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序章 砕かれた光輪(後編)

こんにちは

大変おまたせして申し訳ありませんでした。


前回のヒロインとの出会いから時間が開きすぎたので、あらすじ。


今より少し未来の情報世界に新しく作られたMMO世界 紅葉の聖地モミャル・ガハムは上位世界の煽動者と釣られた暴徒により破壊されてしまう。

ログインできず弾かれたPC【師匠】くんは目覚めると【紅葉の聖地】を脱出する最後の列車の中で1人の傷ついた少女と邂逅する。

彼女は【モミャル・ガハム】の概念を駆動する【光輪】を失い仮死状態にある。

そこへ隣の車両から駆け込んできたうさ耳の少女が告げる、彼女の住むMMO世界の【神性】に書き換えれば彼女は助かると!

そして師匠くんがその移行を手伝えるというのだ。

とっても神性なボーイミーツガールとガールミーツボーイから始まる、生成AI以後の概念世界の冒険を応援してくれるとヤトヤはうれしいです!


挿絵(By みてみん)


オレは目覚めたばかりの少女が落ち着くのを待っている。


ガタタタン……ガタタン……


列車の振動音は少し緩やかになったようだ。

オレがそっとハンカチで彼女の目元をを拭うと、彼女は少し赤らめてなにげに自分の頭の上を弄り出した。(ハンカチはうさこが手渡してきて、ドヤ顔サムズアップで頷いている)


モブ子「無くなっている…」


指先は何にも触れず、彼女はほんの少し切なげにそう言葉を漏らした。

オレは彼女の困惑を理解して告げた。


「ごめん。君の元の世界の【神性】はもうここで維持できないようだよ。でも、このメイドうさぎさんが、彼女の世界の神性を付与して、君を助けようとしてくれている」


うさこ「きゅっ。ウチの世界【聖者の森】はモブ子さんのいた概念世界のすぐ隣にあります。どうか安心してこの新たな神性、【聖者の花輪】チャクラの開放を師匠くんと続けてください!」


モブ子「チャクラ…聞いたことがある。どこかの世界でモンクが使うスキル…?」


うさこ「そ、それはウチ達とまた異なる世界ですね。【チャクラ】は体内に7つの神性が配置され、それを順に回転させることで強力な刀技や法力を生み出します」


モブ子「その最初のひとつがココにあるんだ…」


彼女は自分の下腹部に手を添えようとして、オレの右手がすでにあることを一瞬意識する。しかしそのまま彼女はオレの右手に自分の手を重ね、やさしくオレにこう告げてくれた。


モブ子「師匠さま、お手先を気にしないで…大丈夫。第一のチャクラがこの手の下で静かに回り始めてる…。わたしの阿頼耶データを再起動してくれた貴方さまに【不適切】なリソースがほぼないこともじかに…伝わってくる……」


うさこ「きゅっ、モブ子さんから継続OKの意志確認もできましたねっ!クールそうで優しい子ですこのコ!」


…よ、よかった。オレも目覚めたばかりでどうやって助ける気なのか困惑していたけど、

たしかに【チャクラ】も密教やヒンズー教の概念だ。

それを中核にした神性成長システムを持つMMO世界なら、

同様に仏教概念世界の【光輪】を失った少女を極端に変化させず書き換えて、

生存させることが可能という判断みたいだ!


うさこ「師匠くんの理解が早くて助かります。

さらに言えば、上位世界からの冒険者である【師匠】というジョブは、弟子の【チャクラ】を動かす力添えができる。この儀式はそういう重要な仕組みですっ」


となると、この先あと6個の神性解放をオレは手伝うことになるのだろうか。

空間UIチェックしてしっかり把握しなくちゃ…

オレがぐるぐると想像巡らせていると、うさぎメイドが見透かしてニマニマしだした。

モブ子さんを救うためとはいえ、このうさぎメイドにずっと見ていられるのは恥ずかしい状況すぎてツライよ!


