十年耐えてキレた結果<後日談おまけつき>
本編は公爵令嬢の一人語り。
名前の言語的統一は諦めました。品種名がばらばらな名付けだから。
誤字報告ありがとうございます。
後書きの最後に後日談のおまけがあります。
「もう、わたくし、我慢しませんわっ!」
高く良く響く若い女性の叫び声がした後、本宮の一角が爆発して消し飛んだ。
金木犀がたわわに花を咲かせ、周囲に芳香を振りまいている、そんな秋の午後の出来事。
何事かと駆け込んだ人々が見たのは、半壊した部屋の中央で仁王立ちしている公爵令嬢と、その足元で腰を抜かしている王太子の姿だった。
グレープ王国の王城シャイン城の一室で、その日、公爵令嬢への査問会議が行われようとしていた。
出席者はまず国王であるサンヴェルデ。その息子の王太子アレキサンドロス。
対してはレッドグローブ公爵クルガン。その娘、王太子の婚約者オリンピア。
そして宰相を始めとする大臣ら国家の重鎮たち。
やがて時間となり、宰相補佐官が質問役となって、会議は開始された。
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ええ、認めますわ。わたくしオリンピアはアレキサンドロス王太子殿下の執務室内において魔法を行使し、お部屋を半壊させました。
もちろん、存じておりましてよ? 王城内での魔法行使が禁止されていることは。それなのに何故そうしたか、でございますか?
それを説明する前に陛下にお願いがございます。
わたくしは魔法行使をなし、王城の一部を破損した罪人でございます。この後、わたくしには罰が下されるかと思いますが、それは受け入れる所存。
わたくしにはそうしただけの理由がございます。ですが、その理由は通常ですとまったく取沙汰されることもなく、訴えたところで何らかの改善がされたこともございません。ですから。この場におけるわたくしの発言を咎めることなく、不敬であると退けるのでもなく、最後まで皆様の前でお話しすることをお許しください。そうでない場合、わたくしは今後、何も話さず、何の仕事もいたしません。一切。まったく。すべてから手を引きます。
お許し、ありがとうございます。折角ですのでこちらの魔法契約もしてくださいますわね? ふふ。受け取りましてよ。
そもそもの原因はアレキサンドロス殿下との婚約です。十年。王家からどうしてもと請われて、アレキサンドロス殿下の婚約者となって十年経ちました。
当初より、殿下はわたくしとの婚約が御不満であられたようで、こちらに歩み寄る努力をまったくされませんでした。親睦のためのお茶会にも無断欠席。出席されても悪態を一方的につかれて即座の退出。まともに会話になったことがございません。この婚約に関して、殿下の意思がまったく通らなかったから、無理やりわたくしを押し付けられたから。と、ご自身のみが被害者であると思い込んでおられますの。被害者はむしろ、わたくしの方であるなどとは気付きもなさらないで。
わたくしは公爵家の嫡女でございます。レッドグローブ家を継ぐ者だと言い聞かされて育ちました。わたくしも愛する両親と愛する領民のために、そのお役目を果たせるようにと幼い頃から学び、努力を重ねておりましたわ。そこには不満なぞなく、むしろ来るべき時が待ち遠しい、そう思いながら過ごして参りました。
しかしながら、王命により、わたくしはアレキサンドロス殿下と婚約せねばならなくなってしまいました。当時、陛下の一粒種であらせられる殿下は、既に小さな暴君でいらっしゃいました。使用人への暴言に暴力。登城する貴族にも被害はありましたが、咎められても陛下が甘くお許しになるものですから、見た目は天使でも悪魔のようでいらっしゃいました。唯一、殿下が従われる陛下とて、一日中殿下の側においでになるわけにもいかず、そこで婚約者を定められることになったのでございます。
殿下の我儘を越えた横暴に対するには、普通の貴族令嬢では荷が重いのは事実。けれど同等の、更には格上の、他国の姫君とのご縁は年齢的に釣り合う方がおられず。ならばと我が家に話が参りました。筆頭公爵家の娘であり、過去の婚姻によって王位の継承権を持ち、殿下との婚約によって準王族となるわたくしであればと。
