森の小さな教会に
***BL*** 森の小さな教会に、一人の男の子が住んでいました。 ハッピーエンド
鍋で沸かしたお湯がグツグツ言っている。
部屋に響くのは、この音と、僕の足音。教会を掃除する音。外から聞こえる風の音。鳥の囀り、、、。
鍋からお湯を掬ってカップに入れる。ぐうぅぅ、、、っと鳴るお腹の音を無視して、白湯を飲む。火傷をしない様にゆっくり、ゆっくり息を吹き掛けて冷ましながら、、、。
窓の外は快晴、、、。
神父様、空の上で見てるかな、、、。今日は良い天気ですよ。神父様は天国で何をしてますか?
*****
神父様は高齢で、体調を崩してからあっと言う間に天国に召された。
町から離れた、昔からある小さな教会。神父様が若い頃は、身寄りの無い子供を預かり、共同生活をしていたらしいけど、今では僕一人。
ぼんやり白湯を飲んで、ため息を吐く。僕は湖まで行き、釣りを始めた。
取り敢えず、朝ご飯を釣らないと。釣竿を振りながら、擬似餌で魚を誘き寄せる。虫が水面ギリギリを飛ぶ真似をして、少し水の中を走らせると、騙された魚がパクリと餌を食べる。
良かった。今日は魚が食べられる。
疑似餌が壊れない様に、すぐに取り外す。その場でナイフを使い腹を切り、湖の水で魚を洗う。ここで下処理をしてしまえば、他の魚が内臓を食べてくれるし、キッチンも汚れない。
教会に持ち帰り、魚を焼く。神父様にもっと料理を習っておけば良かった、、、。
もうすぐ冬が終わる頃。
「そろそろリアムに料理を教えないとね」
そんな話しをした翌日に、神父様が倒れた。
神父様をベッドに連れて行く力も無いから、どうする事も出来なくて、だから、その場で看病した。
ベッドから枕と布団を持って来て、神父様に使う。枕を頭の下に差し込み、布団を掛けた。
その後は何をするべきか分からない。熱があれば、タオルを濡らして何度も交換すれば良い。でも、熱がある訳でも無かった。
教会にはお金が無いから、僕達はいつも病気にならない様に気を付けていた。もし、病気になっても、寝るだけだ。
僕は神父様に布団を掛けて寝かせた。
不安で神父様から離れる事が出来ない。
次の日の朝、神父様に朝の挨拶をした。神父様は相変わらず寝ていた。今日は良く寝る日だな、、、と思いながら、裏の畑を見に行く。昨日そろそろ食べ頃かな?と思った野菜を取りに行き、森に果物や木の実、きのこが無いかと探しに行く。
僕が教会に戻ると、レイントンさんが来ていた。
レイントンさんは、気が向いた時に教会に顔を出してくれる。
「リアム、、、神父様が」
「はい、今日は良く眠られています。夜は何度も起きてしまうと言っていたので、このまま寝かせてあげようと思います」
「、、、神父様は天国に召された様だよ」
「え、、、?」
レイントンさんは、僕の頭をポンポンと叩いた。
「町から人を呼んで来るから、待っていて」
「、、、はい」
レイントンさんは、一度街に戻ると葬儀屋さんを連れて来た。
教会から少し離れた、湖の辺りに少し開けた場所がある。日当たりもちょうど良く、レイントンさんはそこに神父様のお墓を作ってくれた。
レイントンさんも子供の頃から、神父様に育てて貰った。小さな小さなお墓だけど、僕は嬉しかった。
「レイントンさん、ありがとうございます」
「リアムはこれからどうするの?」
どうする?
「一人で教会に住むのかい?」
「はい」
キョトンとした。
「あ!神父様がいなくなったから、教会に住んではいけないのですか?」
「そんな事は無いよ。一人でやっていけるのか心配で、、、」
「大丈夫です!僕、魚も釣れるし、畑もあります。森にも食べ物が沢山ありますから!洗濯だって僕の仕事だったし!それに、、、神父様が一人になっちゃうと可哀想だから、、、」
窓からお墓は見えない。丁度植え込みに隠れているから、、、。
「あの、、、レイントンさん、神父様のお墓を作ってくれて有難う御座います。神父様、喜んでると思います」
いつも優しく笑ってくれた神父様。僕は一度も怒られた事が無かった。何か失敗しても
「大丈夫、大丈夫」
と言ってくれた。
ポロリ
「神父様、、、」
一粒流れた涙の所為で、僕は泣くのを我慢出来なくなった。
「、、、うわぁーん!神父様ぁ〜!いなくなっちゃやだよーっ!」
言葉にした途端に、淋しさが溢れて止まらなくなった。
うわぁぁぁ!
