第二幕(3)
第八回アイリス異世界ファンタジー大賞に参加します。
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ガラス加工所を後にして、スコットと休憩がてらカフェでお茶をしている。
スコットは「注文しちゃってどうするの?」とティーカップを手にしながら心配そうに聞いてくるわ。まあ、当然よね。
私はというとテーブルに顔を埋めている。これからやるべきことを考えると頭が痛いですわ。顔をあげてスコットに説明をする。
「プレゼンをするのよ!」
「プレゼン?」
「そうプレゼンですわ」
「誰に?」
「もちろん私のお父様とお母様に!」
「道具の資金援助をお願いするってことだね」
「そうよ。可愛い娘の為に援助してくれるはずだわ」
「可愛いは認めるけど……性格的には以前のメアリーだった方が援助してくれそう。今のメアリーはなんか逞しくて、守ってあげたくなるというより、自分でなんとかするだろうってイメージが強くなっちゃっているからね……そんなメアリーも魅力的だけど」
「え?」
最後の方が小声だったので聞き取れなかったが、そんなに逞しく見られていたとは……。
「自覚ないの!?」
「ないわ!」
軽くショックを受けた。がさつになったと言いたいのか? こんな可愛いレディーに? まあいい。その話は置いておきます。いや、やっぱり全力で投げ捨てるわ。
「それでプレゼンをどうやるの?」
そこで私は唸る。ええ、元の世界でプレゼンなんてしたことはありませんわ。
「とりあえず、紙に箇条書きしてまとめるようかしら?」
「本当に大丈夫なの!?」
「何とかなると思いますわ」
「……それじゃあ、僕がプレゼンしようか?」
頬を赤らめて提案してくるスコット。スコットも人に説明をするのは恥ずかしいらしいわね。気を遣わせちゃったみたい。
「丁重にお断りします。私の力でなんとかするわ」
「……」
スコットが固まった。なんで? 人前のプレゼンが恥ずかしいから無理していると思って気遣ったのに? まあいいか。これは我がグリスト家の問題だから、私が解決するべきことだろうしね。
とりあえず早速行動しよう。冷めてきた紅茶を一気飲みして、しょぼくれたスコットとカフェで別れた。
自宅の書斎に向か……おうとしたけど、急ブレーキをかけた。いや、前回の内心土下座の反省を活かし自室で普段着用のドレスに着替える。危うくまたお母様の雷が落ちるところだった。成長したわね。私。
書斎で机に向かい、メモ用紙を見つめる。
「プレゼン、プレゼン。プレゼンね? とりあえず、要求を書くべきね」
・研究道具一式。
・アロマの素材仕入れを継続的に行うランニングコスト。
・私の控えめな優しさで中古の店舗兼居住区。
・福利厚生としてお茶とお菓子代。
「こんなところかしら? 後は……どんな事業か?」
・アロマテラピーの魅力を語る。
「なんか薄っぺらいわね。やっぱり普通に説明すればいいわよね」
メモをくしゃくしゃと丸めてごみ箱に投げ込んだ。
夕食の時間になり、四人で食卓を囲む。視線を空いている椅子に向けるがいつも通りローレンスお兄様の姿はない。悲しさが込み上げてくる。
銀のカトラリー達がカチャカチャとなる中、食事を摂りながらプレゼンをすることにする。
「お父様、お母様。お話したいことがあるのですが。ついでにマークお兄様も」
「俺はついでなの!?」
「ええ、お願いがあるのはお父様とお母様ですから」
「……俺の陰に隠れていた控えめだったメアリーとは大違いだな……やっぱりあの頃の愛するメアリーに戻っておくれ!」
とりあえず、シスコンはスルーする。
「それでお話なんですけど、事業を行いたいと思いまして、事業資金の援助をお願いします」
ぺこりと頭を下げる。これがプレゼンか? まるで子供のお小遣い請求みたいになった。
「感情乏しかったメアリーが頑張る姿は応援したいと思う。だが、事業って何をやるつもりだ?」
「アロマテラピーですわ! 心を癒す魔法の薬! ローレンスお兄様もきっと以前のように元気になりますわ!」
話を盛っておいた。魔法の薬なんて現実の記憶を取り戻した私にとっては、回復ポーションが魔法の薬である。でも、現実世界のアロマオイルを知らないこの世界の人には、アロマオイルはまさに魔法の薬でしょうね。
「ローレンスの病気が治るの!?」
