第二幕(7)
第八回アイリス異世界ファンタジー大賞に参加します。
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……さて……他の用事と言ったものの、他の用事ってなんだ? 元々のアロマオイルができたことに満足していて何をしようとしていたのか思い出せない。
「そうだ! 店舗とクレアのことをお父様と話し合いをしなければいけないわ!」
とりあえず、お母様からクレアを奪取して、お父様がいるであろう執務室へ向かった。きっとクレアを見ればデレデレになるでしょうね。
執務室を軽くノックする。コンコンと木の響きが心地よい。今の私の心の表れかもしれない。
「どうぞ」
中からお父様の声が聞こえた。機嫌は悪くなさそうな声。「失礼します」と一声かけて室内に入る。
書類から目をあげるお父様は開口一言。
「その犬は?」
「犬種はパピヨン。名前はクレアですわ」
お父様は顔をしかめる。
「いや、犬種や名前を聞いているわけではなくて……それにクレアって……いや、今は名前のことはいい。その犬がどうした?」
問いに対してしっかりとした印象を与えるために、背筋をピンと伸ばして答える。
「はい! 犬カフェをやろうと思いまして、お父様が約束してくれた店舗のこととクレアを家で飼うことの許可をお願いしに来ました!」
「犬を飼うことは別にいい。拾った犬をまた戻してこいと非情なことを言うつもりはない。だが、今後は前もって言うように」
「は、はい!」
まずはクレアを飼う許可が出たので笑みが零れそうになる。だが、ここで喜んでしまうとまた「事業を甘く見ている!」とか言われそうなので、余計な難易度は上げないように心がける。
「それと店舗は分かるとして『犬カフェ』とはなんだ?」
「はい! 犬による『癒しの場』ですわ!」
「癒しの場?」
お父様の眉がピクリと動く。私やローレンスお兄様を見てきたから『癒し』などの言葉に敏感なのかもしれない。プレゼンチャンスだわ!
「はい。犬と戯れながらお茶をするところですわ。犬と遊び、飲み物を飲んで一息つくというカフェですわ」
「飲食物を提供するのか? 犬がいては衛生面は平気なのか?」
お父様の側に行き、抱きかかえていたクレアをお父様に手渡した。
どう? この綺麗さにもふもふ感?
「クレアのように綺麗にしてからお店には出しますわ」
「……そうか、わかった。では、店舗を決める必要がありそうだな。探しに行く日を決めなさい」
「今すぐお願いしますわ!」
「……」
ため息を吐かれた。なんで?
馬車でお父様と不動産屋へと向かう。良い店舗があるかしら?
不動産屋に辿り着くと、早速、物件の場所を地図で教えて貰ったり、間取り図を見せて貰った。
不動産屋が捲し立てるように話しかけてくる。営業成績をあげたいのね。その貪欲さは今後事業をする私も見習いたいわ。
「まず、どのような立地をお求めですか?」
「お客さんが沢山来るところで!」
「いや、お客さんが来るかどうかはそちら様次第ですから……そうですね……そうしますと都市部ですかね? これとかどうです?」
手渡される資料を見る。間取り図や値段が書いてある。
「これだと手狭だし、高いじゃない!」
「……そういうものですから……では、広さが必要で安い値段ですと郊外になります。こちらです」
再び手渡された資料を見る。
「これは……庭もついていて良さそうだけど、郊外はね……」
クレアのような可愛らしい目でお父様を見つめてみる。
「都市部で広いところなんて買うことはできないぞ……」
『可愛い娘の眼差し作戦』は効果がなかったようだ。
腕を組んで悩む。悩む。悩む。
「ここを見せて下さい!」
諦めて郊外のお店の内見をさせて貰うことにした。
馬車に不動産屋さんを乗せ、郊外のお店を見に行く。前世の記憶だと不動産屋の車とかに乗っていく感じだけど、この世界で貴族をぼろい馬車に乗せると失礼なことをしていると捉われるので、不動産屋を私たちの馬車に乗せるのが普通である。
舗装されていた道が段々と荒れてくるのか、馬車もがたがたと揺れ始める。お尻に振動が響くわ。
辿り着くと意気揚々に馬車から降りる。お尻を擦りながら。
隣近所は離れている一軒家。自宅と比べると小さめの庭だが、前世の分譲住宅の庭と比べると少し広めである。
不動産屋が玄関の鍵を開けて扉を開放する。私とお父様は中に入り見学をする。
「わぁ~! 一階はキッチンカウンターとそれなりに広いリビングね」
両手の指でフレーム状にして写真を撮るように店内イメージをしてみる。
壁際にお客さんが座るソファ。そして、飲み物を置くテーブル。犬と戯れるお客さんが見えてくる。
そのままフレームをキッチンカウンターへと移す。カウンター内で私が紅茶を入れながら犬とお客さんを微笑ましく見ている姿が映る。
「二階も見せて頂戴!」
「どうぞどうぞ」
不動産屋さんの機嫌がよい。私の機嫌の良さが伝わったように。正確に言うと「売れそうだ!」という思いでしょうけどね。
階段をトントンと上り、二階を覗き込む。部屋が二つある。両方とも同じ大きさの部屋。片方は備品などを置いて、もう片方は従業員の休憩室とかに使えそうだ。
私は勢いよく振り返り、後ろをついて来ていた不動産屋さんに声をかける。
「ここにするわ!」
不動産屋の店舗に戻り、契約書にサインをする。そして、店舗の鍵を手渡された。自分のお店をやっと持ったことに胸の奥底から温かな何かが込み上げてくる。
家への帰路。馬車内でお父様が心配そうにしている。
「本当にあの物件でよかったのか? 手狭でも家の近くの方がよかったのではないか?」
首をフルフルと振り、自分の想いを口にする。
「近所ですと犬の鳴き声とかで逆にお店の評判が落ちてしまいますわ」
「まあ、そうだが……それでも……いや、自分の娘を信じて見守るべきだな……」
一度は突き放したお父様も、結局は娘に甘い。きっと私を思って事業をやめさせたかったのであろう。普通に暮らし、普通に嫁ぎ、平穏に家族と過ごす。自分が築けなかった家庭を私に夢見ているのかもしれない。それも一つの道かもしれない。だが、過保護に育てられ親に結婚相手を決められるよりも、自立して生きていき、自分で恋した相手と結婚をしたい。
お互いに自分の想いを言葉で表せないまま屋敷に着いた。
お父様は私に「必要な家具などは私に言いなさい。頑張れよ。無理はするなよ」と微笑みながら声をかけ、そのまま執務室に戻る。
お父様の背中を見送り終えた私は、気持ちを切り替える。
「よし! 必要なものをリストアップしないとね!」
そう意気込んでいたが、他の用事が入っていることも思い出したわ。
「親子丼計画のこともあったわ! とりあえず、家具、食材と調味料のリストを作らないと! あっ! 犬カフェの飲み物も決めないと!」
穴だらけの開業に私も不安を感じたわ。
読んで頂きありがとうございます。
犬カフェの店舗が決まりました!
ちなみに作者は犬カフェに行ったことはありませんので、どのような場所なのかわからなかったりします。
猫カフェは近所にあるのですが、前を素通りするくらい。
持った印象は『ドリンク片手に猫と戯れるところ』ですね。
犬カフェもそんな感じだろうな~という流れで書いていきたいと思います。
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