泣けば泣く程、涙は止まらない。
神父様、僕を一人にしないで、、、。
あれから二週間も経つのに、僕は思い出す度涙が込み上げる。泣かない様に頑張りたいのに、中々難しい事だった。
**********
あの日、リアムが泣いて少しホッとした。こんなに小さな子が独りぼっちになって、不安じゃ無い訳が無い。
俺は思わず抱き上げた。
軽い、、、。
この子を一人で此処に置いて行って良いんだろうか、、、。リアムは俺に抱っこされながら、わんわん泣いた。
彼は生まれて間もなく捨てられた。教会の前に、ポツンと置かれていたんだ。それまでは俺が一番年下だったから、リアムが来た時は嬉しかった。
俺が六歳の頃だ。教会には十歳年上の女性と、彼女より二つ年上の男性がいて、神父様と四人で暮らしていた。
それ以前には、もう少し沢山の親のいない子供達がいて、貴族からの寄付やもっと大きな教会からの援助で、何とかやっていけた。
でも、彼と彼女が結婚して教会を出た辺りから、少しずつ寄付の金額が減り、少しずつ援助が無くなった。
街の中の大きな教会が施設を作り、親のいない子供を沢山預かる様になると、街から離れた湖畔の教会は忘れ去られる様になった。
赤ん坊のリアムは天使だった。可愛くて可愛くて堪らない。
俺はいつも彼を背負い、一緒に行動していた。
小さな頃、リアムは俺の事を「レイ、レイ!」と呼んで追い掛けた。いつも二人で過ごしていたんだ。
でも、俺が一三歳でリアムが七歳の頃、俺は教会を出た。新しい生活に慣れるまで、一人で頑張っていた。
教会に顔を出せる余裕が出来たのは、つい最近。
そして、久しぶりに会ったリアムは、大人になった俺に緊張したのか、レイントンさんと呼ぶ様になっていた。
*****
神父様に何かあったら、街の教会に連絡する事になっていた。彼との約束だ。だから、俺は街に行き、神父様の事をお願いして来た。
古くて小さな教会は、リアムが拾われる前に取り壊される予定だった。神父様も高齢で後を引き継ぐ人もいない、礼拝に訪れる人もいない、ただ取り壊す費用も無い為、神父様が譲り受けた。
リアムが一人になった時、住む場所が無くなるのは心配だからだ。教会は自由にして良いと言われた。だから、このままリアムが住んでも問題無い。
*****
リアムは泣き疲れたのか、静かになった。寝息が聞こえる。
小さな教会の奥には生活用の部屋がある。
俺が小さい頃は、一人に一つベッドが与えられる事は無かった。大抵二人か三人で使っていた。一番子供が多い時はベッドも無く、床で寝ていたそうだ。
リアムのベッドに彼を寝かせる。
本当に一人で大丈夫だろうか、、、。
かと言って、俺が引き取るには不安もあるんだけれど。
十三歳の俺に仕事を見つけるのは大変だった。どんな簡単な仕事でも良いから探した。金が無いからと断られれば、リンゴ一つで仕事をする事もあったし、寝る場所を借りる事もあった。
少しの金を、寝ている間に盗まれた事もあるし、仕事の無い日もある。
少しずつ俺を覚えてくれる人も増え、彼方から俺を探して、仕事を依頼してくれる日も増えた。
「いつもフラフラしていると依頼がし難い」
と言われ、住む場所も見つけた。
誰も住んでいないボロ屋を貰い、時間を掛けて直していった。今では、大分まともになり、立派な俺の屋敷になった。まぁ、一人しか住めない広さだけど、、、。
「ん、、、」
リアムが起きたみたいだ。
「リアム?」
「レイントンさん、、、」
むくりと起き上がり、俺の顔を見るとまた泣き出す。
「神父様が、、、神父様が、、、」
「暫く、俺の家に来るか?」
頭を撫でながら言うと、首を振る。
「、、、神父様が一人になっちゃうから、、、」
そう言って、教会を離れるのを嫌がった。
それから俺は度々此処を訪れる。何か必要な物が無いか、気に掛けながら、、、。
*****
神父様が亡くなって、半年程経つと、リアムも一人で何とか生活出来る様になっていた。
森で果物や木の実を探し、湖で魚を釣る。
毎日、食べる物を探すだけで終わる。
しかし、本格的な冬になったら大丈夫だろうが、、、。そう思うと少し心配になって来た。
*****
肌寒くなって来た頃、リアムの服の袖がかなり短い事に気が付いた。彼は身体が細いから小さくなった洋服も着れてしまう。
「俺のお古になっちゃうけど、、、」
そう言って、何着か見せた。
「くれるんですか?」
嬉しそうだ。
「新しい服だ、、、。嬉しい、、、」
「また、着られない服があったら持って来るよ」
そうだ、今度街でもいらない服が無いか、聞いてみよう。冬が来たら必要になるし、早目に探した方が良い。
神父様は俺達に、文字や計算を教えてくれた。簡単な足し算と引き算。絵本は何度も読み聞かせた。同じ本しかなかったから、何度も聞いている内に子供達は内容を覚えてしまう。いつの間にか自分で読む様になり、みんな勝手に文字を覚えた。
リアムも文字が読める。だから、ボロボロになって、もう捨てるしか無い本を貰い、持って来る。
本一冊を買う金が有れば、パンや肉を買った方が良い。
でも、リアムには必要だった。
いくら教会の周りで生活が整うとはいえ、街に出た時に困らない程度にはしておきたい。計算が出来ないからと釣銭を誤魔化されたり、文字が読めないからと騙される事もある。
リアムは本を持って来るとすぐに読み耽る。良い事だ。この教会は、時間の流れが穏やかでのんびりしている。本を読んで過ごす位が丁度良いだろう。
*****
俺の仕事も順調になって来て、ちょっとした修理依頼も増えた。捨てる様な物を引き取る事もあった。修理に使える部品を集める為だ。頼まれた事は何でもやると決めていたから、纏まった金が入る時もある。
食事も毎食食べられる様になり、生活も安定して来た。
**********
レイントンさんが街に連れて行ってくれると言った。僕は嬉しくて、前の晩から眠れない。
洗濯して、まだ着ていない綺麗な服を椅子の背凭れに掛けた。布団の中からそれを眺めて、うふふと笑う。
明日の朝、レイントンさんが迎えに来てくれるんだ。
レイントンに会えるのが楽しみだった。
*****
教会の周りには花が咲いている。レイントンさんはそれを見ながら
「リアム、この花、少し分けて貰えるかな?」
と言った。
「大丈夫です。綺麗な所を選んで、好きなだけどうぞ」
あれ?でもこれから街に行くんだよね?誰かにプレゼントかな?
