第3話 爪切り勇者と無口な幼馴染みのドッキドキ☆初デート
1週間ぶりの投稿です。
物語を書く際、3話目までが重要という話を聞いたことがあります。
そして、今回3話目はまさかの日常を書いてます。……ダメじゃん。
でもマンガの話だったでしょうか。よくわかりません。
いつも読んで下さっているどこかの誰かさん、本当にありがとうございます! しばしお目汚しなさって下さい!
「かなちゃん!飯-!」
「ちょお待っとき。もうすぐ出来上がるから」
「兄さん、今日の朝ご飯はなんですか?」
「ん~、パンと卵焼きとほうれんそうのポタージュ」
今朝も今朝とて姦しい。
我が穂北家は子供を放っぽりだして夫婦で旅行に行っちゃうどうしようもない父と母、立派な長男と礼儀正しい次男、次男と同じ日に生まれた元気ハツラツな長女で構成される5人家族だ。
妹は家事手伝いの一切合切ができないから弟と俺とでご飯当番をしている。今日は俺の日だった。
「ん?かなちゃん、そのアクセ何?」
「ああ、ちょっとな」
手首に巻いたそれを妹はあざとく見つけたようだ。早めに起きた朝の貴重な時間を30分ばかり費やして、夢の世界から持ち帰った石をブレスレットにしてみた。つってもビーズで作ったミサンガみたいなもんだ。石を加工することには少し抵抗があったが、ただ部屋に飾ってあるよりは有意義な気がした。それに何となく肌身離さず身につけていたかった。
「なずなさんからのプレゼントですか?」
だからどうしてここでなずなが出てくるんだ。
「ごちそうさま。ゆう、食器片しといてくれ」
「あ~かなちゃん誤魔化した~エロ~い!」
「兄さん……不潔です」
だからどうしてそうなる。ガキんちょ共の姦しい声を背に浴びて、俺は一晩中着ていた制服の皺もそのままに、部活道具をかばんにつめて家を出た。
「穂北」
「……おう」
家を出て20歩。幼馴染みの家の前を通過したところで、幼馴染みから声をかけられた。
「大丈夫?」
「………何がだよ」
「体調……とか?」
首をかしげる彼女の、肩まで伸びた髪が彼女の口の中にインして不気味だ。俺は「問題ない」と告げ、彼女の髪を摘まんで耳にかけてやる。彼女の視線はあまり俺とぶつからない。彼女はいつも俺の鎖骨辺りを見つめている。最初は鎖骨フェチかとも思ったけど、そうではなく人と視線を合わせること自体が苦手……ではないな、必要なとき以外は視線を合わせようとしない。
一度その理由を聞いたときに「瞳孔の大きさと網膜の色彩で何となく考えていることがわかるから」だと言っていた。
魔法も使えない現実世界で、俺の知る唯一の魔法使いがこの幼馴染みだった。
「穂北」
そんな彼女の視線が俺の左手首に注がれる。まもなく捕獲。
「何これ?」
「あ、あぁ。これはお手製のブレスレットだ」
「……赤い虎」
「は?」
「赤い虎と、孔雀」
むしろ3つ首の犬と3つ目の猫でしたが。
「宝石の名前。レッドタイガーアイとマラカイト」
「え? ルビーとエメラルドじゃないの?」
「……情弱小学生脳」
10文字ぐらいの言葉で酷く尊厳を踏みにじられた気がする。
翻訳するなら「赤ならルビー、緑ならエメラルドか小学生かお前は。自分で作るブレスレットくらい本やインターネットでどういったものか調べてからその意趣に合う物質を仕上げなさいこのウスラトンカチが」とでもなるだろうか。
「穂北。石言葉って知ってる?」
「石言葉?」
花言葉の石バージョンみたいなもんか。
「タイガーアイ。虎目石と青石綿の混合石に熱処理を施して仕上げた石で、意味は高潔さや洞察力。邪気を払う魔除けの石」
魔除けの石に変わる魔物ってのも皮肉というか、シュールだな。
