第7話 地下水道
独立派のセクトが、下水道に基地を作っているという情報が入った。畑中常務から得た重要人物たちの行動を監視した結果だ。俺と坂本は調査に向かうことにした。
「うぇー。湿っぽいし、嫌な匂いだ。これはもう頭脳労働じゃねえ」
「マスクで匂いは消えるだろ?」
「気分の問題だよ。北浜、通信は切るなよ」
俺たちは顔を覆うマスクの他、防弾チョッキを装備して調査に臨んだ。マスクのせいで声を出しても聞き取りづらいので、アドホック通信で会話している。
通常なら、相手が武装していれば、警察が対処する。しかし、この特区の警察は青幡電力の自警団だ。独立派が革命を準備している場合、どう扱うかは分からない。結局、政府の意向に近いのは俺たちの会社だけで、この調査もシステムの保守の一環だそうだ。俺たちは、拳銃を持つことも許可されている。
「ヴァージル、先の通路を見てきてくれ」
こういう時には役に立つ。坂本はイズミを連れてきてはいない。
「右の通路の先に、広い空間があり、テントが設営されていますね。画像を送ります」
「人の反応は?」
「ありません。テントの中の熱量は環境値と同じに見えます。ただ、カムフラージュかもしれず、確証はありません」
「何かあるのは確かだ。慎重に近づこう。やばければ撤退だ」
坂本が言う。俺たちは通路を進み、テントの前にやってきた。
その時、背後でけたたましい羽音がした。
「しまった! ドローンだ!」
大型の軍用機だ。ガトリングを装備しているように見える。広間の壁を背にして俺たちは銃を何発か撃ったが、通路を飛び回るそいつには当たらない。
「ヴァージル、ハッキング!」
「やってみますが、青幡の独自モデルです」
「常務にデータを探してもらう。時間を稼ぐぞ」
俺たちは、広間の壁を背にしたまま、ドローンの羽音を聞いていた。その音がこちらに近づくたびに、牽制の銃撃をするとそいつは引き下がった。そこまで先進的なモデルではないだろう。近距離なら、撃ち落とせるかもしれない。
「見つけたぞ! そっちに送る」
坂本が畑中常務から得たドローンの情報を転送してきた。ヴァージルに共有する。
「これなら止められます」
ヴァージルがそう言った時、テントの奥から、黒いコートの男が出てきた。
そして、手元のボイスレコーダーから、彼が持っているはずのない音声データを再生する。
『停止だ。管理パスワード、チョコミントアイス』
「何⁉ おい、今のは俺じゃない」
ヴァージルが地面に落ちて動きを止める。
男は、ロングコートのポケットにレコーダーをしまい、こちらに歩いてきた。俺は男に銃を向ける。坂本は壁沿いでドローンの介入を抑えている。
「それ以上近づいたら撃つ」
俺は警告する。
「何の名目で撃つんだ? 正当防衛か? 俺はまだ何も危害を加えてない」
男が両手を広げてみせた。何も持っていない。
「北浜、軍用ドローンだけで内乱予備罪だ! 構わねえから撃て!」
背中を向けたまま坂本が叫ぶ。
「剣城テンソル解析だな? 俺は話を聞いて欲しいだけだ」
男はさらに歩み寄ってきた。
「ドローンを止めたら話を聞いてやる」
「いいだろう」
俺が言うと、男はドローンを停止させ、バッテリーを抜いてこちらに投げた。勝手に動かす気がないという意図らしい。俺たちは拳銃を持ったままだ。
男はテントの扉を開けて、俺たちに入るように促した。俺はヴァージルを再起動させ、後に続く。こいつが独立派の首謀者に近い立場なのは間違いない。あの音声データのこともある。話を聞きたい。
「くそ、甘いんだよ。何かあったらぶっ放すからな」
坂本も仕方なく俺たちを追いかけた。