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ウンメイデンパ、受信しました (1)

間を空けすぎました……即興力もなにもあったもんじゃないですね、いかんいかん。

そこまでしといてなんなのですが、実はまだ完成しておりません。(何

たぶん次回で終わると思いますが、とりあえず「上・下」のような形で公開しようと思います。

というわけで今回はその「上」にあたります。お題は(下)の最後にて。ではどうぞ↓



「よーう、少年」

「……その呼び方はやめてもらえませんか」

「なはは。そいつぁ無理な相談だねぃ、少年よ。少年を少年と呼ばずしてなんと呼ぶんだい? ん?」

「いや普通に名前で……ああ、そういえば、まだ僕の名前教えてませんでしたっけ」

「おう、そーだね。そんな気もすらぁな」

 いつも通り、回らないんだか回していないんだかよく分からない滑舌で、天音あまねさんは到着したばかりの僕にそう言った。ふむ、そういえば、まだ僕の名前教えてなかったんだっけな。いまさらすぎて教える気もしないけど。

 重々しい荷物を、天音さんが持ってきた緑のビニールシートの上に一つずつ転がしていると、頭の頂上に一枚の花びらが乗ってきた。反射的に、空いた方の手で払い落とす。ひらひらと桃色の葉っぱが舞った。綺麗だ、とはちょっとだけ思う。



 乱暴な格好で座ってビールを飲んでいる(目測で三杯程度)天音さんと向き合うように座ってから、僕たちは改めて挨拶を交わした。

「んにゃ、おひさ。元気だったかい? 少年よ」

「心配には及びませんよ。天音さんよりも規則的な生活してますから」

「にゃははー、言うねぇ? あんまり調子乗ってっと地球侵略すっぞ?」

「あはは、そんな馬鹿なー。あははー」

「マジだしー。天音つぁんちょーマジだしー。あははー」

「あははー」





 ……うーん。たぶん今、僕と天音さんは「花見」というやつをやろうとしてるのだろうけど。

 なんか、流れとかそういうの、全然ないよね。

 予想通りといえば、まさしくその通りではあるけれど。





 まあ――なんだかんだで、五年ぶりに見た天音さんは、やっぱり何も変わっていなかった。

 最高に美人で、最高にデンパなままだったわけだ。











 僕と天音さんの関係を端的に言うなら、恋人である。

 ただし、決して一般的な「恋人」のレベルに収まるかというとそういうわけでもなくて――特に天音さんの方は、自他ともに認める歪み系女子(たった今作った造語)だったりする。

 詳しいことは今は省こう。とにかく、天音さんは見た目の華麗さとはうってかわってただの変人ということであり――

「ういーん……がしっ」

「ぐえっ」

 ……突然首を掴まれた。喉仏が天音さんの指先でごりって擦られて、思わず寒気がする。

「少年よ……。いつまで物思いにふけっとるんじゃい、ええ? 天音つぁんがっかりだぜ、久しぶりの邂逅でこれとかさ」

「ち、ちょこっと考えごとしてただけですよ……てかとりあえず、指はなしてもらえません? そのままだと結構いったぁーいたたたたたたたたたたたたちょちょちょちょちょ、めり込んでるめり込んでる!」

「まったく、少年の浮気者め。今度やったら船に連れ込んで実験台にするぞ。それでもえーのかい?」

「……出来たら遠慮したいですね」僕は船酔いする方なもんだから。

 もちろんだが、ビールにも酔う。ていうかまだ未成年だし。

「――っくは」こらえきれなくなった時のように突然吹き出して、天音さんは手をはなしてくれた。耐えかねた咳がやっとの思いで出てくる。鳥肌はオールスタンディングオベーションだった。つまり総立ち。

「んま、久々の少年君のもっちりお肌にも触れたことだから、許してやらいかね」

「……ありがとう、げほっ、ございます」あんまり嬉しくないけど。

 会ってから五分程度しかたってないはずだが、僕は改めて直感した。

 この人、あぶねー。











 もともと、僕と天音さんにはあまり深い関係はない、はずだった。僕はこれといって変な道を歩いてきたわけではないし(天音さんに失礼ではあるが、事実なので仕方ない)、なにより髪の毛を真っ赤に染めているような人との関わりを持ったことなんて一度としてなかったからだ。

 じゃあ、どうして恋人同士なんて桃色な関係になってしまったのか、というと。

 話をするには、十年ぐらい前の春先までさかのぼることになる。





「怪しい人にはついていっちゃいけませんよ」

 母はよく、その定型詩を僕が外に出るたびに言っていた。当時の僕もそのことについては重々承知していて、過去に二度ほどやってきた「お菓子あげるよおじさん」には二度とも拒絶の小槌をふるった経験がある(あの時の心底ショックそうな反応といい、もしかするとあのおじさんはただのいい人だったのかもしれない。今では確かめる術もないけど)。

 住んでいた町内全体がそういう雰囲気をまとっていたこともあって、不審者や犯罪者といった類の人は比較的少なかったといえよう。なんてことはない、たいそう綺麗で、平和な町だったのだ。



 思えば、あの時点ですでに、僕と天音さんとの恋のハードルは上がりに上がっていたのだなあ、と適当に感心してみる。正直、この状況自体は、二人にとっては大した障害にはなりえなかった。

