花火の音
初投稿です!!
拙い文章ではありますが、最後まで楽しんで頂けたら幸いです。
夏は嫌いだ。なぜなら、一年で最も日差しが強く、気温が高い季節だからだ。しかも、8月に入った今は、日中の最高気温が30℃以上になることも多い。そんな時期に、昼間から不必要な外出をするヤツの気持ちがさっぱり分からない。そんなヤツとは気が合うはずもない、とさえ考えてしまう。
そう、気が合うはずがないのだ。普通なら。だが、例外がたった一人だけいた………。
「おーい、友」
前方から声が聞こえ顔を上げると、俺を呼んだ人物がこっちに向かって走ってくるのがみえた。
「悪い悪い。待ち合わせ時間に間に合うように少し早めに出てきたんだが、やっぱ友のほうが早かったか。待ったか?」
「……いや、俺も今来たところだ」
何でもないように、涼しげに答える。
俺のことを友というあだ名で呼ぶこいつは、本宮蓮。幼稚園以来の俺の幼馴染みで、親友である。
そして、俺こと倉沢友哉の最大の悩みは……
親友であるはずのこいつが、好きであること。
こいつのことを意識してしまったのは、小学校4年生の頃だったろうか。それまでは、幼稚園や小学校が一緒で、家も近く、親同士が仲がよかったこともあって、いつも一緒にいる友達ぐらいにしか思っていなかった。
蓮はよく外を駆け回るほど活発で、元気が有り余るほどの体力を持ち、スポーツ万能であるが、頭はあまりよくなく、成績はいつも下のほうであった。対する俺は逆で、成績は学年で常に上位をキープしているが、スポーツという名のつくものは全て苦手という運動オンチである。性格も正反対で、蓮は明るく、誰とでも気さくに話せて友達が多いタイプであるのに対して、俺は口数が少く、人とはあまり関わろうとしない、友達が少ないタイプだった。
しかし、気付いたとしても、どうすればいいのか全く分からなかった。まさか自分が、よりによって男に、しかも親友に恋愛感情を抱くなんて、夢にも思わなかった。
だが、男だと分かっていても、蓮が好きだという感情は止まらない。むしろ、加速するばかりだ。
今だって………
「……友、友!!」
はっと我に返ると、蓮が俺を呼んでいた。見ると、怪訝そうな顔をしている。
「どうしたんだよ、ぼーっとして。何かあったのか?」
「……いや、何でもない」
「本当か?」
「本当だって。用心深いなぁ」
そういっても、やはり蓮は怪訝そうな顔をしている。だが、だからといって本当のことを言うわけにはいかない。何故なら……………
「…まぁ、何でもないならいいけど。せっかく、これから花火見に行くんだから、楽しんで行けよ?」
お前と一緒にいられて、嬉しくて……………
「ほら、行こうぜ」
こうして、差し出された手を繋ぐだけでドキドキするなんてこと……………
「花火、確か7時半からだったよな。急ごうぜ」
死んでも言えるはずがないから……………
*****
「やっと、ついた」
息を荒げながら言う。穴場があると言われ、走って来たのだが、久し振りの運動と暑いということもあって、正直キツい。
「大丈夫か、友?」
気遣わしげに蓮が聞く。蓮自身は汗はかいているものの、息は上がっていない。さすがはテニス部エースというだけはある。「平気さ。このくらい」
そう言いながら、俺はそのまま地べたに座りこむ。俺に習って蓮も地べたに座りこむ。
「今日は大丈夫だったのか?暑いの苦手なんだろう?」
「ここまで涼しくなれば、問題はない。それより、お前のほうこそ大丈夫なのか?明後日、大会なんだろう?」
「あぁ、せっかく地区予選突破したんだ。悔いのないように、頑張るつもりさ。でも、花火見るくらいなら、いいだろ?」
さらりといっているが、大会は数日間に及ぶ。本当は体力を温存するべきだと思うのだが、こうして蓮と一緒にいられるのは嬉しいことなので、黙っておくことにする。
「そういやお前、来年は受験生だな。国立の医大を受けるんだっけ?」
