第二幕(5)
第八回アイリス異世界ファンタジー大賞に参加します。
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ガラス加工所からそのまま街中をぶらつく。傍から見ると目的なくぶらついているように見えるかもしれないが、目的はある。それは野良犬を探すということである。だって、普通に犬を買うよりは野良犬を拾う方が安くつくんだもん。
探し彷徨うが目につく犬は大型犬。しかも、狩りをするから強面である。狙いの客層は貴婦人とかだから愛玩犬になるような小さめの犬がいいわよね。大きな犬だとお客さんに怪我をさせたら大変だし。
結構な時間大通りを歩いていた。足が棒になって疲れてきたわ。そろそろ家に帰りたい。そんなことを思いながら歩いていると、路地裏にきらりと二つの光が見えた……気がした。そのままバックして路地裏を覗き、光ったものの正体を確認する。そこにはプルプルと震え薄汚れているパピヨンがいる。
「見つけた~!」
うっかり大声を出してしまったので、慌てて両手で口を塞ぐ。パピヨンを見るが逃げ出してはいない。いや、ろくに食事もとれなくて弱っているために逃げれないと言うようにも見える。
怖がらせないようにするために、しゃがみ込んで手招きをしてみる。するとパピヨンが手に餌があるのかと思ったのか、寄ってきてくれた。そのまま両手で優しく包み込み抱き上げる。頭を撫でてあげるとうっとりしている。パピヨンも心に傷を負っているのかもしれない。そんな子をお金稼ぎのための犬カフェに使っていいのだろうか? この子に限らず他の犬でも。
(犬たちの心は私が癒そう。そして、犬たちには人の心を癒してもらおう)
犬を利用することに対して、少し胸に痛みを感じながらも犬カフェに向けて準備をすることにする。その分、私が犬に愛情を注ぐと決意して。
パピヨンを抱えて家に帰ることにした。そんなに何匹も抱っこはできないわよ。帰る途中、前世の記憶が蘇る。
そう言えば子供の頃、こんな風に捨て犬を拾って家に帰ったわね。薄汚れた犬を見た母親は「元の場所に返して来なさい!」と私を叱りつけた。今となってはあの頃の母親の心理はわからないが『汚れているから駄目だった』のか『犬を飼えない理由』があるから駄目だったのか。少なくとも前者とは思いたくない。その程度のことで犬の命を粗末にしていいわけがないわ。今度こそこの子は全力で私が守ろう! お父様とお母様に会わす前に、この子にご飯をあげて綺麗にしないとね。
家に辿り着くと、庭師に事情を話して、裏庭にある物置き場に犬を入れさせてもらう。パピヨンの頭を撫でながら話しかける。
「待っていてね。今、ご飯を持ってくるからね」
そっと、物置き場の扉を閉じて、厨房に向かって走り出す。
厨房に辿り着き、扉を開けて中に入る。美味しそうな香りが漂っている。私の場合はアロマオイルよりもこの匂いの方が癒されそうだわ。
そんなことを考えたら、お腹がく~っとなったので両手で抑えた。
(そういえば、朝ごはんを食べてなかったわ!)
