7 再会
昨日からの強風で、校庭の桜はすっかり散ってしまった。運動部が、じゅうたんのように敷き詰められた花びらの上を、掛け声をかけながら走っている。優衣は夕日に照らされたそんな光景を、ぼんやりと眺めていた。
「優衣ー、お待たせー!」
風で乱れる髪を手で押さえながら現れたのは、同じクラスで同じ吹奏楽部の青木恵美だ。
「ごめんねぇ、先輩に引き止められちゃってさー」
「ううん、大丈夫だよ」
優衣が恵美に笑いかける。
「わー、見て、すごい夕焼けー」
「明日も晴れるね」
「なんで?」
「夕焼けだと明日は晴れるんだよ?」
「へえー、知らなかったぁ」
恵美がえへへっと笑う。優衣も恵美と一緒に笑う。
違う小学校出身の恵美とは、中学に入ってから仲良くなった。今一番仲がいいのはこの恵美だ。そして昔から友達の多くない優衣に、他に親友と呼べるような子はいない。だけどそれでもいいと思った。やっぱり大勢とつるむのは苦手だから。
小六でクラスが別れた亜紀とは、だんだん一緒にいることがなくなって、今ではほとんど話すこともない。バレー部に入った亜紀が、部活の仲間と楽しそうにしている姿をよく見かける。
同じように香織とも離れていった。積極的で顔立ちも綺麗な香織は、中学に入ってすぐ彼氏ができたとか、もう別れたとか……そんな噂を時々耳にする。
「あーめんどー。明日英語のテストじゃん」
恵美がスクールバッグをぶらぶら振りながら空をあおぐ。
「ねえ優衣ー、英語のノート写さしてくれないー?」
「あ、どうしよう。ノート、教室に置いたままだ」
「えー?」
「取りに行ってくる。恵美ちゃん、ちょっと待ってて」
「もー、優衣はしっかりしてるようで抜けてるんだからぁ」
恵美に笑われて苦笑いしながら、優衣は校舎の中へ戻った。
運動部の掛け声も消えた、下校時刻の過ぎた学校は、やけに静まり返っていた。優衣は上履きに履き替え教室へ向かう途中、職員室の前を通った。
カララ……と小さな音がして職員室の扉が開く。制服姿の男子生徒が出てきて優衣とすれ違う。
しんとした空気が漂う廊下。窓から差し込む沈みかけた夕日。優衣はふと立ち止まり、後ろを振り返る。
「……裕也?」
優衣の声が廊下に響く。職員室から出てきた生徒がゆっくりと振り返る。
「なんだ、七瀬じゃん」
優衣の目の前に裕也の姿があった。あの頃、優衣とあまり変わらなかった背丈がぐんと伸び、顔もほっそりとしたような気がする。そしていつも聞いていたあのかすれた声も、心なしか低いトーンに変わっていた。
「な……んで?」
ぼうぜんとしながら、なんとかつぶやく優衣に、裕也が言った。
「俺六組。お前は?」
「さ、三組……」
優衣の声に裕也はふっと笑う。その冷めたような笑い顔は、あの頃のままだった。
「ちょっと、三浦くん! まだ話は終わってないわよ!」
職員室から六組の担任教師が飛び出してくる。
「じゃあな!」
裕也は優衣にそう言うと、背中を向けて廊下を走り去っていった。