レイントンさんは、丁寧に花を摘むと、小さな布に水を含ませ、茎を紐で縛った。
「昼まで保てばいいんだ」
と笑った。
僕達は街まで歩いて行く。レイントンさんから貰ったお古の鞄を肩から下げた。
街に着くとレイントンさんは
「ちょっと待ってて」
と僕に声を掛けると、一人の女性に近付いた。
二人の話し声は聞こえない。彼が花束を渡すと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
ステキだな、、、。
と、思った。彼女の笑顔が飛び切りで、僕は少し悲しかった。
彼女の為に花を摘んだんだ、、、。
僕は彼女が少し羨ましかった。
邪魔をしてはいけないと思って、少しその場から離れる。
ベンチを見つけた。
ほんの少し日陰になっていた。僕はそこに座ると二人を眺めた。
「隣りに良いかな?」
見上げると、優しそうな笑顔の人が立っている。神父様はみたいな、穏やかな感じだった。
「どうぞ」
と笑う。
「今日は良い天気だねぇ、1人かい?」
「いえ、知っている人に、初めて街に連れて来て貰いました」
初めてと聞くとその人は
「街には美味しい物がたくさんあるよ。例えば、あのジューススタンド。喉は乾いて無いないかな?」
着いて早々、レイントンさんは彼女の所へ行ってしまったから、僕はジュースに興味が沸いた。隣に座った人が
「ジュースをご馳走するよ。私も飲みたかったんだ。でも、一人で買うのは少し恥ずかしいから、我慢をしていた」
と笑う。
僕はジュースが飲みたかった。
「良いんですか?」
と返事をすると、その人は僕の手を繋ぎ、ジューススタンドの方へ歩いた。
**********
しまった。彼女との話しに夢中になって、リアムから目を離していた。
「ごめん!お婆さんによろしくね!」
そう言って、彼女と別れた。
俺はリアムを探す。
サッと見渡した限り、見当たらない。
今日のリアムはどんな格好だった?
あまり特徴の無い服装だ。俺のお古の服で、誰でも着ていそうな、汚れの目立たない服だった。肩から鞄を下げていたな、、、。
「リアムーッ!」
叫んでも返事が無い。俺は走りながら探した。
此処何年か、子供がいなくなる事件があった。滅多に無い事でも、一度気になるとリアムが心配になる。
「リアムーッ!」
あの鞄の色っ!少し緑がかった肩掛けのベルト!知らない男に手を引かれて、馬車に乗ろうとしていた。
俺は走って叫ぶ
「リアム!」
リアムは振り向いた。
「リアム!おいで!」
リアムは、男の顔を見上げてニコリと笑うと、手を離した。小さな手を、バイバイと振りながら此方に走って来る。
俺は、男に一応会釈をして、リアムの手を握った。
男も会釈をして、馬車に乗る。二人で見送り、見えなくなってから
「リアム、知らない人に着いていったら危ないよ?」
「知らない人じゃないよ?ジュースをご馳走になって、たくさん話しをしたんだ」
「あの人の名前を聞いた?」
「、、、?」
俺は反省した。リアムを一人にしたのは俺だ。
「リアム、初めて会った人や名前の分からない人に着いて行くのは危険だよ?」
「ごめんなさい。あの人の馬車、椅子がふかふかで気持ちが良いよって言われたんだ」
、、、本当に危ない所だったかも知れない、、、。
「馬車に乗って、高い所からレイントンさんを探したらすぐ見つかるって教えてくれたから」
もしかしたら、そう言って子供を馬車に乗せて攫うのかも知れない、、、。
「リアム、ごめん。俺がいけなかったね、、、。初めて来たのに、一人にしてしまったから」
もし、あのまま連れ去られてしまったら、もう二度と会えなかっただろう、、、。想像しただけで、ゾッとした。
「ううん、大丈夫!次は何処に行くの?」
「古本を見に行こう」
「本!」
リアムは機嫌が良かった。彼自身は怖い思いをしなかった様だ。
「良い本が見つかったら、一冊だけ買って良いよ」
「やった!」
彼は嬉しそうに俺と腕を組む。
リアムは熱心に本を選ぶ。
読みやすいのは、子供の絵本。でも、すぐに読み終わってしまいそうだ。
「少し難しくても、長い話の方が良いかな?」
文字が読めるリアムなら大丈夫だろう。
「本当?でも、高いよ?」
古本と言えども、子供向けの絵本は安く、小説の類は少し高い。
「一冊だけだからね。長く長く読める方が良いよ」
「そっか、、、」
リアムは分厚い本を手に取ると、パラパラと捲る。たまにある挿し絵が気に入った様で、後ろの方も捲る。
何冊かをじっくり迷いながら、一冊選び抜いた
「レイントンさん、この本、良いですか?」
「良いよ」
大分草臥た本だった。何度も何度も読まれたのかも知れない。
「どんな本?」
「男の子が冒険するんだ。ちょっと面白そう」
リアムには良いかも知れない。
俺は、本の代金を払いリアムに渡した。彼は大事そうに鞄にしまう。
店を出てから
「俺の家で本を修理しようか?」
と言うと
「直せるの?!」
「背表紙ならね」
リアムがびっくりしていた。
俺の小さな家に着くと、リアムはキョロキョロしていた。
庭とリビングは作業場で、小さな台所の狭いテーブルは俺が食事を取る場所。奥には寝室がある。
「教会とは全然違う、、、」
そうか、リアムは教会しか知らない。他人の家に入るのは初めてだ。
「先に何か食べよう」
と言うと、リアムのお腹がぐうぅっ、、、と鳴った。
俺は、パンを焼いてハムと温めたチーズを乗せる。