 ハードルが飛べないなら、くぐればいい。

 壁が高いなら、ぶち抜けばいい。

 天音さんは、どうやら生まれつきそういう人だったらしい。



「――そこの少年。お宝、あげよっか?」



 見慣れた通学路沿いの公園のベンチに、天音さんは長い足を組んで座っていた。このときの天音さんの髪はたしか……ええと、緑色でセミロング程度だった気がする。十年も前のことなので細かいところは曖昧だが。

 とにかく不審者なのは明らかだったため、僕は天音さんを無視してすぐにその場を離れた。

 逃げは、しなかった。はたして成功だったのか、失敗だったのか。

 ……そのままいつものペースで歩いていると、後ろから誰かの気配がした。立ち止まって、うしろを振り向く。

 ニヤニヤとした顔の天音さんが、僕を見下ろしていた。

「……なんですか?」

 ああ、子供だったころの僕のなんと律儀なことか。不審者相手に「なんですか?」なんて言葉を吐ける度胸には自分のことながら感服せざるをえない。無鉄砲とも言うが。というかそっちの方がだいぶ有力だ。

「うふふ、お宝をあげよーかと言っとるんだぜ、少年よ」

 天音さんは――これまた、たいそう不思議な話なのだが――今とまったく変わらない安定したプロポーションで、目の前の小学生を相手に堂々と不審発言をしていた。近所の人が見たら間違いなく通報するレベルの非合法なことまで生身でやり遂げていた。……うむ、最後はちょっと誇大表現かな。最近のファッションからすればへそを見せるなんて当たり前のことみたいだから。

 まあとにかく、当時の僕は大変困った。なにしろ白昼堂々、犯人からの犯行声明を受けているようなものだったし、かといってこのままだとなんというか、気まずい。



 だから、とりあえず誘いにのってあげた。



「何をくれるんですか?」

「おぉ、食いつくねぇ少年。若者はそうこなくっちゃあのん、くはははっ」

 快活に笑いながら、天音さんは僕に背を向けてさっきの公園へと入っていく。僕はその光景をじっとその場で見つめていた。まったく、一歩も動かずに。

 少ししてから、公園から天音さんが出てきて、僕のもとまで駆け寄ってきた。

「おいおい少年よ。ついてくるんじゃなかったんけ?」

「怪しい人には、ついていっちゃいけないって言われてます」今にして思えば失礼極まりない。

 僕の返事に天音さんは目を丸くしたが、すぐに元に戻って、僕の目の前でしゃがみこんだ。

「この天音つぁんが、どうして怪しい人に見えるのかね? ん?」

 天使のように優しい口調で、天音さんは囁いてきた。……うあ、なんかすごい。鼓膜を揺らす天音さんのほどよく高い声は、頭の中にしつこく根付いたようだった。

「ほれ、さっさといっくぞ少年。我らがほんきょち、公園までれっつごーだべ」

 ところどころ棒読みで話してから、天音さんは僕の手をとってぐいぐいと引っ張ってきた。

 抵抗する気はそんなになかった。変なことだが、本当にそうだったのだから仕方がない。



 たぶん、このときにはすでに――僕は天音さんのことを、少しばかり意識してしまっていたのかもしれない。

 ありえない話かもしれないが、案外間違いでもなさそうだった。











 ――それから何があったのか、僕も正直なところは覚えていなかったりする。拍子抜けで申し訳ないが、だいたい記憶の通りだ。

 とにかく、覚えているのは『天音さんは宇宙人だ』ということだけ。

 ……おや、なんだか意味不明という感じの反応みたいだけど。一応言っとくけど「ほんとのことだからのぉ」

 僕の言葉を天音さん本人が代弁してくれた。けだるそうな仕草で、もう五杯目になるビール缶を掴む。おつまみなど皆無だ。僕がわざわざ作ってきた弁当なんて、まだ蓋すら開けていない。

 花にも団子にも目がないというのは、ある意味珍しい気もしてきた。



「……あの、天音さん」

「んいぃ? なんぞ?」

「これって、花見、なんですよね」

 周りを見渡すと、僕らと同じ目的でここに訪れている人たちがたくさん見える。大人数で騒いだりはしゃいだり、陽気な気分がこちらまで流れてきているみたいだ。

 反して、僕らはたった二人。……いや、人数はそんなに気にならないのだけど。

 空気とか、もっとそういう何かが、根本的に違う気がしていた。

「あー、そだな。花見だ花見。天音つぁんのことは気にせんぜ、とかく花を見るべし。な?」

「はあ……」会うたびに思うのだが、一体どこの方言を使っているのだろう。本人に聞いたら「木星語じゃ」とか言いそうなのでやめておいた。

 頭上の桜を見上げると、五、六枚の花びらが風に舞って飛んでいくのがわかった。細い枝は折れそうになりながら、自分を支えて、根を支えて、葉っぱを支えて耐えている。



 会話もなく、相槌もなく。

 天音さんが酔いでぶっ倒れたのは、それから何時間も後、夕方のことだった。




はてさて、どうなることやら。

(下)にご期待ください。それではっ。

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