八歳で婚約して以来、皆がわたくしに殿下を諫めるようにと進言するようになりました。身を慎み、真面目に勉学と向き合い、将来の国王としての責任を持つように促せと。
わたくし、殿下と同じ歳ですのよ? そんな子供に皆さま何を期待されていたのでしょう。わたくしは殿下の母君でも乳母でもなく、教育係でもございません。皆が、ご自身の役目をすべてわたくしに押し付けて、婚約者として働けというのです。おかしくはございませんか? それは本来、大人の責任でございましょう? なのに家族以外には通じなかったのです。わたくしがこれまで耐えられたのは家族が味方でいてくれたからですわ。
それでもわたくしなりに殿下に注意をいたしますと、癇癪を起されて時には暴力まで振るわれます。言葉も通じない動物を調教しろということでしょうか。動物であればまだ、餌をやらないですとか、痛い目に合わせることで従順に仕上げることもできましょうが、身分が上の殿下に向かって取れる手段ではございませんでした。
もう、嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で。何度も何度も婚約の解消を願い出ましたが、陛下は決してお認めくださいませんでした。わたくしには言葉で窘める程度の行動しか取れないと、殿下を矯正することなぞできないと訴えても、「そなたにしかできない」との仰せです。婚約者としての責務を超えた親の責任ではございませんの? 育児放棄をされて押し付ける相手ができたと思い込まれただけではありませんの?
ふふ。言いたいことをこの際ですので申し上げておりますわ。不敬を畏れずに発言できるって素晴らしいですわね。しかも、この場の皆様は反論もできずに一方的にわたくしの話を最後まで聞かねばならないよう契約に盛り込みましたから。
もう一度申します。わたくしは殿下と同じ歳なのです。わたくしとて発達途上の子供でしかございませんでした。陛下が無理でも成人済みの王族のどなたかに殿下の教育を任せるべきは明白であるのに。そう訴えても、どなたも動いてはくださいませんでしたが。
最初から無謀で無策な婚約でした。けれど臣としては王命に従わないわけにもいかず、この十年、殿下の行状に対して折々に諫言もし、手本となるべく王太子妃教育にも向き合って参りました。ですが、そんな行動が更に殿下のわたくしへの嫌悪を助長したのでございます。
王太子教育どころか、あらゆる教育を疎まれ、拒絶され、年齢だけ重ねられる殿下は、一般的な貴族としての素養すら身に付けておられぬまま身体だけが成長されました。
さすがに現場の教育係たちは殿下には無理だと悟ったのでしょう。わたくしの王太子妃教育はいつからか王太子教育をも含んでおりました。もちろん、どちらにも共通する事項はございましたが、より高度な帝王学を自分が施されていると途中で気付きました。殿下が学ばないのであれば、未来の王妃であるわたくしに学べと。さすがに国王陛下の許可なくして行えることではございませんので、おそらくは陛下の御意向もあったはずです。そうですわね?
当然、わたくしは多忙となり、いささか殿下から目を離すことも増えました。そうしましたら、宮城の一部よりわたくしに報告が届くようになったのでございます。殿下が侍女を閨に引き込まれていると。
城に勤める女官や侍女は、いずれも貴族女性です。未婚の令嬢の教育の場でもあります。そしていたずらに純潔を散らされれば、彼女たちの貴族女性としての婚姻への道が閉ざされてしまう。
野心があり、愛妾を狙う者とていたかもしれませんが、もちろん全員がそうでなく。婚約を解消された者も、黙って嫁いだ後に露見して離縁された者もおりました。
将来的にわたくしは貴族女性の上に立つ身ですから、これ以上の被害を増やさぬためにと高級娼婦を雇い、殿下にお仕えするよう手配せねばなりませんでした。これのどこが王太子婚約者の役割なのかどなたかにお答えいただきたいものですわ。少なくとも未婚で未成年のわたくしがすることではありませんわよね?
