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泉の妖精

「もうすぐ昼か。」


煌龍様の住処を出て2時間ほど経っただろうか。

うっそうと茂る森の中を歩きながらひとりごち、額の汗をぬぐう。

煌龍様から頂いた地図を広げ、現在地を確認する。なんとこの地図、魔力を通すと地図上での自分の位置と、指を触れた場所への方角がわかる優れものだ。いわゆる魔道具というやつだろう。


「けっこう進んだな。これなら余裕で日暮れまでに街に着けそうだ。」


地図では道程の3割ほど進んだことがわかる。森の中をゆっくり歩いて2時間で3割なら日暮れどころか夕方前には着けそうだ。

森の中では角の生えたウサギなど、地球ではお目にかかれないような動物にも遭遇し襲われもしたが何とか撃退した。というのも煌龍様にいただいた短剣のおかげだ。

この短剣、非常に切れ味がいいうえに火の魔法が付与されていて、斬った動物の血が付いたそばから蒸発しすぐにはがれる。そのうえ切った相手にやけどを負わすから動物の動きもどんどん遅くなってとても助かった。その時に狩った角ウサギは血抜きをしてリュックにひもで吊るしてある。生き締めの技術も調理の時に煌龍様から教えてもらったものだ。

ただ、ゆっくり歩いていたとはいえ、動物に襲われ2時間も歩きっぱなしで腹の虫も騒ぎ始めた。地図で食事がとれそうな場所を探すと、街までの直線コースからは少しそれるもののここから少し行ったところに泉があることが分かった。


「泉か、ちょっと行ってみようかな。」


きれいな水があるならさっき狩った角ウサギを料理できるし、泳いでみてもいいかもしれない。そうと決まれば善は急げ。リュックを担ぎ直し泉へと歩を進めた。




◇◆◇◇◆◇◇◆◇




「おぉぉぉぉ、きれいなとこだな。」


歩き出して10分ほどで森は開け、大きな泉が目の前に現れた。ほとりの岩場へ行くと、泉の水は透明度も高く小魚も元気に泳ぎ回っているのが見えた。


「これなら泳ぐこともできそうだな。っと、それより先にご飯にしよう。」


先に狩った角ウサギを取り出し、岩場の岩でかまどを組む。森で拾ってきた乾いた小枝を薪に火の魔法で着火するとウサギの解体作業に取り掛かる。とはいえ血抜きと内臓の処理は終わっているので皮をはぐだけだ。ゆっくり皮と肉の間に短剣を入れ、丁寧に皮をはいでいく。はぎ終わった皮はズタズタだったので、細かく刻んで少しずつ火にくべて燃やしてしまう。肉は大きめの一口サイズに切り分け、塩を振って木を短剣で削ってつくった串に刺しかまどで焼く。この火力なら10分ほどで焼きあがるだろう。

その間に、道中空になった1.5Lペットボトルに水を汲むため、泉へ。


「ほんとにここの水はきれいだな。小魚もいっぱいいるし、釣竿でも持ってたらよかったんだけどなぁ。」


そう呟きながらペットボトルに水を入れていく。ペットボトルが水でいっぱいになると、その水を一口。


「美味いな。」


五分の一ほどを飲み、またいっぱいになるまで水を入れる。そして、肉の状態を見るためかまどの方へ戻ろうとしたとき、何かが視界の端に移った。


「なんだ、あれ。」


泉のほとり、その岩の上に何か。自然のものではない、明らかな人工物だ。近くによってみると、それは布だということが分かった。手にとってみるとそれは


「パンツ、だな。」


明らかに女性ものの下着。よく見ればその横には服が畳んでおいてあった。だれかが脱ぎ畳んで、パンツだけ風で少し位置がずれたのだろう。

というか、ここに女性の服があるということはつまり・・・


ザバァ


突然、泉から水音が。まるで、今まで水中に潜っていた何かが水面に上がってきたかのような音。

というより、まんま少女が泉の中から姿を見せた。


その少女を見たとき、初めて浮かんだ感想は【妖精】だった。


歳のほどは15~16歳くらいだろうか。銀色のショートボブの髪は水をはらんでキラキラと光り、白い陶磁器のような肌と均整のとれたボディーライン。胸はほどほどだが、小さすぎもせず大きすぎでもないその大きさは一種の芸術品のようだ。目鼻立ちも美しく、何よりも目を引いたのは紫水晶(アメジスト)のような薄い紫色の瞳だった。

