第6話 接続設定
部屋でシャワーを浴びさせると、彼女は少し活力を取り戻した。コンビニで買った弁当を二人で食べる。ヴァージルは食事をしないので、誰かとの夕食は久しぶりだ。
「ああー。生き返ったわ。ありがとう」
時代遅れで添加物だらけの弁当だが、彼女が嬉しそうに食事をしているのを見ると、俺まで良いものを食べた気になってきた。
「よし、通信デバイスを調べよう。帰るべき場所が分かるかも」
「何よ、こんな時間なのに、泊めてくれないの?」
「……」
俺は黙ってしまった。来歴不明のまま、このまま一緒に寝てくれると言っているのだろうか。そして、俺がそれを調べない限り、ずっとここに居るのだろうか。
いや、会社のシステムの重大な問題である可能性もある。先に調べるべきだ。
「悪いな。仕事なんだ。服を脱いでくれ」
「ここで? 脱ぐなら、ベッドに連れてってよ」
「……」
どうにも話し方が狙いすぎだ。そのような設定のセクサロイドなのだろうか。仕方なく寝室に連れて行く。
ベッドの前で服を脱がすと、彼女も俺のシャツのボタンを外しだした。
「俺はいい。調べるだけだ」
「私だけなんて不平等じゃない」
男女平等なんて言葉はこの特区では通用しない。でも、俺は彼女の手を止められない。
「バージル、ヴァージル。ライフログの記録を止めてくれ」
「危険だと思います。モデルも不明ですので」
「停止だ。管理パスワード、チョコミントアイス」
ヴァージルはデスクの上で動きを止めた。女の腕が、俺の首元に絡みつく。
「どうしたの? 調べてくれるんでしょ?」
「ああ、そうだった。調べないと」
そのまま二人はベッドに倒れ込んだ。
結果として、彼女は人間ではなかった。確かに剣城テンソル解析のHHICだ。しかし、記憶領域に何も残っていない。名前も知らないというのは本当だった。
「ここにいても良いでしょ? 邪魔はしないわよ」
翌朝、そう言われた。断る理由もない。
「IDも無いというのは問題です。何か決めてネットワーク接続を初期設定すべきかもしれません」
ヴァージルが言う。しかし、彼女は、名前が無いからここにいてくれたのだ。ネットワークに繋いだ後、どうなるか分からない。
別れた妻は、家庭の外に沢山の友達を持っていた。今思えば、俺はそのことに嫉妬していた。ここはそうやって女性に対する劣等感を募らせた男性の行きつく場所だ。
「ホミニナ・ホモ・デソランスか……」
俺は、まだ独占欲に溺れたくはない。
「どうしましたか? IDを設定しますか?」
「よし。何か決めよう。自分で名乗りたい名前はあるか?」
「私は何も思いつかないわ」
「俺もだ。ヴァージル、何かアイデアをくれ」
「そうですね。私が『神曲』のヴェルギリウスからなら、彼女もそうしてはどうですか? ベアトリーチェから、ベアトリス」
「いいじゃない、それ」
「VよりBの方が呼びやすいが……気取り過ぎだ」
「気に入ったの。それで設定して」