第8話 反乱分子
テントの中で男は話し始めた。
「俺たちの目的は、次の行幸で陛下をお招きすることだ」
「そんなことは許されていない」
「そのために、もうすぐ送電タワーの前で大規模なデモが行われる。デモ隊には送電事業部の管理職もいる。タワーは占拠され、この特区の電力供給は俺たちの管理下におかれるだろう」
「ずいぶんと明けっぴろげに計画を話すな。ブラフじゃないのか?」
坂本が訝しむ。
「どうせいずれ伝わる計画だ。常務を抱き込んだようだが、俺たちは止まらない。外部との通信を回復させ、まずは交渉を開始する」
「そこから先は無理だ。政府はこの特区を変えるつもりはない。独立なんかできないんだ」
「なぜ無理なんだ? この特区の主な産業は、プルサーマル発電とセクサロイドだ。あんたらと組めば、世界に通用する産業を複数持った独立国家になれる。あとはその正統性さえあればいい」
「正統性が与えられることはない。政治的に無理なんだ。そのくらい分かるだろ」
「そうだよな。俺たちは外からはバカにされ続けてる。ホミニナ・ホモ・デソランスだ。でも、そうやって溜まったルサンチマンが、どういう形で帰ってくるのか、外の奴らにも考えてみて欲しいもんだな」
「……どうやって考えさせるつもりだ」
「原子力発電事業部だ」
「核攻撃で脅すつもりか⁉ そこまで来たら完全に内乱予備・陰謀罪だ。全員、ただでは済まない」
「だから俺は、暴動に至る前に自首してるんだよ。この特区の警察じゃなくて、外の政府のエージェントであるお前たちにな。これで俺は無罪だ。銃を下ろしてくれ」
「お前が指導者じゃないのか?」
「指導者じゃない。計画のデータを引き渡す。あとは、好きにしろ」
坂本と俺は呆気に取られたまま返す言葉が無い。
「こんなもの、政府に送ったら、爆撃されて全員終わりだぞ」
「特区も、俺たちの仕事もなー。どうする? 職務放棄してトンズラこくか?」
坂本が諦めたように肩をすくめ、しばらく沈黙が続く。
俺はもう一つ、聞かねばならないことがあるのを思い出した。
「あの音声データをどうやって入手した」
「ああ? ネットで拾っただけだ」
「ベアトリスが首謀者なのか?」
「知らないな、そんな奴」
「首謀者は誰なんだ!?」
「この計画は、全員の無意識の欲望だ。そういや、ネットであんたのプロフィールも見たよ。北浜脳さん。そういうのを管理する仕事なんだろ? 暴動を止めて見せなよ」