お父様と話をしていたら、目を輝かせたお母様が喰いついてきた。いや、病気が治るかどうかというと、セラピー全体が医療行為ではないので、治るという保証はないのだけど。保険に濁しておこう。
「お母様、人によって違いがあるので、必ず治るというわけではありませんわ」
「そうなの……」
興奮して立ち上がったお母様は、しょんぼりと俯いて再び椅子に座った。
「それでアロマテラピーを行うのに必要になるものってどんなものなんだ?」
「アロマオイルを抽出する道具、アロマオイルを入れる瓶、アロマオイルを作るための建物と管理をするための家具などですわ。建物は中古でこじんまりとした店舗と住居を兼ねたものでいいですわ」
「かなりの費用がかかるじゃないか!?」
一瞬、驚きの声をあげたお父様が顎に手をあて思案する。
「だめだな……まるで子供のおままごとじゃないか。まず、アロマオイルが売れる保証がない。効果が確実ではないのだから」
「それは……まあ……そうも言えますけど、ローレンスお兄様を救えるかもしれないんですよ?」
プレゼンの雲行きが怪しくなってきたので、ローレンスお兄様を兼ね合いに出した。お涙頂戴でお金も頂戴作戦。
「……ふむ……メアリーのやる気を頭ごなしに否定するのもなんだな。では、建物と家具だけこちらで用意しよう。後の資金は自分でどうにかしなさい。アロマテラピーが無理なら他の事業を行えばいいだろう」
「それは困りますわ! 現金で下さいませ!」
勢いよくテーブルに手をつき立ち上がる。
「なんで現金で必要なんだ? 建物と家具が必要ならこちらで用意をすると言っているのだから問題ないだろう?」
私は両手の人差し指を合わせてもじもじする。
「……いえ……もう、ガラス加工所に道具の製作依頼をしておりまして……」
「……それは自分で何とかしなさい……」
再びカチャカチャとカトラリー達の音が響くだけになった。
食事を終えて部屋に戻る。扉を閉めて寄りかかり、そのままずるずると座りんだ。目から涙が出てきた。自分の無力さが情けなく思えて。前世の私はどうだったであろう? 夢の中ではバリバリと働いていた気がする。社畜並みにだけども。仕事の才能は? あるともなくとも言えないかな? つらいからセラピーに癒しを求めていた。そう思うと今と変わらない気がしてきた。
のそのそと寝間着に着替え、拭っても拭いきれない涙と共に眠りについた。
翌朝。
ベッドの上でぼーっとしている私は、家族と顔を合わせる気にはならない。家族に対して怒っているわけではない。むしろ自分の無力さに怒りを感じる。その怒りを家族に八つ当たりという形でぶつけてしまいそうなのが怖いわ。
なんとか立ち上がり、日常用のドレスに着替える。冷静になろうと外の庭園へと足を運んだ。
ガゼボの椅子に座り、ぼーっと庭園の薔薇たちを眺める。どれだけ眺めただろう? 陽は高くなってきたが心は温かくならない。むしろ、陽の温かさ故か逆に心に寒さを感じる。また涙が出てきた。いやだわ。溢れる涙をハンカチで拭う。
「……メアリー嬢?」
声のする方に顔を向けると、クラレンス様が困惑する表情で立ち尽くしていた。
「……クラレンス様」
泣いていたことを思い出し、慌てて涙を拭う。
クラレンス様は隣に座り、そっと私の頬を撫でた。
「何かあったのですか? 私でよければ力になりますよ」
優しい声が頭の中で蕩ける。涙をせき止めようとしていた涙腺は再び決壊した。私はクラレンス様に泣きすがった。
「お兄様の心を救いたいと思っているのに、自分の無力さを感じました!」
泣きじゃくる私の頭を優しく撫でてくれる。そして囁く。
「……それは私では手伝えないことかな?」
パッとクラレンス様の顔を見上げる。優し気な微笑み。でも、優しさに付け込んでお金を請求するのはどうかと感じる。
「……いえ……なんでもありませんわ。ちょっと目にゴミが入っただけです」
「いや、でも……そうか。何かあったらいつでも力になるから私に言ってくれ」
涙跡の残るまま、なんとか満面の笑みを作る。
「ええ、その時はお願いしますわ」
クラレンス様は私の方をチラチラと気にかけながら、ローレンスお兄様のお見舞いに行った。
読んで頂きありがとうございます。
これは……ラブロマンスになっているのかな~?
ちょっと自信のない作者です。
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