リアムは目を輝かせていた。
俺の身長に合わせたテーブルと椅子は、リアムには高すぎた。足をブラブラさせて料理を待つリアムは可愛かった。
*****
俺は本を修理しながら
「冬の間だけでも、一緒に住まないか?」
とリアムに言った。別々に使用する燃料の節約にもなるし、何より安心だからだ。
「教会に比べたら狭いけど、雪が降ったら心配だし、春まで此処で過ごしたらどうかな、、、」
神父様が亡くなって初めての冬、、、。
「レイントンさんのお家に?」
「狭いけど、何とかなると思うよ。今年初めて一人で冬を過ごすだろう?心配なんだ」
「、、、でも、神父様が一人になっちゃうよ?」
「お墓が心配?」
リアムは頷いた。
「それなら、週末は教会に帰ろうか」
「うん!」
それから二人で温かいミルクを飲みながら、冬をどう過ごすか考えた。
夜も遅くなり、一晩泊まってからリアムを送る事にした。
俺のベッドで眠るリアムは、十歳にしては身体が小さい。
俺が教会を出た時より三歳も年下だ、、、。この歳で独りぼっちになってしまったのか、、、。
昼間の件もある、もし、教会に誰かが押し入ったら、、、。
ゾクリとした。あまり考えたく無い事を考えてしまった。
昼間の男が、リアムを襲う。助けを呼んでも街から離れているから誰も来ない。
万が一そんな事があったら
リアムを、、、守らないと、、、
**********
朝、目が覚めるとレイントンさんが隣に寝ていた。レイントンさんの体温が温かくて、気持ち良かった。
神父様が亡くなってからは、いつも一人ぼっちの夜。大分慣れたけど、やっぱり大人の人がいると安心する。
風の音にビク付き、狼の遠吠えに恐怖した。
部屋の軋む音が響くと、誰かが隠れているんじゃ無いかと怖かった。
レイントンさんが教会を出て行く前は、いつも一緒にいた。僕の手を繋いだり、背負ってくれた。
眠っているレイントンさんにそっと抱き付く。彼は無意識に僕を抱き締めて、背中を摩ってくれる。
*****
朝、二人で朝食を摂っていると、誰かが扉を叩いた。
窓から昨日の女性が見えた。
「ご飯を食べていて」
そう言いながらレイントンさんは席を立つ。扉をそっと開けると静かに外に出た。
僕は何だか淋しかった。レイントンさんは、あの女の人が好きなのかも、、、。そうしたら、僕は絶対敵わない、、、。
先刻まで美味しかったご飯が、急に味がしなくなり、僕はボソボソ食べた。
扉が開くと
「リアム、クッキーを貰ったよ!」
と満面の笑顔で言われた。僕は笑う。
「教会に持って行こう。ゆっくり食べると良いよ」
レイントンさんは、小さな籠を見せる。クッキーの上には可愛らしい布巾が掛けてあって、レイントンさんがそっと捲ると美味しそうな香りがした。
「昨日、お花をプレゼントした人ですか?」
「そう、よく分かったね。お花のお礼にって、今朝作ってくれたんだって」
朝食を食べ、買って貰った本を鞄に仕舞う。レイントンさんが、パンやチーズ、燻製肉とかを持たせてくれた。それから、仕事先で子供サイズの服を譲って貰ったからと、それも持ち帰る。
荷物が少し多くなり、僕はクッキーの籠をそっと台所に置いて出た。
もうすぐ、教会に着く頃、レイントンさんがクッキーの事に気が付いた。
「ごめんね、アレコレ準備したらクッキー忘れちゃったみたいだ」
少し淋しそうだった。
「僕、色々お土産を貰ったから、クッキーはレイントンさんが食べて下さい」
と言うと
「折角二人で食べたかったのに、、、」
と残念そうな顔をした。
ごめんなさい。あの人から貰ったクッキー、、、食べたく無かったんだ、、、。
*****
レイントンさんは夕方帰って行った。僕はまた一人ぼっちだ。
日が暮れて、辺りが静かになると急に淋しくなる。
ずっとレイントンさんと一緒だったからな、、、。
僕は修理して貰った本を抱える、レイントンさんがくれた本、、、。今日はもう暗いから、明日ゆっくり読むんだ。
主人公の絵が、レイントンさんに似ている。
*****
淋しい気持ちも、眠ってしまうと忘れられる。
朝までぐっすり眠り、いつも通り魚を釣りに行く。もし、釣れなくても昨日のお土産が沢山あるから大丈夫。
僕の毎日はまたいつも通りに戻って行った。ただ、僕は1日の糧を見つけると本を読む様になった。湖の辺りで、神父様のお墓の横で、教会の椅子に寝っ転がって、、、。その日の気分で場所を決めた。
神父様のお墓に寄り掛かり、本を読んでいると、教会に誰か来た。
僕は植え込みに隠れながら覗いた。レイントンさんと、あの女性だ。僕を探している。
僕は本を持って、森の中に逃げた。
しばらく走って、流石にここ迄は来ないだろうとゆっくり歩く。
レイントンさんはどうしてあの人を連れて来たんだろう、、、。
いつも森の中に行く時は、湖が見える様に気をつけていた。神父様が、湖が見えていれば、岸沿いを歩いて必ず教会に帰って来れる、と教えてくれたから。
左手に見える筈の湖が見えず、不安になる。
すぐ帰る予定だったから、お昼ご飯も持って無い。どうしよう、、、。来た道も分からなくなってしまった。
困ったな、、、。
僕は、木に寄り掛かりながら休憩をした。
「お腹空いた、、、」
でも、下手に動き回るともっと迷子になりそうだった。
どうしてちゃんと湖を見て来なかったのかな、、、。
僕は、少し横になるとウトウトしてしまった。
何か、、、何だろう、、、音がする、、、。水音?
