても自身への鑑定に限ってかなり詳細までわかるから、【侍】の詳細と【賢者】がどの天職がベースになっているのかは後で調べてみてくれ。」
今の説明を簡単にまとめるなら、俺は戦闘職の【賢者】、生産職の【錬金術師】と【鍛冶師】、補助職の【鑑定士】とバランスよく持っていることになる。今はまだわからないけど、おそらく【侍】も戦闘職の一種だろう。さすがに生産職や補助職ではないはずだ。侍だし。
「あと、天職にはそれぞれ固有の【スキル】が存在する。これはMPを使用するが、魔術ではない。だから詠唱も必要としない。
各職の主だったものだけ説明しておこうか。
まず魔術師系の職種は【並列魔術行使】
魔術はどんな天職を持っているものでもMPさえあればある程度は行使できるが、一度に1つの魔術しか使うことができない。しかし、魔術師系の職種が持つ【並列魔術行使】は2つ以上の魔術を一度に行使することができる。もちろん高い集中力と器用さが求められるが、同属性の魔術を同時行使して威力を高めたり、他属性の魔術を組み合わせて特殊な魔術を行ったりできる。
そして錬金術師の【錬成】
これは異なる2つ以上の物質を合成して新しい物質を作り出したり、薬なんかを作るものだ。これは冒険ではなく生活で使うものだが、たとえば風の魔石と氷の魔石を合成すると魔力を通すことで冷風を出す風氷の魔石ができる。こういった便利なアイテムを作ることができるスキルで、アイデアによっては無限の可能性を秘めたスキルだな。
鍛冶師のスキルは【見極め】と【精密動作】
まず【見極め】だが、これも少し特殊なスキルで物質の状態を見極めるスキルだ。良質な鉱石かどうかの判断をはじめ、鍛造しているときの状態も見極めることができる。
そして【精密動作】。これは言葉のとおり武器製造などにおいて細かい力加減の調整などを無意識下でできるようになるものだ。ドワーフ族が良質な武器を生産できるのはこの2つのスキルのおかげだ。そして、この鍛冶師のスキルは常時発動していてMPも必要としない。
次は鑑定士の【鑑定】だな。
これはもうエイダの鑑定を見ているからわかると思うが、人や物の情報を読み取るスキルだ。さっきは全員に見えるようにステータスを表示させたが、自分だけが見られるように発動することも可能だ。
そしてこれはどのスキルにも共通することだが、スキルには習熟度が存在する。簡単に言えば、使えば使うほどそのスキルの効果が増すということだ。積極的に使用してスキルの効果を伸ばしていくことが重要だ。」
なるほど、さっきエイダさんが詠唱なしで魔術を発動していたと思ったのはスキルだったのか。
「ここまでで、何か質問はあるか?ないなら冒険者の説明に入るが」
一気に天職とスキルの説明を終わらせたオルガはそういうと、説明の途中に最初の受付のエルフのおねえさんが持ってきていたお茶を口に運んだ。
これだけの説明を受けた後だ、整理するのには時間がかかる。質問と言われてもゆっくり理解をしてからでも構わないだろう。
同じくお茶を一口飲むと、すっきりとした麦茶のような味わいがした。
「いえ、今は情報を理解するのに精いっぱいで質問は浮かびません。もし質問が後にできたら聞きに来ても?」
「ああ、それは構わない。そもそも冒険者ギルドはそういった情報の共有も仕事の一つだ。」
「ありがとうございます。では冒険者の説明をお願いします。」
「わかった、が。そのまえに、そのどうにもむず痒いしゃべり方はどうにかならんのか?それが素のしゃべり方ってわけじゃないんだろう」
「・・・それはそうなんですが、癖でして。どうにも目上の人間になる人にはこういった口調になってしまうのです」
社会人で3年も仕事をしていればプライベート以外では丁寧な口調になってしまうのも仕方ないのではないだろうか。