殿下が飽きられぬよう、時折人員を入れ替えて対処することで、宮城内で侍女の被害はなくなりましたが、公務が回されるようになると一般の貴族令嬢と知り合うことも増え、そうして、見た目だけは極上の殿下にのぼせ上り、毒牙にかかる令嬢対策に今度は駆り出されることになります。こちらは侍女よりも深刻でした。何故ならば、彼女たちは家を継ぐか、家を継ぐ相手に嫁がされる役目を持った者ばかりだったからです。殿下の所業で我が国の貴族家の政略がどれほど狂わされたか。ここにおられる諸卿のほとんどが、ご自身の息女を領地へ逃がされておられるのですから、ご存知のはずですわね? それに対してわたくしには、殿下の護衛という名で令嬢たちの盾になるよう言い含めた武官を配することくらいしかできませんでした。後は女官を通して、それぞれの家には注意するよう勧告するしかなく。下手な発言はそれこそ不敬罪の対象となりますから、はっきりとは告げられなくて。
将来的には殿下専門の後宮でも用意するしかないかと頭を悩ませる日々でしたわ。まさしく殿下の尻ぬぐいばかり。
尻ぬぐいは女性関係だけではもちろんございません。先に述べた王太子教育の肩代わりに加えて、十二歳になると王族と王族の伴侶となる準王族――――わたくしのような婚約者――――には公務が任されるようになります。ええ、殿下はその公務の実務すべてをわたくしに丸投げされてきましたの。上辺の良いところだけご自身で受け持たれて。評判も功績もすべて、わたくしが為したことをご自身のものとされて。
わたくしにも公務は割り振られておりましたのに、殿下の公務まで負わされ、殿下が受けるべき教育も続けられ。殿下に対しての愛情が育つ余地なぞ、この十年、まったくございませんでした。育ったのは嫌悪と恨みばかり。
もう限界でしたの。もう耐えられないところまで来ていました。無理なのです。罪人として処分された方がマシであると思うほど、殿下とこれ以上婚約者でいることが。
殿下の矯正は不可能でございます。この十年をお傍で見守らざるを得なかったわたくしの結論ですの。
けれども、殿下への嫌悪を越える感情よりも、もっと恐ろしい事実を知ってしまいました。
十二歳より回される未来の王太子妃としての公務の中に、現在の王妃殿下の公務が交ぜられていたのですわ。
ご存知の通り、王妃殿下はアレキサンドロス殿下をお産みあそばした際より体調を崩され、公務に耐えられないと療養に入られました。それ以降、公の行事でもお顔を拝見することさえなく、離宮にて静養されたままでございます。わたくしもお会いしたことはございません。
当然、王妃殿下がそれまで熟されていた仕事は、陛下をはじめとした方々が分散して処理されていたと思われます。けれど、わたくしの教育に目途が付き、公務を行うようになって以来、その仕事がすべてわたくしに回ってきていると、気付いた時には遅かったのです。
その原因は国王陛下にあられます。王妃殿下が療養に入られた時点で、側妃を娶られるべきを拒否され続けておられたからです。陛下の理由は存じ上げませんが、ここまでそれを押し通して来られました。王妃殿下の代わりに立つ大人の女性がいらっしゃらないままの国家なぞありえません。
それがわたくしが公務できる年齢になった途端、たった十二歳のわたくしにこれ幸いと全部押し付けられたのです! ええ、十二歳のまだ子供でしかないわたくしにです! 将来どうせその仕事をするのだから? 大人と子供の体力は違いますの。そんなこともご存じない? どれほどわたくしの心身への負担になっていたか。公爵家に戻って休む暇すらないほどでしたのよ!? ここ一、二年でようやく慣れて参りましたが、本来、まだわたくしの仕事でないのは明白です。