僕は耳を澄ます。人の声もする、、、。
空を見上げると樹々の開けた方が何と無く分かった。僕は恐る恐る進む。少し薄暗い森が少しずつ明るくなっていく。木と木の間隔が開き、少し湖が見えた!
湖だ!
僕は思わず走り出した。
湖畔に辿り着くと、旅人が馬に水浴びをさせていた。さっき聞こえたのはあの人達の声だ、、、。
良かった、、、。
湖の周りを見渡すと、それ程遠く無い所に教会が見えた!
助かった、、、湖畔を歩いて行けば帰れる、、、。
僕はホッとしながら、涙が出た。
湖を眺めながら、釣竿を持って来れば良かった、と考える。
もう、レイントンさん達は帰ったかな、、、。
途中で神父様のお墓に寄ると、小さな綺麗な花束があった。
きっとあの人が供えたんだ、、、。
僕が教会に着くと、レイントンさん達はいなかった。
**********
レイントンさんに会った時
「雪が降ったらレイントンさんの家に行きます」
と話した。
「どうして?もっと早くから来れば良いのに、、、」
「でも、やっぱり神父様の側にいたいから」
何と無く行きたく無かった。多分レイントンさんの家に行けば、あの可愛い女性とレイントンさんが一緒にいる所を見る事になる。
僕はそれがイヤだった。
「リアム、遠慮してるの?」
「そうじゃなくて、、、教会から離はなれたくないんです、、、」
下を向いて答えた。
「そうか、、、。雪が降り始めたら、すぐ来るんだよ?荷物が無くても何とかなるから、、、」
「有難う御座います」
「、、、。何か必要な物とかある?」
「何も、、、何もいりません。大丈夫です」
**********
リアムは一度も俺を見なかった。
どうしてだろう、、、。
*****
雪が降らない、、、。
だから、リアムは来ない、、、。
たまに様子を見に教会に行ってもリアムはいない。冬支度の為に森に入っているんだろう。
**********
レイントンさんと街に行ったから、一人でも街に行ける。道を歩いて行くだけだから、、、。
彼を避けていたクセに、レイントンさんに会いたい。僕は街までの道を歩く。
一度泊まった小さな家に、レイントンさんはいなかった。仕事に行ってるんだろう。僕はもう少し街中まで行き、色々とお店を見て回った。
森で取った果物を売ったらお金になるかな、、、とか、籠でも作ったら良いかな?と考えながら歩く。僕もレイントンさんみたいに働かないと、、、。そう思って歩いていると、街の教会から結婚式を挙げたばかりの男女が出て来た。
「うわぁ、、、。綺麗、、、」
その二人は全く知らない人だったけど、レイントンさんとあの人を思い出した。
レイントンさんもいつかは結婚するんだろうな、、、。
そう思いながら、胸が少し痛んだ。
**********
結局、今年は雪が降らなかった。ホッとした反面、リアムと過ごせなくて残念だった。
今日は、薪とパンを持って教会に行く。
やっぱりいない。リアムに最後に会ったのはいつだろう。
そう思いながら、薪を置きに裏に回る。
リアムは裏の畑にいた。
建物から少し離れている。俺はリアムに声を掛けたくて歩いて行った。
「レイントンさん、お早う御座います」
「リアム、お早う」
リアムの笑顔を久しぶりに見た。
「あの、レイントンさん。この畑もっと大きくするにはどうしたらいいですか?」
「どうして?」
「僕も、野菜を街に売りに行こうかと思って」
「商売を始めたいって事?」
「お金、、、あった方が良いでしょ?」
「そうだね、、、。取り敢えず、中に入ろうか。今日は薪とパンを持って来たよ」
リアムを促しながら部屋に入る。
教会の中は、今日も綺麗に掃除がしてあった。
リアムの部屋に久しぶりに入った。
スープを温め、パンと一緒にテーブルに並べる。
「頂きます」
と二人で手を合わせる。
「街に行ったんです」
「いつ?」
「ちょっと前に、、、」
、、、知らなかった。
「それで、僕も何かを売りたいなって、、、」
「露店を出すって事?」
「はい」
「露店は勝手に出す訳にいかないんだ。店を出せる場所はみんな決まっていて、勝手に店を出す事は出来ないし場所を移動する事も出来ない、、、。もし、どうしてもやりたいなら店の一部を借りるとか、品物を卸して売って貰う事になると思う」
リアムは考える様に視線を流した。
「何か収穫して売りたいの?」
「、、、畑があるから、、、」
「そうか、、、」
食事をする音だけが響く。
「どうしてもやりたいなら、俺のツテを使う事も出来るけど、、、」
「本当ですか?」
「それには、まず美味しい野菜を作らないとね」
「はい!」
リアムは急に元気になった。
可愛いな、、、。
*****
それからリアムは度々俺の家に顔を出す様になった。市場調査と言いながら、街を回り、最後に俺の家に顔を出して帰って行く。
夕方、リアムと食事をしようと準備をしていると、ラーネットが来た。
リアムが俺の代わりに玄関を開けると、一瞬動きが止まった。
「やぁ、ラーネット」
俺が玄関に行くと、リアムは
「僕!用事を思い出した!帰るね!」
と荷物を取りに行くと、慌てて帰って行った。
「リアム?」
**********
僕は、彼女がこんな時間に来るとは思わなかった。だから、急いでレイントンさんの家を出た。夕食前だもの。今からレイントンさんと一緒に過ごすのかも知れない。僕がいたらお邪魔になってしまう。もしかしたら、約束していたのかも、レイントンさんが準備していた夕飯は、彼女の分だったんだ。
街を抜けてポテポテ歩く、、、。
僕は勝手にレイントンさんとご飯が食べられると思っていた。何だか恥ずかしいな、、、。
やっぱりレイントンさんの家に寄るのは止めよう、、、。
*****
教会に着くと、扉が開いていた。
神父様は、誰が入っても良い様にいつも鍵を閉めなかった。居住スペースは鍵があるから、入る事は出来ない。
教会に誰かいるのかな、、、?