料理人にお願いして私の朝ごはんを出してもらう。すっかり冷めてしまっている。当然であるが、電子レンジという便利アイテムはない。まあいいかとそれを持って犬の所に戻った。
物置き場の中に入り、犬に話しかける。
「一緒にご飯にしましょう」
パピヨンとご飯を分けっこした。一緒に食べながら考え込む。
「貴女に名前を付けないとね」
再び考え込む。ふとクラレンス様が頭に浮かんだ。
「クレア! 貴女の名前はクレアよ!」
名前を気に入ってくれたのか、私の身体をよじ登ってきてぺろぺろと顔を舐めてきた。
「気に入ってくれたみたいね。よかったわ!」
直ぐに翻し、私が食べていたスープを舐め始めた。
「……ご飯のおねだりをしただけかしら……」
ご飯を食べ終わり、二人で日差しがぽかぽかとしている庭園へ出る。いや、一人と一匹と言うべきだろうか? 今日から家族同然になるのだから二人でいいわよね。リードはつけていないが庭園は広いから逃げ出したりはしないであろう。ご飯をあげた恩もあることだしそう思いたい。
案の定、逃げ出すことはせずに私のまわりをちょろちょろとしている。リードとかはいらなそうなくらいに。
「クレアったら私のことが好きなのね」
背後でパキリと音がする。小枝でも踏んだような音だ。その音源を確認するために振り返る。ローレンスお兄様のお見舞い帰りなのか、クラレンス様が立ち尽くしている。赤い顔をして……。
私はテンパり言い訳をする。
「クラレンス様! 今のは犬です! 犬の名前です! いや、その前にクラレンス様の名前を犬につけちゃってすみませんでした?」
自分で言っていてよくわからなくなってきた。
私まで顔を赤くしてあたふたしていると、背中をクレアに押された。物理的に。
「きゃっ!」
倒れそうになる私をクラレンス様が支えてくれた。逸らしていた目がばっちりと合ってしまった。クラレンス様の青い瞳がいつもの悲し気な感じとは違い、熱を帯びているように見える。その瞳に射抜かれたように動けなくなった。少しの間、時間が止まった気がした。心臓の高鳴る音だけが響いている。
「ワン!」
クレアの鳴き声で現実に戻された。いや、よく戻してくれたわ。
「し、失礼しました」
クラレンス様から身体を離す。恥ずかしくて視線を合わせることができずにもじもじと俯いてしまう。
「い、いや、怪我をしなくて何よりだ」
「「……」」
お互い、沈黙してしまう。うう……気まずい。何かこの場を逃げる口実ないかしら?
瞬時に閃く私。天才!
「あ、で、では私はクレ……この子を綺麗にしないといけないので失礼しますわ」
「あ、ああ、私もローレンスのお見舞いからの帰りだから、これで失礼するよ」
何とかこの場を切り抜けたわ!
庭園の片隅にクレアが入るほどのたらいを運び、バケツで水を運んで流し込む。そこにクレアも入れる。クレアの身体を水で濡らし、泡立てた石鹸でごしごしと擦る。洗っていると先ほどのことを思い出してしまう。
青い瞳に吸い寄せられそうになった。クレアが吠えなかったらどうなっていたのだろう? 首から上に火照りを感じながらぼーっとしていると、気づいたらクレアが泡だらけになっていた。
「わ~! ごめんね、クレア!」
バケツに汲んだお水でクレアを洗い流す。そしてタオルでごしごしと拭くが完全には乾かない。まあ、綺麗になったし私の部屋に連れて行きますか。このまま走らせると余計に汚れがついてしまう。抱き上げて部屋に連れて行った。
自室に行くとドレッサーの上に置いてある魔道具に手をかける。なんと驚け! ドライヤーである。火の魔石と風の魔石を使用して作られている……らしい。その辺のことはよくわからないけどね。前世の記憶を思い出したら、ドライヤーって名前も思い出したわ。
ドライヤーの暖かい風をクレアに当てる。気持ちいいのかうっとりとした顔をしている。手でやさしく毛を撫で梳かしていく。
「クレアかんせ~い!」
ふわふわとした毛並みになったクレア。これでどこに出しても恥ずかしくないお嬢様になったわ。早速、お父様とお母様にお願いしに行こう。
サロンに向かう。お父様よりもお母様を抱き込めばなんとかなるであろう。
サロンの扉を開け、中に入る。
「あら、メアリー。貴女、朝ごはんを食べなかったけど大丈夫なの……ってその犬は何!?」
いかん! 怒られる流れか? いや、私が守るわ!
「可愛いワンちゃんね。メアリーが飼うの? 何て名前?」
お母様は犬が好きらしい。何も言わずに交渉に勝ちましたわ。クレアがお母様に取られたので、お父様の交渉は後回しにする。とりあえず、私も汚れたり濡れたりした服を着替えた。
読んで頂きありがとうございます。
やっと……ラブロマンスらしく甘さが出てきた感じです。
控えめですが……。
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