第二幕(2)
第八回アイリス異世界ファンタジー大賞に参加します。
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クラレンス様を見送ってから商業ギルドへと向かう。商業ギルドに登録していないと、アロマオイルを抽出するための研究機器が手に入らないと言うのがめんどくさいわよね。まあ、アロマオイルで商売をするのだから、結局は同じことですわね。
商業ギルドでギルド加入受付をする。ギルド内は商人魂で賑わっていて暑苦しい!
受付で簡単な説明を受けてサインをする。うん、私もこれで起業家だ!
「それでどのような商品を売りになさるのですか?」
「アロマオイルですわ!」
「アロマオイル? どのようなものですか?」
「植物の油です」
「植物の油?」
「はい、植物の油……」
そこまで口にして思いつく。あれ? アロマを抽出する方法で圧搾法があるけど、同じ機械で食用油の抽出もできるんじゃない!? わざわざ狭義で申請しないで広義で申請しておきましょう。事業の可能性が広まったことに思わず頬が緩みそうだ。
「どうしました?」
「あ、いえ、なんでもありませんわ。そうです! 植物の油でお願いします!」
「わかりました。では、職業は食材販売者ということでよろしいですね?」
「ちょっと待って下さい!」
受付カウンターに上体を乗り出すと、受付嬢がびっくりして引いている。コホンと咳払いをして何事もなかったように席につく。うん、何もなかったですわ。
「職業はアロマセラピーでお願いしますわ!」
「アロ……マセラピー?」
「はい! アロマセラピーですわ!」
「それはどのような職業ですか? 聞いたことがないのですが」
「えっと、植物の香りで人を癒すような感じですね?」
「回復ポーションですか!? 食料品を扱うのではなかったのですか!?」
「あ、いえ。植物の油には二種類ありまして、食用と人を癒す用があるんですよ」
「なる……ほど? 食用と回復ポーションと言うことですね?」
「惜しいけど違いますわ!」
この異世界に食用油が無くて、回復ポーションが存在すると言うことが、アロマオイルを説明するのにややしこしわね。
「食用油と『人の心を癒す油』ですわ!」
「人の心を癒す? そんなことができるのですか?」
未知との遭遇に段々と興奮して声が大きくなっていく受付嬢。人差し指を立てて「シー!」と黙らせてから、ちょいちょい顔を貸しなさいなと手招きをする。顔を寄せてきた受付嬢の耳元で小声で囁く。
「完全にではないけど、人の心を癒すことができるのですよ」
やっと理解してくれた受付嬢。他の商売敵が現れないように釘を刺しておかないとね。
「事業が軌道に乗るまで話を広げないで下さいね」
「わ、わかりました! その植物油が広まれば、疲弊しているこの国が再び活気づくかもしれませんね!」
なんか勝手に話が大きくなって来たわね。
加入手続きを終え、そのまま事業相談に移る。
「あの、事業に必要な道具とかを仕入れたいのですがどうしたらいいでしょうか?」
「どのような道具が必要ですか?」
「理科の実験に使うような?」
「理科?」
「あっ! いえ、違いますわ! 錬金術に使う道具ですわ!」
よくわからないけど、理科も錬金術も似たものでしょう。そういう定義としておく。
「錬金術の道具ですか……。 え? 錬金術?」
「ええ……なにか?」
「あ、失礼しました。食用視点で考えてしまっていました。心を癒す回復ポーションを作るんでしたね」
『心を癒す』は合っているが、『回復ポーション』ではない。もうめんどうだからそのままに話を流すわ。
「そうですわ。ですから耐熱ガラス製の道具とかが必要なのですわ」
「では、ご紹介しますね」
ガラス加工所を教えて貰った。肝心なことを忘れていた私は浮かれていました。何を買うにもお金が必要であるということを……。
必要な情報を得て、商業ギルドを後にした。
早速、ガラス加工所に向かう途中、街中でスコットの姿を見かけた。陽の光でライトゴールドの髪が輝いて見える。
「スコット!」
「メアリー!? こんなところで何をしているの? っていうか大声が出てる!?」
困惑するスコットに『なぜ私が元気になった理由』を説明する。なんでも高熱のせいにしておけばいいや。
「高熱が出たのか……大変だったみたいだけど、それを乗り越えたおかげでメアリーが元気になったのだから複雑な気分だね。でも、僕としては嬉しいよ」
私が説明をするためスコットのエメラルドのような瞳をガン見していると、スコットがもじもじしているような気がする。元気すぎて圧が強かったかしら?