ですが一番の問題は。王妃殿下の業務代行を知らず熟している内に、わたくしは嫁いでから教わるはずの国家機密に触れてしまっていたことでした。
アレキサンドロス殿下の行状については、わたくしからも、また多方面から報告は為されていたと聞いております。殿下は次期国王の器ではあられないと、陛下もさすがに理解されていたはずです。
殿下が廃嫡となられましたら、わたくしとの婚約も白紙ないしは解消となるしかありません。どれほどそれを待ち望んでいたことでしょう。
ですが、王妃の座についてから教わるはずの王家の機密の数々に、もうわたくしは触れてしまいました。これでは殿下との縁がなくなりましても、王家から解放はされません。公爵家に戻って後継となる未来もなく、機密保持のために毒杯を賜るか、あるいは他の王族の方に嫁すかしかなくなってしまいました。
幾人か継承権を持った王族の方はいらっしゃいます。王弟殿下他、大公家を起こされている方。ですがアレキサンドロス殿下以外ですと、継承権のある男性は皆、既婚者ばかりでいらっしゃいます。そこに割り込んで第二夫人になる? 冗談ではございません。
王妃殿下の業務を代行するうちに、熟すために必要だったのでしょう。王城内でわたくしの行けない場所はなくなり、わたくしが知りたいことはすべて明かされるようになりました。王家の影すら使えるよう配慮いただいたようで。
その過程で知ってしまいましたの。
このままでは殿下の廃嫡は必至。であれば、殿下廃嫡の後にわたくしを陛下の側妃として召し上げるご計画を。
物語の中ではどうしようもない婚約者や夫を切り捨て、未だ魅力的な義父と結ばれる、なんてものが巷間に出回っているようですが。
はっきり申し上げますわね? 何が悲しくて自分の父と同年代の年寄りに嫁がねばならないのですか、気色の悪い。わたくしが若いから、子を産ませて後継を? 鳥肌がたちますわ。一部の男性が往年の魅力を失ったことにも気付かず、若い娘を口説いても喜ばれると勘違いなさっているのと同じ。現状のご自身がまるで見えていらっしゃらない。脂ぎった中年男とか、嫌悪しかありませんわ。多少、お顔の造形が整っていましても、崩れた体型も見苦しいばかりですのに。
まあ、中には魅力的な年の取り方をされている男性もいらっしゃいます。ですが、そういう方はご自分の家庭を大切にすることを知っておられますから、無闇と若い女に脂下がったりはいたしませんのよ。
アレキサンドロス殿下でも相当でしたが、サンヴェルデ陛下となりますともっと最悪でございます。殿下がおそらく持っておられる花柳病はないかもしれませんが―――――殿下が下層の下町の娼婦とすら遊んでおられるのは承知しておりますから確実ではございません?―――――。あけすけに申し上げますが、わたくしとて自衛のために調べましたの。その殿下の元が陛下ですのよ? 教育の失敗、甘やかしすぎた結果であっても、陛下の種には期待できません。年齢が上がると男性の種の質も落ちるそうですから、殿下の劣化版ができても排除一択ではございませんか。
つまりは、陛下の側妃になるくらいでしたら、毒杯を賜った方がマシという結論になります。
わたくしは筆頭公爵家レッドグローブの娘。王女がおられない現在、この国においては最も高貴な独身女性です。そのわたくしが、陛下なり由縁の方なりの側妃や第二夫人にしかなれないとか、ありえないとしか申し上げられません。そこまで安く見られる女では決してございませんの。わたくしとて、年齢差のほとんどない初婚の男性しか夫にしたくはございません。殿下以外の。
それでも、わたくしが王家の機密を知ってしまったのも事実。ですから、その立場を逆に利用しようと思いましたの。王家の機密という機密、すべてを掌握し、活かせる方向に舵を切らせていただくことにしました。