僕はそっと覗いてみた。
「あの、、、」
長椅子から足だけが見える。
ドキドキしながら近付いた。
前に回り込んで顔を見ると、何だか疲れた顔の男の人だった。
どうしよう、、、。こんな時、神父様ならどうしたかな、、、。
取り敢えず、何か掛ける物を持って来よう、、、。
僕は奥の部屋に行き、毛布を持って来た。
彼を起こさない様に静かに掛ける。
それから、僕は自分のご飯の準備を始めた。
**********
翌朝、僕はいつも通り魚を釣りに行った。
あの人の分も釣れると良いな、、、そんな事を考えていたら
「お早う御座います」
と声がした。振り向くと彼だった。
ピンッ!と竿が引かれてしまった
「あ!」
急いで竿を引くと魚が一尾釣れた。
「わあ、、、」
彼は魚を凝視している。
「あの、ちょっと待ってて下さいね」
僕は急いで魚を捌いた。そして、いつもの様に持ち帰る。
「お腹空いてませんか?」
部屋の扉を開けて、中に案内する。
魚を焼いて、野菜のスープとパンを出す。
「少なくてごめんなさい」
と言うと
「食べても良いんですか?」
と聞いて来た。
「温かい内にどうぞ」
僕はもう一度魚を釣りに行こうとした。
「あ、、、あの」
「もう一尾釣って来ますね」
いつもは一尾だけだけど、また釣れると良いな。
僕がのんびり釣りをしていると、食事が終わったのか、あの人は湖の辺りまで来た。
隣に座ると、湖を眺め出した。僕は、神父様とレイントンさん以外と話した事が無いから、どうしたら良いか分からなかった。
「釣り、、、やってみますか?」
声を掛けたら
「良いんですか?」
と言う。竿を渡すと、見ていた僕の真似をした。最初は上手くいかなかったけど、何度も振る内にコツを掴んだみたいだ。
かなり時間は掛かったけど、二尾目も釣れて漸く僕の朝ご飯の時間になった。
部屋に戻ると食器は綺麗に片してある。
「有難う御座います」
と言って、僕は自分の魚を焼いた。
僕が食事を摂ろうと椅子に座ると
「此処に背の高い神父さんがいませんでしたか?」
と聞かれた。
「神父様は、、、亡くなりました。去年の冬が終わった頃に」
「、、、」
「、、、」
「俺、小さい頃に此処にいました。神父様に会いたくて、、、」
「お墓ならあります」
「、、、」
「ちょっと歩くけど、湖が見える場所にあるんです」
「君は一人で此処に?」
「はい」
「そんなんだ、、、古い建物だから、気を付けて、、、」
僕の朝食が終わると、彼を神父様が眠るお墓に案内した。
彼はお墓の前に暫く佇み
「有難う」
と微笑んだ。
それから二人で畑を見に行った。
「僕、畑を大きくしたいんです。でも、やり方が分からなくて」
「そっか、取り敢えず雑草や石を取り除かないとダメかな?」
「こっちの畑はそのままで良いですか?」
「まだ、実が着いているからね。収穫が全部終わったら、畑を作り直せば良いよ」
「あの、、、畑、作った事ありますか?」
「自分が食べる分位なら」
「作り方教えて下さい。僕、ちゃんと畑を綺麗にしたいけど、やり方が分からなくて、、、」
「、、、」
「お願いします」
僕は頭を下げた。
「いいよ。まずは、どれ位の大きさにするか考えよう」
広さを決め、雑草と石を取り除いて、畑を耕した。鍬や鋤が錆びていたから、灰を使って錆を落としたり大変だけど、時間を掛けて丁寧に畑を作った。畝が出来始めると、本物の畑に見えて来て、嬉しかった。
「リアム?」
レイントンさんが畑に顔を出す。
「レイントンさん!」
「凄いね、立派な畑が出来てる」
「サンフォードさんが作ってくれました!」
彼は少し離れた場所で、会釈した。
レイントンさんの表情が少し曇った。
「誰?」
「えっと、、、」
レイントンさんは僕に
「知らない人には気を付けないと」
と言った。
「知らない人じゃありません。今、此処に住んでるんです」
「住んでる?!大丈夫なの?」
「、、、神父様の知り合いで、昔教会に住んでいたって、、、」
「、、、奥の部屋で寝泊まりしてるの?、、、いつから?」
「ベッドがあるのは、奥の部屋だから、、、。もう、二週間位になります」
「二週間も?!」
「はい」
「あの、、、リアムくん?」
サンフォードさんが声を掛けた。
レイントンさんは、僕を背中に隠した。
「レイントンさん?」
「どうして此処に来たんですか?」
にっこり笑っているけど、何か怖い、、、。
「子供の頃、教会でお世話になりました。神父様にお会いしたかったのに、亡くなられたそうですね」
「いつまで此処にいるつもりですか?」
「レイントンさん?!」
僕は後ろからシャツを引っ張る。いつものレイントンさんと違う。
「もうすぐ、畑も出来上がるし、、、種を蒔いて、芽が出る頃には出発しようと思います」
「サンフォードさん?!」
