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どっちがどっち?

手始めに一作。ある友人からもらったお題を元に書いたものです。お題の内容はあとがきにて。

作者の実力をはかるための参考程度にお読みください。ではどうぞ↓

 ……うむ、難しい。


 この二つの違いを見つけるのは、おそらくカタカナの「ソ」と「ン」を見分けるぐらい難しいだろう。いや、ひょっとすると、ひらがなの「へ」とカタカナの「ヘ」を見分けるぐらい難しいのかもしれない。


 ここでちょっと新発見だったのが、「へ」はカタカナに直すと左の下がっている部分がちょこっとだけ短くなるようだ。これで今後、この二つを見分けろというようなとてつもなく無茶なことを言われても、答えられる自信ができた。あったところで使い道もないが。






 ……さて、今私の目の前には、二つのどんぶりが置かれている。




 片方は、近所のスーパーマーケットで売られていた「中華そば」なる、いわゆる棒ラーメンの一種。


 そしてもう片方は、わざわざ通販のチラシを見て取り寄せた、「醤油ラーメン」という名の老舗のラーメンセット(本物かどうかは疑わしい)の入ったどんぶり。




 この二つ、似ているようで、何かが違う。そのはずだ。


 なぜなら、片方は「中華そば」であり、もう片方は「醤油ラーメン」だからである。他に理由などない。


 ……どうしたものか。


 まあなんにせよ、食べ比べてみるしか方法はなさそうだ。






 私が先に手をつけたのは、棒ラーメンの「中華そば」だった。れんげを手にとり、スープをすくって飲む。一番最初に飲むときには音を立てずに静かに飲む、というのが私のこだわりだったりする。


 ……うむ、美味い。


 さすがは庶民の味といったところか。貧乏人たちの味覚を中途半端に捕らえる味の適度さが大変喜ばしい。もう一度すくって飲む。今度はずずずず、と啜って飲んだ。音が変わろうとも味は変わらない。つまり美味いということである。


 肝心の麺はどうだろう。新品の割り箸を不器用に使い(普段は洋食を食べているから使い慣れていないのだ。お恥ずかしい)、麺を一本だけ掴んで口に入れる。もちろん、すぐに吸ったりなどしない。少しずつ少しずつ、口の中へと麺を入れていく。


 ……率直にいうと、固い。まだ麺がゆできれていなかったのだろうか。それとも、これ自体も一種の特徴であると考えた方がいいのだろうか。どちらでもいいか。


 普通は、この上にちゃーしゅー(字が分からない……初耳だ)や、めんま(麺の……間?)といった具材を乗せるらしいと聞いていたのだが、あまりお金もなかったし詳細が知れなかったので諦めた。いたしかたない。




 たっぷり三十分ほどかけて、私は「中華そば」を心の底まで堪能した。

 ――ああ、これが至福のとき、というのだろうか? スープのぬくもりはまるで聖母のまなざしのように私の心を癒してくれる。おお、神よ。今日もお恵みに感謝いたします。


 祈祷もほどほどに、私は次に「醤油ラーメン」を食べることにした……のだが。




 ……麺が、でろでろになっている。


 なんなんだこれは。まったく写真どうりの出来ではない。そもそも、三十分前はこんな姿ではなかったはず。ではなぜ……?


 ためしにスープを飲んでみようと思ったのだが、どんぶりの中にあふれるほど入っていたスープは知らぬ間にどこかへ姿を消している。どこに逃げてしまったのか……。


 仕方がないので、なにやら伸びに伸びている麺の一本を慎重に掴み、口に運ぶ。


 もぐもぐ。もぐもぐ。


 ごくん。


 ……うえぇっ。


 なんだこの物体は……! これが、あの「醤油ラーメン」だというのか?


 私は怒鳴り散らしたい気分でいっぱいだった。「中華そば」と似ていると聞いていたものだから、私はまたさっきのような幸福、いやそれ以上の感慨を味わえるのではないかと期待していたのだ。それがまさか、こんな代物だったなんて……。




 ――ん、待てよ……?


 もしかして、これは冷えてしまったからおいしくない、のでは?


 なるほど、それなら合点がいく。同時に二つとも作ってしまったわけだから、片方を食べている間にもう片方が冷めるのは至極当然のことだった。われながらなんという失態。


 ということは、解決方法は簡単だ。



 ――チーン、である。






 ……電子レンジから姿を現したその物体は、さらにすごい形状へと変化していた……。


 これを食べろというのか……? 我が神よ。


 しかし、食べないわけにはいかない。私はこの二つの違いをなんとしてでも知りたいのだ。単純な好奇心は、ときに苦痛を超えることがある。ものは試し、ともいう。


 私は、今度こそ恐る恐る、麺の一本を口の中に放りこんだ――。






 ――美味い……だと……?






 まさかの展開だ。よりにもよって、まさか「醤油ラーメン」がこんなに美味だなんて!


 溶けるようにしなった麺は見た目こそ最悪なものの、いざ食べるとほどよい口どけ感が良い効果をもたらし、口内にじわじわと広がる感覚は癖になるほど心地いい。独特の和風の香りが、喉から鼻へと伝わっていく。


 これが……「醤油ラーメン」。


 すばらしい……ああ、神よ。今度こそ、私は心の底から感謝いたします。あとさっきちょっと疑ってしまってごめんなさい。ちょっとした気の迷いです。すいませんでした。


 脳内でいまだ至福のひと時を味わいながら、私は「醤油ラーメン」の残りをむさぼるように食すのだった……。






 さて、それから何日か経って、私が友人とともに行ったラーメン店で大きな恥をかいたことは言うまでもないだろう。


 いやはや、日本の文化は、実に奥深いものだなあ。





 ――ところで、つい最近正月を迎えて、友人の家で「おぞうに」(おぞましいうにの略、かと思っていたが、友人には大爆笑された)を食した私は、また新たな疑問にさいなまれていた。




 ……「丸餅」と「角餅」、一体何が違うのだろう。




 私は今日も、日本文化の奥深さをしみじみと感じている。




お題は、「中華そばと醤油ラーメン」。

ありがとうございました。

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