うさこ「緊急時に恥ずかしいことなどないです。師匠くんの意志力、故郷を失った修行生に対する深い共感、その数々の選択がウチの理解とサポートで上位世界にも正しく伝わるはず。

しかし神性なイベントそのものは暗転で配慮されている。

そのアンビバレントな状態がとってもイイのではないですか!眼鏡かけたメイドうさぎ美少女がモデレーターの癖コンテンツじゃないですかっ!」


うさぎメイドは早口でメタい小理屈を述べ終わると、ふっと表情を高品質で柔和なスタイルに変えてモブ子さんにやさしく語りかける。


うさこ「モブ子さん、これから紅葉世界の阿頼耶式データの一部を失いますが、貴女という存在は継続され、このお若い師匠さまの一番目の弟子として再誕生いたします。さあがんばるのです!」


モブ子「はい…うさこさま、そして師匠さま」


オレの膝の上で彼女はわずかにみじろぎしてその意志を告げようとする。


モブ子「お二人の思いに答えたい…私は非力なモブの修行生にしかすぎないはずでした。それでも、師匠さまとともに今ここに在る量子のご縁に、新しい神性の導きを感じるのです」


クールな所作が信条らしいモブ子さんが精一杯の胸中を言葉にして、再び自身の更新に集中すべく体を預けてきた。


モブ子「目覚めて早々、弟子らしく務められないのは不覚です…しかしどうかこのままの姿勢をお許しください…」


「お互いに非常時だ、なるべく気にしないで」


オレのほうが、彼女が動くたびにとっても感触を気にするのだが、師匠としての修行の一部だ。


モブ子「私は…師匠さまと、深く繋がって、満たされた感覚がある……あっ」


…モブ子さんが小さくあっとつぶやくと、また前髪の隙間からクールそうな瞳が一気に潤んでオレを見つめていた。

彼女はオレの目をじっと見つめて、少しずつ紅潮していく。


挿絵(By みてみん)


モブ子「なっ、なんでもないです…」


うさこ「大きな更新データが実行されました…少しずつ違う存在に移行しつつあるのです。

きゅっ、モブ子さん恐れず受け止めてください」


うさぎメイドの言葉に、モブ子さんは自身の光輪を失い、さらにいま消えゆく自分の一部分を自覚し、少し刹那げな表情をみせて頷く。

彼女は紅潮したまま跳ねるように体を起こし、オレの両肩に手を回し膝の上でしがみつく姿勢をとった。

彼女はオレの耳元で囁く、


モブ子「師匠さま、私が書き変わっていきます…お分かりになりますか?」


彼女は掠れた声でそう告げた。そして変化をともに感じることを願っている。きっと。


ガタタン…ガタタン…


闇の森が続くなか、静かな列車の走行音と振動、

そしてモブ子さんの切ない呼気に混じって別の規則的なリズムが加わり始めた。


挿絵(By みてみん)


(のっのっのっ)


なんだろうこの効果音は。


(そそそそ)


もう一つの方は衣擦れのようだ。


(のっのっのっ)


(そそそそ)


この2つの音が繰り返されていく。


(のっのっのっ)


(そそっそそっ)


(のっのっのっ)


(そそ…そそ…)


するとモブ子さんの第1チャクラの位置に集まる光の粒子もさらに加速していく!


待ってくれ、これではまるで……(表示される選択肢の片方を選ぶ)


えっと、


これはとても神気が満ちていく状態だ…。(通りそうな方を選んだ)


神性な儀式イベントなのに、オレが妙な勘違い、

上位世界が勘違いするみだらな解釈をしてはダメだ!!!ダメ絶対!!!!!!


うさこ「きゅっ、そうですよ師匠くん!いまは画面が暗転して、絆を深め合うモブ子さんの重要イベントですっ!

師匠くんもよく見たらパーツ整った男子なのだし、かなりがんばって配慮してる男子だし、

んっ?まさか、モブ子さん視点で見るとこれは乙女ゲー展開なのですかっ!?

その師匠ガチャが期間限定SSRなのですかっ!?

ひゃあ!なんてことでしょう!(大興奮)

メイドうさぎでもヒトの当たりは悔しいっ、

それでも師匠くん視点では、ウチはいまのところ第2ヒロインのポジ。

これはこの先のルート分岐が楽しみということですっ」(うさぎのダンス)


なんかかわいい声でメイドうさぎが夢にダイブしだしたようだけど、追手もいるんだよね?


うさこ「ピタッ、たしかにそうです。【聖者の森】に無事に着くため、モブ子さんのアプデさらに本気でいきましょう。

チャクラの回転をあげ複雑なシステムを直接移行するこの駅弁Body positionががが…

コホン、とっても神性な概念が最速です!

