祓い屋本舗1
時計の針は深夜2時を刺している。眠たくないわけではなかったが、今から流れるCMが楽しみすぎて眠れなかった。ソファーの上で胡坐をかくいつものスタイルだが、気持ちは落ち着いてなんかいられなかった。
テレビに心踊らされて眠れないなんて、いつぶりだろう。
スマートフォンにセットしていたアラームを鳴る前に消し、テレビに集中する。勝負は15秒。今日ばかりは、どんな美女からの電話も受け取るわけにはいかない。
深夜の番組の間の、このCMを今日は必ず観なきゃいけない。
そろそろ始まる、テレビのボリュームをあげなければ。
深夜、誰もいないのに、廊下で足音がする。
男で独身独り身なのに、部屋の中から女性のすすり泣く声が聞こえる。
自分の赤ちゃんが、誰もいないのに笑う。
四階なのに、男が窓から覗いてくる。
死んだあの人が帰ってくる。
そんな、トラブルを抱えてるあなた!!
即日即決即解決!!
祓い屋本舗はお電話をお待ちしております!!
テレビの男は黒スーツがキまっていた。俺にとってはものすごく顔の知れた、約30年連れそった顔だが、テレビで観ると、また違った趣きさえ感じる。幸い、童顔だから若く見える。これなら、まだまだいける。何に対していけるのかは分からないが。
考えてる事を察したのか、いつの間にかソファーの後ろで立っていた男が呆れたような声で、
「…社長、前にも言ったが、このCM、胡散臭すぎる。あと、社長のしゃべり方が気持ち悪い。」
その表情は、目元まであるボサボサの髪で見れないが、いかにも俺をバカにしているという素晴らしいものであろう。
とてもとても長身で、2メートルを超す大男だが、心は大きくなさそうだ。
「前に言ってねぇよ!!今日CM流し始めたんだから!!というか、気持ち悪くねぇし!!あのな、フランケン、分かってんのか?こうやってCMでも流したりしなきゃ、たださえ胡散臭い俺らの仕事が、いつまでたっても日の光を当たる事なんてないんだからな!!」
「それはそうだが…。」
「たださえ、携帯の復旧、テレビの地デジ化…。日本は情報化していってるんだ。とにかく、情報を発信だ、発信!!」
そう、俺は自分の会社「祓い屋本舗」を大きくしなければいけない。そうすれば、きっと、「彼女」の情報が入ってくるはず。
「そもそも、仕事がなかったら、フランケンにも、先輩にも、給料だせないんだからな…」
「…前にも言ったが、それだけは言わない約束だ。」
現実的な事を考えると嫌になるな。幽霊、お化けの祓い屋なんて胡散臭すぎる。だから仕事は少ないし、そもそもこの会社が小さいものだから、お客側からしたらそりゃ、信用もできないだろう。
社長の俺とフランケンで社員は2名、あとパート1名…計3名…なんとも心もとない…。
色々とコネを使って無理くりCMを放送してもらったが、これで効果が無ければ、また、違う事を考えなければいけない。
トゥルルルルルル。
「はわっ!!」
普段鳴らない会社の電話に驚いて、変な声を出してしまった。
「社長、前にも言ったが、電話が鳴っている。」
言ってねぇよ!!と、ツッコミを入れながら受話器に手を伸ばした。
時計の針は深夜2時30分。早速、CM効果有りかもしれない。
電話の内容を聞いて、俺はフランケンにぐっと親指を立てた。