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14.里奈の病気

「お医者さんが言うには、私の命はあと二、三年しか保たんらしい。このままじゃ、下手すると大学にも行かれへんらしいんよ……」

「そんな……」

「それに、大阪の環境もその病原菌のDNA的にあかんらしい。余計に活性化させてしまっとるらしくて、気が付いたら余命がどんどん短くなってしまっとって……」

「D……NA……だと……!? そんな、嘘や……嘘やろ……」

「山本聡、残念だけどこれは事実なんだ。実は里奈は前からうちの父の病院に通っていてね、レントゲン写真を見せてもらったんだけど、確かにその症状は広がっていて、肺や肝臓に腫瘍が出来つつあるんだ」

「そ……んな……!!」


 あまりの衝撃に、俺はその場に崩れ落ちた。まさに、足元が崩れるような感覚だ。


「何でや、何でそんなことに……! 俺と里奈は生まれてからずっと一緒やったやろ!? 何でそんなことになってるんや!!」

「聡……それは……」

「それは君と里奈が別の人間だからだよ」

「何……やと……?」


 俺は顔を上げて、里奈に付き添っている木暮を睨んだ。

 木暮はクソ腹の立つ厳しい表情を浮かべて俺を見据えながら、落ち着いた口調で続けた。


「君は里奈とは何もかもが同じで、自分ではないものは里奈にも当然あり得ないと思い込んで来たそうだが、だが結局は君と里奈は別人で、持っている遺伝子も病気への耐性も違うし、それどころか考えていることだって全く違うんだ」

「お前、知ったような口を……! お前に俺と里奈の何が分かるって言うん――」

「実際に君は、里奈が不治の病にかかっていたことに今まで気が付かなかったじゃないか」

「ぐぐ……!!」


 悔しいが、木暮の言うとおりだ。

 俺は、何年もずっと傍にいてやりながら、里奈がひどい病気にかかっているなど、全く知らなかった。

 里奈の苦しみを、俺は何も理解してあげられなかったのだ。


「やけど何で今まで一言も言ってくれへんかったんや……」

「だって……言うても聡、信じてくれへんやろうし、それ以上に泣くやろ?」

「当然やろ!! うわああああ! なんでやねん!!」


 里奈がこの世から消える。

 里奈がこの世から去る。

 里奈のいない生活。

 里奈のいない毎日……。


 No life no Rina、No life no Rina……。


 里奈

 里奈

 里奈

 里奈

 里奈……。


「だけど山本聡、たった一つだけ里奈の余命を長引かせる方法がある。この方法を採用すれば、あと二、三年の里奈の命は、十年、いや二十年にまで延びると言われているんだ」

「何やと!? それは何なんや!? はよ言え木暮!!」


 木暮の胸ぐらを掴み上げて聞くと、奴はにっと笑みを浮かべて言った。


「オーストラリアだよ」

「は? オーストラリア?」

「オーストラリアに俺の父の友人の医者が、里奈の病気の治療法を研究している。日本にはない技術らしいんだ。折角留学の許可もおりたし、この機会を利用しない手はないだろう?」

「なん……やと……? だからお前ら最近よく二人で話してて……」

「そう、そういうことなんよ。それに聡、私オーストラリア行くの夢やってんよ。これが一生に一度のオーストラリアかもしれへんし、お願い、認めてくれるやろ?」


 里奈は涙を溜めた瞳で俺を見てきた。

 儚く消えてしまいそうな弱々しさを、俺は抱きしめてやりたくて仕方がなかった。

 だが、下手に里奈の身体を揺するわけにもいかず、俺はその場でぐっと拳を握り、木暮に向かって土下座した。


「頼む……! どうかその知り合いの先生に、ちゃんと里奈の病気を治してくれるよう説得してくれ! 里奈を……頼んだ……!!」


 喉の奥から声を絞り出して言うと、二人が息を飲むのが聞こえてきた。

 ぽんと肩に手を置かれる。


「あぁ、責任持って俺が里奈を見るよ」

「聡、ありがとう……!」


 こうして里奈のオーストラリア行きが決まったわけだが、そのとき二人がどういう顔をしていたのかは、下を向いていた俺には見えていなかった。


なんだこの茶番は

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