ただし、緊急措置で弟子と師匠のふたりを救助し、

更にレベルゼロから開始するなんて特殊事例です。

暴発事故にマジ注意してくださいっ!

特に男子は素数数えるとよいらしいです!」


オレが素数を数えだすなか、(2,3.5,7…)

密着しているモブ子さんもがんばってクールそうな表情で真剣に聞いている。

しかしふたたび頬がどんどん紅潮しだしたぞ。

彼女の鼓動が早くなっていくのが直に伝わってくる。


メイドうさぎさんが難解な成長システムの説明を妙なテンションで続けるなか、師匠というプレイヤー概念のオレにもはっきりとした自覚ができてきた。

この唯一紅葉世界を脱出できたらしい少女が、この先の世界で生きていくのに必要な新しい神性を手に入れること。

オレがいまその力になれるというならなんでもしよう。

それは絶対的に【師匠】としての本懐だ!(…101、え〜と103…107…)


うさこ「大丈夫そうですね師匠くん。そしてモブ子さん。

おふたりのために暗転したこの領域、そして聖なるご奉仕が信条のウチが見守る。上位世界のレッドカードを防ぎ続ければこの専用イベがモブ子さんに新しい力を、師匠くんにもムニ世界でのレベルが付与されるっ。

ウチがセーフと言う限りそれは問題ある描写ではないのですっ!」


モブ子さんはうさこさんの言葉に促され、そしてオレといっしょに神性開放のための…あッ、それは師匠としてすごく試練なポジションだよ…モブ子さんッ…


うさこ「セーフ!…セーフ!…セッ…」


そこで生唾飲み込まないでくれないかな…メイドうさぎさん…


ガタタタン…


しかしそのとき、嫌な振動が列車に加わった。


挿絵(By みてみん)


ガタタン…ゴッ、ゴゴゴゴゴッ!!!


同時にメイドうさぎの耳がピンッと立ち上がり、彼女の髪の毛が総毛立つ。


うさこ「また追っ手が後部車両に来た!」


そういうと彼女はデッキブラシを取り後方に駆け出す。


うさこ「もう一息なのに。今度は数が多い、きゅきゅっ!?」


メイドうさぎが後部の昇降デッキにたどり着くその寸前、


シュバババッ


猛烈な光が後方ドアの向こうから溢れてオレたちのいる車両を貫くように照らした。

光が加圧し、彼女を一気に押し返し、3体の敵キャラが現れた。

一見コボルトのような黒犬顔で小柄だが、天使の姿でふわふわ浮いている。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


うさこ「きゅきゅッ!ついにここまで。暗転の加護は続いてますが、奴らは車中にいるので近寄られたら丸見えですッ」


モブ子「…別によいです。この凶信徒たちにわからせるその時が来たのです。チャクラの回転がそれを告げています」


モブ子さんはオレをギュッとして、その甘やかで切ないひとときの終了を伝えてきた。


上位世界に向けた暗転が消える。


彼女に収束していた光の粒子がこんどは反転して周囲へと拡散していく。


それはとても美しく、第1チャクラの回転をあげ、少女が戦う状態に入ったのだと気づかせる。


ワオッワォッ!ワォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!


侵入してきた黒犬のヴィランたちは歓喜の遠吠えを上げる。

目的の少女を確認し、はしゃいでいるようだ。


そしてモブ子さんを手招きし、さも自分たちが救助に来た善意の行動だとジェスチャーを交え偽善ぶりはじめた。


モブ子「私は見ていた…紅葉の聖地で活躍するはずの美しい少女たちが光輪を砕かれ消えゆく様を…世界と世界へ住まう者たちへの無理解と慢心をずっと見せつけられていた」


オレは毅然としたひとりの少女の言葉に打たれる。


モブ子「聞け。私の体も、心も、すでにすべてこの方とともにあります」


彼女は黒犬たちにその意志を気高く鼓舞した。


黒犬たちは唖然とし、ギャンギャン慌てふためく。『ひぃッ、客車の中でななな、なんて淫らなことを!我らの所有物であるキャラがNTRれたっ!』などと上位世界でチャットしているのだ。

そしていつものようにキャラクターの意志は無視して、敵意を剥き出しにしてきた。


ギャオッ!ギャギャオンッ!