「レッドタイガーアイにすることで、感受性や判断力を高めるようになるとも……ならないとも」
どっちだよ。
「そうしたらもう一個のマラ……マラ……?」
「セクハラ」
「何でだよ!?」
まぁ、確信犯ではあったのだけど。
「マラカイト。和名で孔雀石。」
「……それで?」
「……終わり」
「え!? 終わりなワケ!?石言葉は?」
「……セクハラよくない」
今度は意図しないことで再度汚名を着せられた。
「何でセクハラなんだよ!?」
もしかすると俺はそんなド下ネタみたいな石でブレスレット作ったのか。だから情弱と罵られたワケか。
「マラなんちゃらは石言葉的にヤバい石なのか?」
幼馴染みは口を真一文字に結んで解こうとしない。
「い~い~よオッケー。帰ったらネットで調べてみる」
場合によってはマラなんちゃらを全部外して赤虎石に挿げ替えた方がいいかもしれない。
「穂北。穂北」
「ぁんだよ」
肩掛け鞄の中をごそごそし出す。チラチラ見え隠れする、鞄にぐちゃぐちゃにぶち込んだスクール水着が視界に入る度にいけないモノを見ているような気がする。
なんというか、妹の生理用品を見るような、何とも言えない気分だ。
「これ」
「ぁん?」
視界いっぱいに広がった紙切れを彼女の腕ごと遠ざける。
遠くから見ると一枚の広告に見えた。その紙にはでっかく「宝石展」と書かれており、開催場所と開催期間が記されていた。
「帰らなくても、寄り道すればオケ」
要は、ここに行けばマラカイトについて教えてやるとでも言いたいんだな、多分。
「オケ。今日の放課後一緒に行くか!」
「え?……ウチも?」
どうやら勝手に一人で行け、ということだったらしい。
「わぁーったわぁーった。一人でちらっと見てくるよ」
「バカなの?」
尊厳を二度も踏みにじられた。顔を近づけてくる。
「ウチも行く」
「わかったから顔を離せ。口臭いんだよ」
「そんなことない。はちみつレモンの匂いのはず」
朝飲んだジュースの匂いがしたから何だと言うのだ。まぁ、こんな奴でもドキッとしたのは内緒だ。
「そろそろ行くぞ。なずな」
「ん」
家の前で話している間にもう5分くらい経っている。俺はなずなの小さな手を引き学校へと急いだ。
さて。
今は体育の授業でお得意のバスケの時間なワケだが。ちょっと今し方起こった出来事について話すぜ。
「穂北!」
学年別スリーオンスリーの最中である。
俺が高校入学当時ちょっといいな~と思っていた先輩女子とこの春にお付き合いすることが決まった隣のクラスのちょっと格好良くてちょっと勉強もできて性格もちょっとだけいい田中からパスを受けた。
この時点では、お前みたいな勝ち組から受け取るボールなんてねえよ、くらいしか感想を抱いていなかった。
事実、こいつのことが好きか好きじゃないかで言えば、反吐が出るほど大嫌いだった。
「ッス!」
そんなこともおくびにも出さず俺は爽やかスマイルで受け取る。その爽やかさから応援席から歓声やら嬌声やらが飛び交うほどだった。
「横川くんナイスパス!」
「横川の見せ場奪ってんじゃねーよ穂北!」
罵声だった。ついでに田中じゃなくて横川だったらしい。どうでもいいけど。
コートががら空きだった。まして徒競走で学年1位の俺を止められるものなど誰もいない。
俺は走る。
穂北疾駆。
今考えた技名だった。レイアップシュートを放つためのタメ技だと思ってくれればいい。
ゴール下には誰もいない。
ボールを両手で掴む。1歩。
そして2歩。ボールを投げるのではなく、お供えしてくるカンジで。
俺は軽くジャンプした。
「はずだったんだけどさ」
「ダンクになったの?」
幼馴染みはこちらを見ずに首をかしげる。顔色も大して変えないクセに「その身長で?」などと言いたそうな雰囲気だ。