「リアム?」
「だって、サンフォードさんがいないと、畑、上手く出来ないよ?!。やだよ、もうちょっといて!せめて収穫出来る様になるまで、一緒にいてよ!」
僕はサンフォードさんに走り寄ろうとした。
「リアム!」
レイントンさんに腕を掴まれた。
「サンフォードさん、行かないで!」
「リアム、急にどうしたんだ?」
「リアムくん、ちょっと休もうか、、、」
サンフォードさんが僕の前に膝を着いた。僕は彼の首に腕を回して抱き付いた。そのまま抱き上げてくれて、部屋に戻る。
抱っこの状態から、椅子に下ろし、座らせてくれた。
「リアムくん、どうしたの?」
サンフォードさんは、膝を着いて僕より下から見上げて聞く。
「サンフォードさんがいなくなったら、僕は一人になっちゃうよ、、、」
「リアム、俺がいるのに、、、」
レイントンさんが呟く様に言う。
「レイントンさんには、お嫁さんになる人がいるもん」
「え、、、?」
「だから、僕はレイントンさんの所に行ったらいけないんだ」
ボロボロ涙が溢れる。
「レイントンさんの邪魔したらいけないんだよ」
サンフォードさんが抱き締めてくれた。
「待って、俺、そんな人いないけど、、、」
「お花、上げてた、、、」
サンフォードさんの肩に寄り掛かりながら言う。涙が流れて、彼のシャツが濡れる。
「あの人も、レイントンさんにクッキー持って来た」
「、、、リアム、それってラーネットの事?赤いふわふわ髪の女の子?」
僕は、サンフォードさんに回した腕に力を入れた。レイントンさんに顔を見られたく無い。
コクリと頷く。
「リアム、ラーネットはそんな人じゃないよ」
「だって、、、夕方、レイントンさんの家に来てた。ご飯一緒に食べたんでしょう?」
「リアム、、、こっち向いて?」
僕がレイントンさんを見ると、両手を広げていた。
「おいで、、、」
サンフォードさんが僕を抱き上げ、レイントンさんに預ける。
僕は腕を伸ばしてレイントンさんの腕の中に移った。
レイントンさんの香りがする、、、。
「僕、あの人嫌い、、、」
サンフォードさんは静かに部屋を出た。
「ラーネットの事?」
パタン、、、と扉を閉める音がした。
「うん」
「どうして?」
「僕からレイントンさんを奪るから、、、」
「奪ら無いよ、、、ラーネットには好きな人がいるからね」
「好きな人?」
「そう、、、その人のお嫁さんになりたいんだって」
「レイントンさんは振られたの?」
ふふ、、、
「花束は、ラーネットのお婆さんのお見舞い用だよ。クッキーはリアムにくれたんだ。教会の花を上げたからね、そのお礼にって」
「僕に?」
「そうだよ」
「そっか」
僕はレイントンさんに回した腕をギュッとした。
「ラーネットは、君に直接お礼を言いたかったんだ。可愛いお花を有難うって、今度、ラーネットに会ってくれる?」
「うん、良いよ」
レイントンさんは僕を抱っこしたまま、ベッドに腰掛けた。
「リアム、、、。もう、レイって呼んでくれないの?」
しがみついたまま、首を振る。
「、、、レイ、、、」
「うん、、、」
「、、、」
「今日、、、此処に泊まろうかな、、、」
「ホント?」
「だって、、、アイツと二人きりなんて、気になって寝られないよ、、、」
レイントンさんが僕に頭をそっと寄せる。何だか胸が、ほわんと温かくなった。
「レイ、大好き」
**********
リアムの「大好き」に、特別な意味は無いと分かっている。
でも、俺は嬉しかった。
「あの、、、ちょっと良いですか?」
様子を見て戻って来たサンフォードさんが、遠慮がちに言う。
「教会の方なんですが、、、」
三人で教会へ回る。
「建物が傾いているのか、扉がちゃんと閉まらないんです。先日、風の強い日に、ギシギシ音を立てていたし、所々壁にヒビが入っています。余り状態が良く無いと思います。あと、あそこ」
と太い柱を指差す。
「柱のヒビ、、、気になるんです。このまま住まない方が良いんじゃないでしょうか、、、」
「本当だ」
あんなヒビ、いつ出来たんだろう、、、。
リアムが不安そうにしがみ着く。
「すぐに崩れるかはわかりませんが、寝ている時が心配です」
「リアム、家においで、、、心配だ」
「サンフォードさんは?」
「私はソロソロ出発しても良いので」
「畑は?」
リアムが見上げる。
「後は種を蒔いて、育てるだけだしね。畑は教会から少し離れているから大丈夫だと思う。もし倒壊する時は音がするから必ず遠くに逃げるんだよ?」
「うん、、、」
「レイントンさん、リアムくんの荷物も早目に持ち出した方が良いかも知れないです」
「わかりました」
「リアムくん、今日、種蒔きをしながら色々教えるからね」
「うん!」
それから俺はリアムの荷物を運び、リアムは畑の話しを聞いて、夕方俺の家に帰った。