うさこ「うわぁ、下品な罵倒語でクラクラしますっ。師匠くん一応字幕で確認できますよ…」


そうか、眼の前に字幕も浮かび出るんだ。


なになに…『非処女のモブ…連れ帰って…感度3000倍…』


モブ子さんが反応する前にオレの怒りが怒髪天だった。


「モブ子さんは…とても高潔で清いヒトだッ!なんで、なんで、こんながんばるヒトにこういう茶化しができるんだよっ!!!!!!」


モブ子「神性を書き換えていただきました」(挑発スキル)


うさこ「こいつら自己中すぎてもう喋らせたくないです!」


モブ子さんは頷いて、スイと腰を持ち上げた。

ふわりと彼女の気配が通路に移動する。すでに彼女は自分の愛刀を右手に持ち、意外なことに後ろ手に構える。


挿絵(By みてみん)


うさこさんが慌てて空いてるシートに避け通路を空けると、モブ子さんはその構えのまま黒犬へと前進する。


「古武術か」


と、その型は一瞬で切り替わり、彼女の足技が先頭の黒犬の顔にめり込んだ。


くぁwせdrftgyふじこlp!!!


その勢いはすぐ後ろの2匹にも届き、狭い客車通路で3匹の犬が折り重なりくるくると回転しながら後方ドアにぶち当たった。


くぁwせdrftgyふじこlp!!! くぁwせdrftgyふじこlp!!!


モブ子さんは視線を通路奥の黒犬たちに向けたまま凛とした声を放つ。


モブ子「お師匠さま。本来光輪を失い消えゆくこの身が、今一度闘う機会を得ました。新たな修行の地へ、必ず貴方さまをお届け致します」


そして再び後手の構えに戻る。とてもクールだ。そして凛々しい。

これがモブ子さんの本来の所作なのだ。

彼女は揺れる車内を独特の歩法で緩和し、再び黒犬たちとの距離を詰めていく。


黒犬たちはあわてて浮遊位置を立て直し、

両手に持った小剣からなにやらスキルを発動し始める。


その刀身から吹き出るように何条もの光の捕縛縄が打ち出され、

通路上のモブ子さんの四肢に纏わりつく、


しかしその絡まる寸前、

モブ子さんの剣技がその光をきれいに弾いた。


見事だ!オレは彼女の対処能力に熱くなる。


モブ子さんは、前世界での修練が作り上げた彼女の地力を、新しい神性に乗せ発動できているということだ。

がんばれ!がんばれ!


モブ子さんは慎重に前進し、更に黒犬たちの光の束を削っていく、


しかし黒犬たちはニヤニヤと待ち構え、

優勢にあるモブ子さんがわずかにふらついた。


これは列車の揺れではない…なにかの介入による遅延だ。

するとモブ子さんのスキルゲージが突然止まり、

彼女の体からパーティクルが発生し始めた!


モブ子さんも自分の異常に気づいて攻撃を受け流し、一度距離を取る。


オレはその事態を理解した。


黒犬たちは接触するたび上位世界側から悪質な【神の手】で介入し、

彼女という概念のデータを徐々に削り取るつもりだ!


モブ子「くぅ」


モブ子さんは悔しげにかくんと膝をついた。


再び第1チャクラの回転をあげる時間稼ぎだ。

その様を見て黒犬たちは大喜びのようで、夜明けにはメカクレが黒犬のベッドで横に寝てるなどと言っている。


……なんだと!(いかんつい字幕を読んでしまった)


だが黒犬たちは、後方のオレやうさこさんを甘く見ているのだ。

オレは自分にも儀式の効果があることに気づいてる。しかもそれはモブ子さんと繋がった特殊な恩恵のようだ。


「うさこさん、これを見て」


オレは目の前にある空間UIを彼女に向けて開く。

意味不明だった文字列はすでに綺麗に読めるようになっている。

そして、オレに関する更新データの記述が数列ある。


うさこ「えっ!師匠くんなんでこんなに神気あるんですかっ!?なんでウチが知らないスキル追加されてるんですかっ!?」


「デッキブラシ借りるよ!」


言うが早いかオレはブラシを掴みモブ子さんに合図しつつ、彼女を飛び越えて先頭の黒犬のアゴを砕く。

次いでそのままモブ子さんの盾になる。


くぁwせdrftgyふじこlp!!!