わたくしが魔法行使したあの日。いつも通りに殿下はわたくしに業務を押し付けて街に繰り出そうとされていました。ですが、あの日にはほぼ準備が整っていた為、わたくしは殿下の申し出を拒否。激高された殿下が暴力を振るおうとされる前に執務室を破壊いたしましたの。殿下のお身体には傷をつけない配慮の上で。
わたくしの限界が近いことは家族や身近な者には報告しておりました。ですから、殿下の執務室でわたくしが魔法を派手に放った事は、決起の為の狼煙でしたのよ。
皆様、急に扉が開いて騎士がなだれ込んできたことにそれ程驚かれなくとも。大丈夫ですわ。やましいことがなければ、無事に終わりますから。
ああ、皆、よくぞ駆けつけてくれましたね。さすが我がレッドグローブの信頼する騎士たちですわ。王城の制圧は済んだのですね? よくやりました。後程、褒美を取らせましょう。
お聞きの通り、すでに王城の制圧は為されました。無能な王族への不満は広まっており、ほぼ無血で事は為ったようです。
まずは陛下、わが父にご譲位を。お嫌でしたら胴体と首が離れてから王冠を頂くことになりますが、よろしいですか? まあ、ありがとう存じます。さあ、お父様。
ああ、お父様。よくお似合いですこと。
わたくしは王太女として立つ所存ですわ。そうして、広く王配を求めます。きっと国内外より優秀な方たちが集まってくださることでしょう。
宰相や大臣の皆様も、レッドグローブに忠誠を誓ってくださるのでしたら、無駄に首を切ったりはいたしませんわよ? ただし、無能は必要ありませんから、これから大掃除で忙しくなりますわ。汚職に収賄、横領は把握しておりますから、目星はついておりますけれど。
王配候補に名乗り出てくださる方の中には、重要な役職を任せられる人材もいらっしゃるかもしれませんわね。これからいくつもの役職に空きが出るはずですから。
父もわたくしも寛大ですから、元陛下と元殿下には元正妃殿下の離宮にて静養していただきますわね。下手な流血沙汰は他国の介入を招きかねませんし、かと言って市井に放流すれば反逆の旗頭にされてしまわれるかもしれませんから。
ご不満でしたら、毒杯を選んでいただいても構いませんけれど? わたくし個人といたしましては、長くじっくり不遇を堪能していただきたいと願っておりますわ。ええ、多少はこれまでより提供されるものの質は落ちると思われますけれど、命の方が大事と思われるのでしたら、ねえ?
さあ、元陛下と元殿下をきっちりと離宮に送り届けて頂戴。わたくしはこれからお父様、いえ、国王陛下との打ち合わせがありますから、頼みましたよ。
それでは元陛下に元殿下。これで一生のお別れですわ。十分な教育と十分な実績を重ねさせていただいて感謝いたしますわ。あと、これほど誰かを嫌い疎むことが出来ると教えてくださって。これ以上、お顔を見ておりましたら、ついうっかり魔法で攻撃してしまいそうですから、どうぞ速やかに我が騎士団に従って退去してくださいませ。今後のご健勝をお祈りしておりますわ。ごきげんよう。
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その日。グレープ王国に乱あり。
愚王を廃し、マスカット王朝は終わり、新たにレッドグローブ王朝が冠を戴く。
五年後、王太女オリンピアが女王として立つ。その傍らには有能と評判の若く端正な王配が控えていたという。
葡萄の美味しい季節ですね。シャインマスカットは簡単に口に入りませんが。
アレキサンドリアじゃなくてアレキサンドラだったらもっと男性名にしやすかったのに。コメントいただいたので王太子の名前はアレキサンドロスで統一しました。
王家は黄緑系の品種。レッドグローブ家は赤系の品種。王配は黒系品種からの予定。美味しいお話ですよ?