まるで時が止まったかのようにその少女を見つめていると、ふと少女がこちらを向いた。


「えっ?」


少女の鈴を転がすような声で、止まっていた時間は再び動き出す。

ここで、現状を整理してみよう。裸の少女の前に突然現れた男。その手には少女のものであろう下着が握られている。

完全に事案発生である。ここが日本なら確実に通報されるレベル。


「えっ、あ、いや、これは違うんだ。」


動揺しつつも必死に弁明しようとするが、どうにも混乱してしたがうまく回らない。

そんな混乱をしている最中、少女は徐々に赤くなり、瞳に涙をたたえ始めた。


「き・・・」


GAAAAAAAAAAAAAAA


少女が目の前に現れた佐伯善という名の変態に対し悲鳴を上げようとした刹那、森から獰猛な叫び声が響いてきた。

少女と俺がとっさに叫び声がした方へ視線を移すとそこには、高さ5mほどもある樹木の化物がいた。

樹木の真ん中には大きな一つ目があり、化物の枝にはイノシシやウサギなど、数匹の動物が串刺しにされ息絶えていた。その遺骸はからからに干からびていてまるで体中の血液を吸い出されたかのようだ。

あれは、まずい。間違いなく凶暴なモンスターだ。それこそ短剣一本でどうにかできる相手ではない。


「エルダートレント!?どうしてこんなところに!?」


少女が悲鳴を上げる。なるほどあの化物はエルダートレントというらしい。エルダートレントはその大きな瞳でこちらを見ると、自身の枝を鞭のようにしならせながらこちらに向かって近づいてきた。

間違いなく俺や後ろの少女を捕食しようとしている。

あれほどの巨大な化物だ。おそらく、やりあえば無事では済まないだろう。

助かるためにとるべき行動は1択。明らかに逃げるのが最善だ。


ただ、自分の後ろに少女がいなければ。


「くっそたれ!」


少女を見捨てて逃げれば確かに逃げられるかもしれない。だが、逃げてしまえば後ろにいる一糸まとわぬ姿の少女はどうなる。戦うこともできずにエルダートレントの養分になることは間違いないだろう。

そんなことを、俺が許容できるはずがなかった。

短剣を抜き、魔力を通す。赤熱した刃を頼みにエルダートレントに突進してゆく。


GAAAAAAAAA


エルダートレントの枝が横凪ぎに振るわれる。まともに食らえば骨くらい簡単に砕きそうな枝へ短剣を振るう。


「やらせるかよ!」


短剣はまるでバターを切るかのように枝を切り裂き、切り口からエルダートレントを焼く。


GYAAAAAAAAAA


叫び声をあげ焼けた枝を地面にたたきつけ火を消すエルダートレント。その一撃が引き金になったのか、新たに5本の枝を伸ばし、俺へ叩きつけるべく振るう。

一打目の横凪はしゃがんでよけ、二打目の振り下ろしは短剣で切り裂く。しかし同時に放たれた三打目で足をすくわれ盛大に地面に倒される。四打目の刺突は転がって避けれたものの、避けた先へ五打目の刺突がすでに迫っていた。


これは、死んだな。


避けられない。あと数瞬後にはあの枝に刺されて死ぬことになる未来が見えた。

俺に死をもたらす枝が腹に突き刺さる直前


-アイススマッシュ-


その枝にこぶし大の氷塊がぶつかった。突然の横やりに、刺突は軌道をずらされ俺のズボンを浅く切り裂く。

その時、切り裂かれたズボンのポケットから一つのビー玉が転がり落ちる。それは


『このビー玉には【炎鎗(えんそう)】を取り込ませた。そのあたりのモンスター程度なら十分倒せるだろう。』


煌龍様の実験でできた魔術を取り込んだビー玉!

とっさにそのビー玉をつかみ、氷塊の激突に動揺しているエルダートレントの幹へ肉薄する。


「これでもくらってろ!【炎鎗】!」


ビー玉に内包された魔術が展開される。周囲の酸素と内包された魔力を燃やし、燃え盛る槍は2mを超える巨大なものになった。

その槍を、幹の中心にあるエルダートレントの一つ目に叩き込む。


GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


断末魔の叫びを上げるエルダートレント。その叫びに構わず炎鎗に魔力を込めると、炎鎗は内側からエルダートレントを一瞬で燃やし尽くした。




◇◆◇◇◆◇◇◆◇




あとに残ったのは大量の灰と、こぶし大の黒い石だった。

その黒い石を拾い振り向くと、左手で持ったタオルで体を隠しながら右手で杖を持った少女の姿を見つけた。

俺を助けた氷塊はおそらく彼女が放ったものなのだろう。


「ありがとう、君のおかげで助かった。」


少女へ向き直り、頭を下げる。


「あ、いえ、助かってよかったです。あの、その・・・」


「お礼と言ってはなんだけど、もしよかったらお昼一緒に食べないか。あっちでウサギ肉を焼いているんだ」


「えっと、あの」


なにかもじもじしている少女。そういえばタオルで体を隠しているだけで裸だった。


「ごめん!後ろ向いてるから服着替えて!」


ばっと回れ右をして少女に背を向ける。裸の女の子に昼飯の誘いをするなんてなんて奴だ俺は!


「あのっ!」


少女が意を決したかのような声で話しかけてくる。


「そうしたの?どこか怪我でもした?」


「えと、そうじゃなくて・・・」


ちょっと涙声の少女は


「私のパンツ、返してくださいっ!」


俺の左手には、炎鎗の余波でほとんど焼失した少女のパンツが握られていた。


そろそろE-5行かなきゃ・・・

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