「あっ! そういえば、メアリーにこれを届けに行くところだったんだ!」
スコットが鞄から手紙を取り出した。受け取り中を見ると、スコットのお父様、カイゼル子爵様からである。慌てて中を読むと、カイゼル子爵とのアポが取れた。手紙配達人に「急ぎで!」と言ったことが伝わったのか、返事も早い。迷惑をかけたような気がしないでもないが、まあ結果よしとしておきましょう。とりあえず謝る。社交的に。
「スコット、悪いわね。スコットが届けに来てくれなくても、手紙配達人でよかったのに」
「いや、ちょうど暇していたから、手紙を届けるついでにメアリーの顔を見たくて……」
「スコットは暇なのね?」
頬を赤らめるスコットの言葉に被せてしまって後の方が聞き取れなかった。まあ、暇ってことでいいわよね。
「え?」
「手紙を届けに来ただけだから暇よね?」
「ああ、うん」
「じゃあ、一緒にガラス加工所に行くわよ!」
「え?」
状況が分からないスコットを置いていく。心理的にも物理的にも。
「ちょっと待ってよ。メアリー」
小走りで追いかけて来て隣に並ぶスコットと一緒に、雑談しながらガラス加工所へ買い物に向かった。
メモを頼りにガラス加工所のドアを叩く。ドアを開けた途端に熱気が立ち込めていて熱いわ。
「すみませ~ん! 錬金術の道具を作って欲しいのですけど!」
開けたドアから顔だけひょっこりだす。中が暑いから。
「あいよ! 中に入りな!」
中に入ることは確定なのですか。くそ暑いから入りたくないのだが、やむを得ないですわね。
熱気漂う中、職人さんと話をする。
「それでどんなのが必要なんだ?」
「蒸留して水蒸気を抽出したいの」
「こんな感じか?」
職人さんはヒアリングした内容を、さらさらと紙に図を描く。
「そう! そんな感じで! ただし、元の液体を入れるところは料理で使う蒸し器みたいにして欲しいのですわ」
「蒸し器!? そんなのガラスで作れね~よ」
「むむむ?」
難航に乗りかかり眉間にしわを寄せる。言われてみれば確かにガラスでできないような気がしてきたわ。なんでガラスでできると思ったの? 私のあほ。
「そこだけ蒸し器を使えばいいんじゃなくて?」
横からスコットが口を挟んできた。
「天才ですわ! その案採用!」
「……いや、天才って程ではないと思うのだけど……」
苦笑いしつつ照れが混ざっているスコットが可愛らしい。お姉さんが頭をなでなでしてあげますわ。
記憶を取り戻した私はスコットが弟に思えてしまう。片手で腕にしがみつき、もう片方の手で頭を撫でる。するとスコットの顔が赤くなって黙り込んだ。ああ、ここ暑いのにくっついたら余計に暑いわよね。
離れてあげるとがっかりした子犬のようになった。なんで?
その後も、三人で道具の案を煮詰めた。
ガラス加工所で話し合いが終わり、職人さんが何かを紙に書いている。
「この道具だと全部でこのくらいになるな」
突き出された紙をまじまじ見つめると『見積書』であった。私は慌てて鞄を漁る。
財布の中を確認するも普通にお小遣い程度しかありませんわ。これでも貴族令嬢ですからお小遣いは庶民よりは多いはずですのに。だが、既存の蒸し器などの料理道具を買うのとは桁がまるで違った。0がいくつか多い。
青ざめてスコットの方を見る。
「え? 僕もそんなにないよ!」
いや、スコットからカツアゲをしようとしたわけではなくて、どうしようという視線だったのだが……。
「どうするんだい? お嬢ちゃん」
悩んだ私は決断する。
「製作をお願いしますわ!」
読んで頂きありがとうございます。
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