まるでどこかの土管工にでもなった気分だった。……まるでゲーム世界の住人にでもなったような。
「な、なんかもの凄いジャンプできたんだよな~って言うか多分だけど今もできそうッス」
「……跳んでみて」
誰が宝石展の会場内でジャンプするバカがいるか。
「それよりもなずな。マラなんちゃらはどこにあるんだよ」
「多分あっち」
珍しく幼馴染みが先導する。なんだかんだで楽しんでいるようでなにより。彼女の後を追う。
「ん?」
その最中、一際惹かれる石があった。
「なずな」
「ん。……ギベオンにそっくり」
「ギベオン?」
初めて聴くような語感だった。何語だよ、と。
「知らないの?」
「知らねぇよ」
「ギボンともいう」
「だから知らねぇって」
「……情弱」
まるで常識と言わんばかりだ。
「総称はメテオライト」
「だから知ら……メテオ?」
ゲームでそんな名前の魔法があった気がする。たしか隕石を落とす魔法だったはずだ。
「え!? これ宇宙からの石かよ!」
「ん」
身長の低い自分より遙かに身長の低い女に頭を撫でられた。「よくできました」スタンプをもらった子供を褒める親のように。
「ギベオンは4億年以上前に地球に落ちてきた隕石の名前。それに凄く似てる」
「似てるって、違いなんてあるのか?」
「ん。雰囲気」
雰囲気って何だよ。
「石言葉には色々な説があるから一概には言えないけど、隕石には特に多くの石言葉がある」
「へぇ。たとえば?」
「たとえば、変容」
「変容?」
「穂北の描写するまでもない平々凡々のありふれた日常を非日常へと誘ってくれる、とか」
人をつまらない人間代表みたいにするなよ。と口に出して否定できない日常が悔しい。
「この石はとても魅力的。でも危険な感じがする」
「危険?」
「穂北」
幼馴染みが俺の袖を引っ張る。「もう説明は終わった」というよりは「ここから離れよう」的な意味合いが強い気がする。
すっ。
呼吸。俺じゃない。多分、なずなでもない。
深く、小さく、長く、弱く、誰にも気付かれないように息を殺して呼吸をするような今朝も聴いた音。
急に視界が暗くなり、幼馴染み以外の人間がいなくなった。いや、きっと見えなくなった「だけ」だ。
そして足場がなくなり、上か下かもわからぬ方向へ落ちていく浮遊感。この感覚は覚えている。
「ほ…?」
ほ、ってなんだよ。伝えるなら最後まで届けろよ。
……違うな。多分もう届かないだけなんだ。
俺はなずなの手を握る。恐怖心からか、それとも別の何かか。
「……!……!」
なずなが、あの能面無口女がこんなに表情筋を使って俺の名前を呼んでいる。
でも何も聞こえない。直に見えなくもなるんだろう。
きっと。
きっとまた俺は行くんだな、とひどく冷めた思考回路が働いた。
ケルベロスや化け猫と追いかけっこをしたときに感じた身体の軽さをついさっきのバスケで体験して、呼吸を聴いたあたりで腹は括った。
まぁ、なんとかなるだろう。大丈夫。どうせまたすぐにコッチに戻ってこれるんだろうから。
俺はまた暗闇に呑まれていく。なぜか懐かしい草木の匂いがした。
現実世界に戻ってきたかと思ったら、まさかのUターンです。
タイトルは、まぁ、適当に決めたのですが、それも伏線になるかなぁと思って石言葉を絡めたシーンを書いてみました。
自分はにわかなのでネットで調べてみたんですけど、花言葉以上に多種多様の解釈があってびっくりしました。
自分は星が好きで、星座のこととかなるといくらでも調べることができるんですけど、ちょっと自分には難しいかなって印象でした。
詳しい方がいたら教えてもらいたいぐらいです!