「あぁ、まぁな。っていうかお前も来年は受験生だろ」
「俺はスポーツ推薦だから、勉強しなくてもいいのさ」
「……あぁ、そういえばそうだったな」
こいつは高校も、本来偏差値が結構高くて入学しづらいところをスポーツ推薦で入学している。気楽でいいもんだ、とため息をつきたくなるのは気のせいだろうか。 それとも、俺は蓮に対して僻んでいるだけだろうか。
「でも、そうなったら来年は花火、見に行けないな」
急に蓮が少し寂しそうな顔をする。まさか話の流れがそんな方向にいくとは思わなかったので、慌ててフォローをいれる。
「いや、花火を見に行くぐらいだったら大丈夫だろ。息抜きとしていくんだから」
「……でもお前、一応受験生だろ?」
「大丈夫だって、そのぐらい。今日だってちゃんと見に行っているだろう?それに、たまなは息抜きしないと、バテるもんなんだよ。大丈夫だよ」
必死に説得すると、蓮は次第に元気を取り戻す。
「そうだな。よし、来年も見に行こうぜ、友」
「あぁ、そのつもりだ」
蓮が笑顔になってホッとする。蓮は強引に連れ回すところはあるが、妙なところで気を遣う。そこが、不思議な感じはしたが、蓮らしくはあった。
そう思っているうちに、花火が始まった。
「お、始まったな。グットタイミングだ」
「あぁ」
地べたに座りながら、花火を見る俺達。暑かったり、走ったりで大変な目にあったが、こうして蓮と一緒に花火を見れただけでそんな疲れは吹き飛んでしまう。
「やっぱり綺麗だな。夜空に咲く花って感じで」「いきなり詩人かよ」
「ちげーよ、そのままの感想を言っただけだ」
おかしなもんだ、と笑ったあと、俺達は黙って花火を見続ける。
しばらくした後、蓮が口を開いた。
「友、俺さ」
「ん?」
花火は一休みしながらもドンドンと鳴り続ける。
「明後日の大会、絶対に優勝するよ」
「当たり前だろ?っていうか、そのために今まで頑張ってきたんだろ?」
「あぁ、そうなんだけど、大会を優勝したら、お願いがあるんだ」
ドンドンと鳴り続けていた花火が一旦静まる。
「な、なんだよ、なんかおごって欲しいのか?言っとくけど、あまり高いのはなしだぞ」
「いや、そういうんじゃないんだ。俺がお願いしたいのは……」
花火がひゅーという音を上げて、夜空に光の線を描いていく。
「お前とは、親友としているのはやめて欲しいんだ」
ドンと一際大きな花火が鳴る。
「……えっ、今、なんて……」
「親友をやめて欲しいと言ったんだ。」
続けて鳴り咲く花火の形が一瞬にしてぼやける。
「なん、で………?」
「俺は………」
また、花火が一旦静まる。
「お前のこと………」
また、ひゅーという音を上げて光の線を描く。
「好きだから、恋人として付き合って欲しいんだ」
ドンとさっきより、大きな花火が鳴る。
「……………………は?」
一瞬、時が止まる。
「今、なんて………?」
「……二度も言わせるなよ」
蓮の顔が、真剣な表情をして、こちらをみる。
「俺は、お前のことが好きなんだよ、友哉」
「……………」
すぐには、理解できなかった。ただ、ぽけっとしている状態だった。やがて、蓮の言った言葉を飲み込むなり、目からぼたぼだと涙があふれた。
「わっ?!と、友?!」
蓮の焦る声が聞こえたが、もう遅かった。ヒック、ヒックとしゃっくりをあげながら、俺は泣いてしまった。
「な、泣くなよ、友、おい」
「だって、だって………」
そういって涙が止まらない。
嬉しかったから。ずっと片思いだとあきらめていたのに、蓮が俺が好きだと言ってくれたから、友哉と初めてちゃんと名前を呼んでくれたから、嬉しかった。そう伝えたいのに、涙ばかりが出てくるだけで、言葉がでない。
「お、おい。わ、悪かったよ。今のは忘れてくれ!どうかしてたんだ。な、な?」
嫌われたと思ったのか、急にそんなことを言い出す蓮。その言葉で俺は思わず顔を上げ、叫ぶ。
「蓮!!!」
「?!!」
いきなり呼ばれて一瞬固まった蓮の唇に、俺はすかさず自分の唇を押し付ける。