オレは黒犬たちの怒声を無視し、少女の回復時間を稼ぐ。

口を開くたび傲慢で【チート干渉】上等のヴィランたちへの躾を打ち切るのだ。


せめて、創造主たちの世界への思い、そこに住まう者たちの未来を断ち切ったお前たちは、

これからオレの一番弟子さんの成長の糧となるんだ…。


モブ子「師匠さまっ!先程の儀式にまさか、まさか、このような伏線が!」


「助太刀だ。キミが最後にとどめ刺すんだ!それが出来るよう、今からオレが黒犬の上位世界リンクを斬る!」


モブ子「はっ、はいっ……!」(師匠くんが師匠すぎてとてもクールでいられないのに毅然とした所作が信条)


うさこ「ぐはぁッ!なんというカッコいいお二人なのですか!?この乙女ゲーいったいどこで売ってるんですか!?」


練気しながら回復するモブ子さんと、吐血しながら回転するうさこさんを確認すると、

オレはデッキブラシに、自分に蓄積された神気を注ぎ込む。


「暴発させるな、事故に気をつけろ、言いまくってたよね」


うさこ「そっ、そういう意味ではッもっと殿方の機能的なッ」(回転を止めて)


「う〜ん、それもそうだけど、この蓄積された【神気】はそのガマンのおかげじゃないかな?」


そのセリフにデッキブラシが反応したのか、オレを急かすように帯電エフェクトを放出しだす。


オレはそのまま黒犬たちへと駆け抜け、彼らと重なる魂の緒であるリンクを一気に切り離す!

神気が注ぎ込まれたデッキブラシが神鳴りを発し、轟と唸りをあげる!


挿絵(By みてみん)


とても掃除道具と思えない、落雷の音と目も眩む神気、それが車両内を支配し、黒犬たちのオーラを消滅させる。


我がスキル【干渉切断】!!!


オレはどうやらこの世界に偶然飛ばされたわけでもなさそうだ。


上位世界の悪質な存在たちが送り込んでくる性能のおかしな連中、

そのチート干渉を断ち切るスキルがいつのまにか追加されている。


これはいったい誰の意志なのだろう。(少なくとも上位のオレではない気がする)


黒犬たちはパニックを起こし、ふいに緩慢になる。

上位世界の見えないリンクがすべて絶たれたのだ。急ぎUIで干渉ブロックを確認すると、


オレは背後のモブ子さんに一礼し、場を譲る。


モブ子「鮮やかな捌きに目を見張るばかりでした……私、震えが止まらないのですが、どうすればよいのですかっ!」


取り残された黒犬たちはペルソナの自律制御にあり、なんとか逃げようとするが、わが一番弟子さんはそれを許すわけがない。

いま、オレの前に数歩進んだモブ子さんの後ろ手が僅かに動く、


一拍置いて、浮いていた黒犬一匹が床に落下した!

