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ほろ苦バレンタイン

作者: 純白米

「に、苦ぁーい!!!」


 友達があげたその声に、クラス中の人が私達の方を向いた。


「ちょ、ちょっと! 声大きすぎ…!! みんなこっち見てるじゃん!」


「だって、苦いものは苦いんだもん!!!」


 それは、高校1年生のときの2月14日の朝だった。

その日のことは、忘れもしない。



 私は高校入学当初、同じクラスの武里(たけさと)という男の子と仲良くなった。

顔は、まぁまぁイケメンだが、そこは問題じゃない。

最初の頃は席が近くて気もあったので、よく二人で話をしていた。


「おい、木野山! お前のその髪型、何て言うの?」


「え? ボブだけど…あんた知らないの? 今流行ってるのよ!」


「ふーん。キノコみたいだな」


「はぁ?!」


 それからというもの、武里から私はずっとキノコと呼ばれた。

次第に、周りの人も私のことをキノコと呼ぶようになっていった。

とても褒められていると思えるあだ名ではなかったが、でも私はそれがあまり苦ではなかった。


「武里! あんた、シュークリーム食べる?」


「いや、いい。おれ甘いの苦手なんだよ。

甘いものよりは、苦いものが好き」


「へー。苦いものが好きなんて変わってるね」


「キノコ頭に言われたくないわ!」


「うるさい! ばか!」


そんな他愛もないやり取りを繰り返し、周りからは付き合っているのでは?と噂されたこともあった。正直、満更でもなかった。


 だが、しばらくして席が離れてからは、なんとなく話さなくなっていった。


「ねぇねぇキノコ!」


「あ、小枝ちゃん! どうしたの?」


「キノコって、武里くんとケンカでもしたの?

ほら、前はあんなに仲良さそうだったのに

最近全然話してないから…」


「え? いや・・・別に? わざわざ話しかけて話すような用事もないからね…」


席も変わりクラスに馴染み、単にお互いの交友関係が変わっていった。

ただ、それだけのことだった。




 時は流れてバレンタイン。

私はそんな武里に渡したくてチョコを作ったのだった。


そして、その余りで友チョコを作り、友達に配っていたのだ。


 確かにチョコ作りに苦戦はしたが、何もそこまで大きな声で言わなくても…。

友達の大きな声に反応し、教室の至るところでクスクスと笑う声が聞こえる。


最悪だ、と思いながら武里の方を見る。

武里は自分の席に座り窓の外を見ていた。


「良かった、気付かれてないみたい…」




 朝に友達にチョコを渡したのは失敗だった、と思いながら武里にチョコを渡すタイミングを見計らっていた。

だが、話すこともなくなった今、なかなかタイミングが見つけられない。


そうこうしているうちに、なんだかんだ放課後になってしまった。

しかし、放課後まで渡せなかったことも失敗だったと思った。



「武里くん!」


クラスのマドンナ的存在の子が、武里に声をかける。

みんながそこに注目する。嫌な予感がした。


「はい、これ!」


彼女の手には高級そうなチョコがあった。

やられた。こんなにも堂々と渡すとは。

クラス中の男子から、嫉妬ともとれる冷やかしの声があがった。


「…ん、ありがと」


武里はそう言うとチョコを受け取った。


「…なによっ!」


私は腹を立てながら、しばらくその光景を見ていたが、

武里がキョロキョロと教室を見回し始めたので慌てて窓の外を見た。

武里と目を合わせたくなかったし、その光景を見ているとも思われたくなかった。



――――――――――――――――――――――――――――――


 ほとんどの生徒が下校した学校に、私は一人残って泣いていた。

友達に苦いと言われたチョコを、高級そうなチョコを貰った彼には

結局渡すことは出来なかった。


「もう要らない…」


私が、チョコをゴミ箱に捨てようとしたときだった。


「キノコ!」


私は慌てて涙を拭い、声のする方を見た。

そこには、武里が立っていた。


「それ…チョコだろ?」

「だったら何?」

「…捨てるのか?」

「あんたに関係ないでしょ!!」


私は嘘をついた。

こんなにもあなたに関係することは他にないし

むしろあなたにしか関係なかった。


「いや…そうか。

でも、その届けられなかった想いはどこにいくのかな、と思って」


私が黙っていると、再び彼が口を開いた。


「それ、ちょうだい。どうせ捨てるなら、おれが食べる」


そう言うと、強引にチョコを奪い取り、その場で食べ始めた。



そんな彼の姿を見て、私は少し救われた気がした。

捨てようとしていた私の想いを、彼が拾ってくれたのだ。

私の想いは迷子にならず、彼のところに届いてくれた。


私が届けたわけではないけど…これはこれでアリとしよう。




「んー、こりゃ"確かに"苦い!」


「うるさい! ばか!」

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