いってみれば、触れるだけのキスだった。時間も長くはなく、せいぜい5秒くらいだったと思う。だが、そんな短い時間が永遠が思われる程長く感じられた。
やがて、唇を離すと俺は涙が止まっていて、蓮は気のぬけた表情をしていた。花火の音より、お互いの心臓の音のほうが聞こえて、うるさい。
「……………」
「……………」
お互い、しばらく無言だったが、やがて、蓮の目が真剣になるのが分かった。えっ、と思ううちに、今度は蓮に唇を塞がれた。舌が口の中に侵入してくる。
「ん、………ふ、………」
息が出来ない。なんとかしようとするが、蓮はそれさえも許してくれそうない。蓮は自分の舌で、俺の歯を、歯茎を、舌を、乱暴に侵していく。
「れ、れん……ふぅ………」
飲み込めない唾液が流れていく。これ以上やったら酸欠になるというところで、やっと蓮は唇を離した。
ぷはっと音と同時に俺は息を荒げる。二人の間には銀の糸が垂れている。
「………人がせっかく、必死に我慢しているのに、煽るなよ」
蓮はそう言いながら苦笑した。花火の光のせいで、蓮の顔がいつもより綺麗に見えた。
「煽ってるつもりはない。俺はただ、好きなんだという気持ちを正直に答えたまでだ」
「それを煽っているというんだよ。全く……」
そう言って蓮は笑いだす。つられて俺も笑いだす。そして、俺達は大笑いした。何がおかしいというわけではなく、ただ笑う。笑って笑って、笑い合った。
ひとしきり笑った後、俺達は花火を見た。何も言わず、ただ見た。お互い無言だった。ただ、花火の音だけが鳴り響いていた。そんな状態がどのくらい続いただろうか。俺は何ということもなく、口を開いた。
「蓮、あのさ……」
「……なんだ?」
一呼吸おいてから、言い出す。
「……大会で優勝したら、続き……してもいいぞ」
ブッと吹く音が聞こえた。見ると、蓮が顔を真っ赤にしているのが見えた。
「なっ、な……っ!」
顔を真っ赤にしている蓮は可愛いなぁと思ったのだが、あまりに真っ赤にしているので、言っているこっちが恥かしくなってくる。
「お、お前、な、な、何を……!」
「だから!!!」
声を荒げた後、一呼吸をおく。顔がかなり熱い。
「………大会、頑張れよ」
「へ………?」
蓮が惚けた顔をする。
「そ、そんな顔するなよ!言っているこっちが恥かしくなってくる!!」
「……いや、言っている内容自体が、すでに恥かしいと思うぞ」
「うるさい!とにかく頑張ってこいって俺は言ってるんだ!!」
俺は顔が熱いのに、必死に言っているのに、蓮は笑っている。おかしそうに笑っている。そんな余裕をかましているかのような姿が少し、悔しかった。
やがて、蓮は笑い終えると、目を閉じて言った。
「……ありがとう。俺、なんだか元気がでてきた」
穏やかな表情だった。俺は、嬉しくて嬉しくて飛び上がりたいのを堪えて、言葉を紡ぐ。
「明後日の大会、ちゃんと勝てよ?」
「あぁ」
「絶対だぞ」
「あぁ。お前こそ、勉強、頑張れよ」
「分かってるよ」
「友」
「ん?」
花火の音が相変わらずうるさい中、蓮は一呼吸おいてから口を開いた。
「……来年も二人で、この場所で、花火を見よう」
「うん……」
拒否するつもりはなかった。
不意に、蓮は俺の手をそっと握る。何かを確かめるかのように。その瞬間、俺の心臓の鼓動は早くなる。
「……愛してるよ、友哉」
「……あぁ」
俺もだ、とは恥かしくていえず、ただ蓮の手を握り返すことしかできなかった。蓮の手は大きくて、温かい。俺は今、幸せな気分だった。
そんな俺達を祝福しているのかのように、夜空に色とりどりの花が咲いた。
一応、気をつけてはいるのですが、携帯からの投稿なので、パソコンからみた場合、読みづらく感じたところがあるかもしれません。その場合は、遠慮なくご指摘ください。
その他、意見や感想を書いて頂ければありがたいです。
最後まで、こんな拙い文章を読んで頂き、ありがとうございました。