それが更に2回繰り返され、ヴィランたちは通路の上で沈黙した。


とても美しい、実直な彼女の初陣だった。

オレも震えていいかな。


彼女は振り返り、前髪の隙間からオレを見つめる。


モブ子「不器用で申し訳ございません」


彼女もまたオレに一礼する。

トドメを刺さなかったようだが、

これは情をかけたというわけでもなさそうである。


大興奮のうさこさんとともに黒犬どもをキリキリと縛り上げ、空席に押し込んだ。


うさこ「もうトキザカイの駅、ムダですよ黒犬の方々!恐ろしい鉄道公安官呼びました」


うさこさんの声とともに車窓から光が差し込む。


師匠くん「ここは…」


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


いつの間にか景色が変わり、荘厳で巨大な建築のトレイン・シェッドに列車が吸い込まれるように進入していた。


うさこ「ここにたどり着ければ黒犬の後続は来れない。一応安心ですが、まだ半分」


師匠くん「半分…?」


うさこ「この駅は異界の中継駅なんです。むこうのホームの急行に乗り換えて聖者の森まであと数駅あります」


師匠くん「キミたちの世界にお世話になるにしても、ここも奇妙でとても気になる」


停車した謎の列車からホームに降り立ち、ひさびさ外の空気を吸う。

巨大な構内はどうやら雲海のような景色の中にあり、多層構造の線路が吹き抜けの上層から下層まで何路線も見える。


異界は常時薄明らしく未だ夜が明ける気配はないが、幻影のような旅行者のシルエットがメイドうさぎたちの案内でホーム内を移動していて不気味さが緩和されてる気がする。

別の階層には、妙な生き物もたくさん見えてちょっとワクワクする。


うさこ「きゅっ、【ムニ世界】で休んで、修行再開したら何度も来ることになりますよ!なにしろ【異界】は修行者たちのレイドボス戦エリアの1つです!」


師匠くん「そうだったんだ!?ということは残りの駅ってボスヴィランがいる!?」


オレは現在の状況も忘れてつい大声を出してしまった。申し訳なさに傍らのモブ子さんを窺うと、クールな表情をわずかに緩ませ肩を寄せてきた。


モブ子「いったいどんな敵なのでしょうか。一番弟子としてクールでありたい私ですが、レイドボスという言葉に反応してチャクラが回り始めたようです。くぅ、つまり、師匠さまの感覚は正しいのです」


え、正しいのか。なんか掠れた声でモブ子さん別のOKモードに入ってるみたいだけど。

よかった、MMO世界のロマンが師匠と弟子で共有されているんだよね?


嬉しいよモブ子さん。

何より壊された世界のNPCだった彼女が、嫌な経験ではなく自身の修行の場として世界を認識しているということだ。


オレにとっても、そういう修行者キャラの彼女を生成した創造者たちへの思いがさらに深まる…。

ところで、うさこさんはオレたちと少し離れて別のメイドうさぎさんにペコペコお辞儀してこちらに戻ってきたぞ。(選択肢が出る)


今のは先輩なのだろうか、近くに寄ってこないところを見るといま進行に関わるキャラではないのかもしれない。(電車に間に合う選択を選んだ)


うさこ「お二人ともよき師弟関係でウチも一安心です。さあ黒犬3人を【例の監獄】送りにしてきました。先を急ぎましょう」


上位世界のチーター扇動者と接続を絶たれた黒犬たちだが、本体を失った彼らの自律性も敵意のミームも急速に失われるはずだ。


ありがとうトキザカイ管区の公安官(きっとホラー概念のキャラだよね)

オレたちはあらためてこの先の冒険に気分を切り替え、急ぎ【聖者の森】のホームへと向かう。


今度は何人も乗車するみたいで、人気があり、怖そうな雰囲気もさほど感じない。

うさこさんは乗車口に立ちこちらを手招きしている。

オレが横のモブ子さんと昇降デッキに上がろうとしたとき、ふいに後ろに気配が現れた。


挿絵(By みてみん)


◯◯「接続が間に合いましたか…。くっくっくっ、同じ号に乗り合わせるとは奇遇です」


柔和な男性の声が響いた。

振り返ると、白いペーパーハットを目深に被った白スーツ姿の紳士が豪奢なスーツケースを持ち立っている。


〇〇「おっと失礼しました。ポータルが近すぎて驚かせたようですね」


まるで顔馴染みのように声をかけてきた男、全く記憶がない。

訝しんで帽子の下の顔を覗うと、さらにオレは困惑する事になった。


以下次回、第4回につづく


挿絵(By みてみん)



いかがでしたか?


ヤトヤ渾身の展開ですが、まだこれプロローグ前半です。

本編第1章はは少しゆるいコメディで展開しつつ、ムニ世界のバトルシステムや複数の謎を追いながらモブ子さんと師匠くんが冒険し、成長していきます!


まず次回登場のヴィラン氏が気に入ってくれるとうれしいです。


今回のお話は尊敬するスタジオアラヤとピカおじ氏、さらにそのファンの先生とすべての聖者さま(クリエイター)たちに捧げます。


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おまけSS


オレはいま、自分なら出来うる手段をなぜだかわかっていた。

目覚める以前の記憶も不確かな自分だが、

オレも【上位世界】の【オレ】とリンクしているのだ。


ゆえに【異界】のレイヤーではない高次元のリンクが、3匹の犬に繋がっているのが見えていた。

それがなぜ見えるのかもわからないが、オレはそれを型月概念で把握した。


オレの手のひらがまだわずかに光を放っている。

モブ子さんのチャクラが回転を上げる光の粒子とほぼ同じ神気のエフェクトだ。

だがこれはモブ子さんからオレに送られてきたデータでもある。


つまりP2Pでオレと彼女は量子情報を転送しあっていたのだ。


これはまるでセッ…

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