サンフォードさんは行き先があったらしく、街の空き家に一晩泊まり翌日出発して行った。
俺の家は小さいから、残念ながら泊める事は出来なかった。
*****
リアムは引っ越して来た。教会の畑まで距離が有るけど、昼間は毎日行っている。
強い雨の日は、畑が心配になるらしく、子供なのに大人みたいだった。
ある日、ラーネットをリアムに紹介した。リアムが畑から帰る頃、夕食を多めに準備して、三人で食事をしようと話した。
「ただいま」
「リアム、もうすぐご飯出来るから手を洗って」
「うん、ラーネットさんは?」
「もう、来ると思うよ」
リアムは畑で獲れた野菜を多めに持って帰っていた。
「レイ、これ、ラーネットさんにお土産」
少し恥ずかしそうに言う。
それから三人で食事をして、次はラーネットのお婆さんに会いに行く約束をした。
ラーネットが、畑の事で分からない事があったら、きっと教えてくれると言った。
リアムは嬉しそうにご飯を食べた。
**********
その夏、、、台風で教会は倒壊した。
リアムも俺も言葉が出なかった。
少し悲しくて、少し淋しくて、いつかは壊れると分かっていたのに、リアムは泣いた。
**********
五年前に倒壊した教会は更地にして、新しい俺達の家を建てる事にした。
リアムは十五歳になり、俺は二十一歳。彼は身長も伸び、女の子にモテる。
教会の畑は広くなり、リアムは野菜を売って少しずつ収入を得ている。
「レイ、髪の毛切ってよ」
と言って、背の高い丸椅子に座る。
俺はハサミを準備して、彼の髪に触れた。
サラサラと気持ちの良い髪、、、。
「レイに髪を切って貰うの、好きなんだ」
左手で髪を少し掬い、スッとハサミを入れる。
シャキッ、、、
「この音も好き」
シャキッ、、、
はらはらと床に落ちる髪。
ラーネットが結婚する。俺達は式に呼ばれていた。だからリアムは髪を整える。
リアムもいつかは誰かと結婚するんだろう、、、。
シャキッ、、、
「レイは結婚しないの?」
シャキッ、、、
「考えた事無いな」
リアムがいれば良かったから、、、
シャキッ、、、
「最近、リアムは女の子にモテてるね」
シャキッ、、、
「、、、告白されたよ、、、」
はらはらと落ちた髪は、思った以上に量が多かった。
その先を聞くのが怖かった。
「前髪は?」
「切って」
俺はリアムの前に回り込む。
「ん」
と言って、目を瞑る。
まるでキスを待っているみたいだ、、、。
「いつもの長さ?」
「うん」
目が少し隠れる長さで、少しずつ摘む様に髪を取り、ハサミを進める。
シャキ、、、。シャキ、、、。シャキ、、、。
髪を切り終わり、ハサミを置く。
「ちょっと待ってて、今、髪の毛払うから」
そう言って、タオルを取りに行く。
リアムは頭を振りながら、髪の毛を落としていた。
肩口に着いた髪を払って、正面に立つ。
タオルで顔に着いた髪をそっと落とす。
取りきれない髪を指先で摘む。
この子をいつから好きだったんだろう、、、。もう分からない。小さな頃から可愛かった。今は大人になってしまったけど、いつまでも一緒にいたい、、、。出来れば、ずっと此処にいて欲しい、、、。
「レイ、、、」
「ん?」
「昔、俺がラーネットにヤキモチ妬いた事、覚えてる?」
「花束の、、、?」
「そう、、、。あれから五年も経ったんだけど、レイはまだ、俺の事子供扱いするの?俺、ずっと待ってるんだけど、、、」
リアムは、そっと俺の腰を支えた。
髪の毛がまだ、顔に着いていた。
俺が取ろうとすると、リアムは目を閉じた。
睫毛が長いな、、、
目を閉じたリアムが
「レイ、、、」
と名前を呼んだ。
ゆっくり瞳を開き
「好き」
と言う。
「俺も好きだよ」
本当に好きだ、、、。
そう思いながら、額に口付けをした。
可愛いリアム。
リアムが俺の首に腕を回す。
可愛かった顔は、大人の顔になった。
でも、昔の面影はある。
リアムは首に回した腕を少し引いた。
「そんな子供騙しなキス、、、いらないんだけど、、、。俺、もう、十五歳だよ?」
目を合わせながら言われたら、、、困る、、、
「リアム、、、」
「俺、三人に告白された」
「すごい、、、。流石リアム、、、」
リアムはため息を吐いた。
「そうじゃ無いよ、、、。そんな言葉いらない」
「、、、」
「レイ、、、。俺がいなくなったら淋しい?」
「、、、淋しい」
「どうして?」
「好きだから」
「その好きはどんな好きなの?」
「、、、」
そっと抱き締めてくれた。
「レイ、、、。俺が欲しいのは、額にするキスじゃないよ、、、」
そう言って、頬に触れる。
「俺、もう大人なんだ。自分の気持ちも分かってる。レイが好きで、レイが欲しいんだ。だから、ちゃんとレイも俺の事考えて、、、」
これから大人の恋愛が始まります。