離宮においては、身体の自由を奪う程度の毒とかが与えられるのではないですかね? 長生きはできない。
裏話はいつもの通り、活動報告で。もはや趣味。
藤沢8号様のリクエストと北森八雲様の設定で小話を活動報告にて一旦アップしましたが、この後書きにもおまけとして記載することにしました。ちょっとした後日談のようなものです。
<王太女殿下の日常~あるいは布石というもの>
「殿下、お聞きになられました?」
その日、側近であるトンプソン侯爵家のバラードが、王太女となったオリンピアの執務室で話を振って来た。彼は元々が前王太子アレキサンドロスの側近だった人物。オリンピアと公爵家が反旗を翻す話に真っ先に飛びついた男でもある。年齢は二歳上の二十歳。侯爵家の令息の割に砕けた態度を取るのは、彼の母が第二夫人だったせいもあるかもしれない。
「何を、かしら?」
書類から目を離さずにオリンピアは尋ねる。優秀な両親のおかげで、オリンピアの仕事はずいぶんと減った。それでも前王朝のやらかしを清算しきるには至っていない。
「隣国、パープル王国で、わが国の政変と同じ日に騒ぎがあったそうなんですよ」
「そうなのね」
アレキサンドロスの振る舞いのせいで拗れた各貴族家の政略の見直しが終わらないオリンピアの返事に熱はない。
「ニーナ第一王女が舞踏会にて婚約破棄をされたというのです」
「ああ、先に婚約が決まっていてアレキサンドロスが振られた王女よね」
本来、貴賤結婚を避ける各国王家の後継は王族同士で婚姻するのが普通である。ただ、この年代に王女が少なかったために、アレキサンドロスとの婚約がオリンピアに回ってきてしまったのだ。
「そうです。パープル王国は歴史も古く、権威付けのために各国が縁を求めて、ニーナ王女への求婚はすさまじかったそうですが」
「あの国は国力が落ちているのを婚姻外交で切り抜けようと、ピオニー王国の王子を選んだはず」
「そうなんですよ。アーリー第三王子とね。しかしニーナ王女のお気には召さなかったようで関係は冷え切っていたようで」
「どこの王家も子供の教育に失敗しすぎていない? 甘やかしすぎるのかしら」
「ですよねえ。うちも猿殿下みたいなことになってましたし」
「結局のところ、両国の婚姻は破綻したとみて良いのね?」
「来賓も多い夜会会場でのことでしたから、発言の撤回は不可能でしょう。そのせいでパープル・ピオニー両国はまだ混乱が続いているようです」
オリンピアは椅子から立ち上がって、処理済みの書類の束をバラードに押し付けると、控えていた侍女にお茶を淹れるよう命じた。
「ねえ、バラード。その婚約破棄騒動が起こった日付に何か思わない?」
「ありがたかったと思いますよ。おかげで二国ともに政権交代したばかりの我が国への干渉どころでなくて」
執務室に備え付けのソファーに優雅に腰を下ろしたオリンピアは立ったままのバラードを見上げながら口角を上げた。
「あなたはわたくしの側近となったわ。問題なければわたくしが王位についた後でもその地位は保たれる。だから覚えておきなさい。ニーナ王女が婚約者を毛嫌いして破棄に至った原因。麗しき女騎士ローズのことだけれどもね。彼女、我が家の姻戚なのよ」
他国と縁を結ぶのは何も王家だけに限ったことではない。レッドグローブ家とて、主要国の重鎮と婚姻することも珍しくはなかった。
「噂は聞いています。女性に絶大な人気がある女騎士だと」
「ええ。箱入りの王女なぞころっといく男装の麗人よ。女性の繊細な心の機微に即座に対応してくれて、気の利かない婚約者が霞んでしまうくらいに」
「それは、つまり……?」
「ローズはレッドグローブの血が濃いの。主家であるはずのパープル王家への忠誠を凌ぐほどに」
侍女から供された紅茶で唇を湿したオリンピアは何とも妖艶であった。
「あの日に婚約破棄騒ぎが起こったのは偶然ではないということよ。そのうちにローズはあなたの同僚になると承知しておきなさい」
そうして、ピオニー王国から届いた第三王子の釣書をひらひらと振って見せる。ニーナ王女の婚約者であったアーリー王子の。
「ピオニーもパープルを見限ってこちらに付くわ。兵を挙げるよりもはるかに簡単に利があると計算したのでしょう」
これから、周辺国の情勢は目まぐるしく変わるだろう。その台風の目とも言うべき主人の周到な長い手に、改めてバラードは膝を折って忠誠を誓った。
<完>
葡萄品種「クイーンニーナ」「クルガンローズ」というのがありまして。ローズの姓はクルガンということで。