「徐々にでいい、普通のしゃべり方にしてくれ。そんな丁寧な言葉でしゃべる冒険者気味悪くて仕方ねェ」
「わかり、わかった。出来るだけそうするよ。」
「そうしてくれ。っと、次は冒険者の説明だったな。
まず、冒険者の主な仕事は依頼の達成と【生体迷宮】の探索になる」
「【生体迷宮】?」
初めて聞く単語だ。
迷宮はわかるが、生体という単語が迷宮と結びつかない。
「【生体迷宮】っていうのは、入る度に迷宮の内部構造が変わる迷宮のことだ。最奥にはその迷宮の核になる巨大な魔晶石があって、それを壊すか迷宮外に持ち出すかすると迷宮の変化はしなくなる」
「・・・不思議なダンジョンやん」
あまりのことに関西弁になる。生体迷宮というのは、某商人や風来人や黄色い鳥が攻略するあの有名な不思議なダンジョンだった。
「そうだな、確かに不思議なことだ。」
「いや、そういう意味じゃ・・・まぁいいや。で、その生体迷宮の探索って何するんですか?内部構造が変わるならマッピングなんかも意味ないと思うんですけど」
「基本的に出てくるモンスターのデータ収集だな。どのくらい進んだ場所で出てきたかなんかが報酬の対象になる。討伐した時に特定部位をはぎ取って持って帰ってくればそれも報酬の対象だ。あと、他の冒険者が収集した情報はギルドで閲覧することができるから、新しい生体迷宮に挑むときはできるだけ事前に調べてから挑むようにしろ」
なるほど、内部構造が変わるならモンスターのデータだけでもってことか。
「あと、最深部の魔晶石を破壊した破片か魔晶石そのものを持って帰ってくれば特別報酬が出る。が、一流の冒険者でもなかなか最深部になんていけないし、何よりも最深部には魔晶石を守る魔物がいる。行くとしても十人以上でパーティを組んで事前準備をしっかりしてから行くんだな」
「わかった、そうするよ。」
「最後に、冒険者同士のトラブル等の仲裁はするが根本的に解決は当人同士だ。こんな職業だと命を落とすこともあるからできるだけトラブルは避けてほしいが、どうしても当人同士で解決できないようなものならギルドに申請すれば仲裁に入るが、迷宮内でトラブった時なんかは自力でどうにかせんといかん。モンスター対策以外にも自衛の手段は用意しておけよ」
「わかった。いろいろありがとな、オッサン」
「お前頭ン中では俺のことオッサンだと思ってたのかよ・・・」
「ゼンさん、冒険者登録終わりました?」
説明が終わりオッサンに冗談を言っていると、後ろからアーニャが話しかけてきた。
そういえば、こっちで結構時間が経っていたから待たせてしまったかもしれない。
「ああ、今終わったところだよ。ごめんな、これもこんなに時間がかかるとは思ってなくて」
「いいですよ、オルガさん、エイダさんお疲れ様です」
「おう、アーニャちゃんは今日もかわいいな」
「副ギルド長、セクハラは厳罰です。アーニャさん、こんにちは」
「挨拶しただけだぞ!?」
「ところでゼンさん、ゼンさんの天職はなんだったんですか?」
オルガとエイダさんの漫才を華麗にスルーしたアーニャに、どう説明したものかとエイダさんに視線を送る。
「ゼンさん、天職スキルは自分の天職を自覚することで初めて使用できるようになります。一度、やってみてはどうですか?」
エイダさんは、俺自身の鑑定でステータスを表示するように言っているのだろう。
目をつぶり、エイダさんが行っていた光景を脳裏に思い浮かべる。
「『-天職鑑定-』」
○●○●○●○●○
サエキ ゼン
天職
【賢者】
【錬金術師】
【鍛冶師】
【鑑定士】
【侍】
○●○●○●○●○
「これが、俺の天職らしいよ」
「」
アーニャは森の泉で煌龍様の話をしたときのように、口を開けて言葉を失っていた。
体調不良やら仕事やらで更新が遅れてしまい申し訳ありません。
誤字脱字の指摘や感想なんかは随時募集しております。
では。