【4】私が見た、『一度目』の運命。
「はぁー、お腹いっぱい!!」
(こんなに美味しい物食べたの初めてだよー!幸せっ。)
昼食後、私は与えられた部屋で幸せな気分でベッドに横になった。
ランチの後、『久しぶりのこちらの世界に気疲れしてるだろうから。』と自由時間を貰ったのだ。
(最近バイトや宿題で忙しかったからなぁ。
…昨日は全然眠れなかったし。)
すぐ横にサイラスの息遣いを感じて結局昨日はドキドキしすぎて一睡も出来なかったのだ。
幸いドレスは家族との食事だったからか、楽に脱ぎ着出来るタイプのものだった。しかもベッドはとろけるような柔らかさである。
当たり前だけど全然カビ臭くないし、この部屋だけで日本で住んでいたボロアパートくらいの広さである。アンティーク調の猫足インテリアがなんだかとても可愛いくてテンションが上がってしまう。
(起こされるまで寝ちゃおうっと。)
「おやすみなさーい。」
私はドレスを脱いで髪飾りを枕元に置くと、下着のままスヤスヤと眠りに付くのだった。
◇◇
「カミル様ー!
アイリーン様に私、噴水に突き飛ばされたんですっ。私とカミル様が仲が良いからってぇ。
婚約者だからっていくらなんでも酷すぎますっ。」
その言葉に『私』は顔を強張らせる。
「…私はそんな事をしておりません。」
――夢の中で私はサイラスではなく、『セレスタ王国』の王太子、カミル様の婚約者だった。
私は夢の中を漂いながら他人事のようにその光景を見ていた。
カミル王子は金髪にエメラルドのような緑の目を持つ美しい王子様だった。そして、その友達だと思われる3人も皆イケメンである。
インテリ系のメガネイケメン、筋肉系の騎士っぽい格好のイケメン、魔導師っぽい格好の可愛い系イケメン。
(多分この学校のカースト上位の人達なんだろうな。)
私はと言えば、日本の高校ではそんな人達の反感を買わないように細心の注意を払っていた。
たまに彼らをヨイショしつつ、運悪くグループディスカッションなどで一緒になった暁にはお菓子という貢物を差し出して平和な生活を送っていた。
そして、カミル様にしなだれかかる女生徒は、セレスタ王国のバルネス男爵家の令嬢、セリナというらしい。
(…責められてるのって私だよね?今の私と同じ顔なのに、なんだかめちゃくちゃ顔色が悪い…。)
「ねえ、素直に言えば良いんじゃないのか?僕の気を引きたくてやったって。それなら少しは可愛げがあるのに。」
そう言ってカミル王子は『私』を憐れむような顔を見せる。
(え、『僕の気を引こうとしたんだろ?』とかちょっとウケるんですけど。この王子、自分に自信ありすぎじゃない?)
「でも…私はやっていないことを『やった』と言いたくありません。」
(うわー!!『私』、カースト上位の人達に嚙みついちゃったよ!…でも濡れ衣を着せられるのは確かに嫌だよね。この世界にスマホみたいな道具はないのかな?
…でも『私』、一応この王子の婚約者なんだよね?なんでこんなに嫌われてんの?)
すると、周りのイケメン達も一斉に夢の中の私を責め立てる。
「だからカミル様のお心が離れるんだ。」
「成績しか取り柄のない可愛くない女めっ。」
(…この人達顔はいいけどサイテーだな。)
するとカーンカーンと、鐘の音が鳴る。
「ちっ。次の授業が迫っているから行こう。」
そう言って彼らは行ってしまった。
『私』は取り残されて、死にそうな顔でギュッとドレスがシワになるくらい握りしめていた。
するとドクンっと心臓が揺れて、何故か、『私』の胸の痛みが私にまで伝わってきた。
『どうして誰も信じてくれないの?声を上げるたびに、自分が惨めになる…。』と心の中で叫んでいる。
――私が『私』に同情した瞬間、場面が切り替わった。
どこかの美しい城のホールに大勢の貴族や王族達が集まっている。
カミル王子は『私』が綺麗にドレスアップしているのにも関わらず、褒めもせず無表情で私の事をエスコートしていた。
すると、貴族達がひっきりなしに『私』の事を褒め称える。
「おお、アイリーン様!アイリーン様が我が国の慰問の際援助してくださった食糧のお陰で、被災地でかなりの助けになりました。本当にありがとうございます。」
「アイリーン様の作ってくださった教育施設のお陰で…」
「アイリーン様!!」
どうやら学校とは異なり『私』は貴族達にかなり慕われている様子である。
そして、カミル王子はその様子を面白くなさそうに見ている。
すると、向こうから誰かがやってきた。
(サイラスだ!!)
「アイリーン王女っ!」
「サイラス様。お久しぶりです。」
サイラスは『私』に会うなりハグをし、蕩けるように見つめてくる。そんな彼に対し、『私』はどこか一線を置いているようだ。
すると、カミル王子は何故か敵意を剥き出しにして怒り出した。
「…サイラス王子。人の婚約者に触れないで貰えるかな。」
(あれ、この人、どうしてサイラスにこんなに怒っているんだろう。『私』に対して酷い態度なのに。
…もしかして。
『私』が優秀でプライドをへし折られた腹いせにセリナって子と浮気したとかじゃないよね…?)
「ふふっ。そうですね。今は”まだ”婚約者でしたよね?申し訳ない。」
サイラスはそう言った後、声を顰めてこう言った。
「…貴方がアイリーン王女を蔑ろにして、男爵令嬢と懇意にしているとアステリアにまで聞こえてきていますけどね。
ほら、『星の祝福』で色んな国からセレスタには留学生が訪れているでしょう。そこを経由して…ね?」
「…なっ!」
カミル王子の顔が真っ赤に染まる。
『私』はなんと答えて良いか分からないような顔で戸惑っている。
サイラスはそっとカミル王子にバレないように『私』に何か紙を渡した。
『私』はそれを慌てて手の中に隠す。
「…もう挨拶は終わったから、僕は部屋に戻るっ。」
気を悪くしたのかカミル王子は居なくなってしまった。
――渡された紙にはこう書いてあった。
『30分後に庭園にバレないように来てほしい。』
かなり迷った挙句、『私』が庭園に向かうとサイラスが待っていた。
「アイリーン、良かった!来てくれて!!」
そう言ってサイラスが目を輝かせる。
「…ねえ。どうして私を呼んだの?」
二人は先程と違って打ち解けた話し方をしている。元々友人だったのかもしれない。
「――君がセレスタで嫌な思いをしていないか心配で。」
サイラスの言葉に『私』がビクリと肩を揺らす。
「…ねえ。僕はカミル王子と君が幸せになってくれると思って見守っていたんだ。でも、もしカミル王子が君を大事にしてくれないのなら…。」
――その言葉を『私』が遮る。
「それは無理よ。セレスタとクロノスは友好国だし、セレスタの魔石の関税がもし上がってしまったら、我が国が…。」
「――アステリアがなんとかするから。それに、クロノスの小麦が入ってこなくなったらセレスタだって困るのに。どうして君にこんな仕打ちを…。」
サイラスはふぅっと溜息を吐くと、銀の美しい意匠に青い石が散りばめられた髪飾りを取り出した。
(あれって!!私が今日のランチで身につけていた髪飾りだよね?!)
「――君に貰って欲しい。大好きな君に。」
その言葉に『私』は目を見開く。
「…っ、無理よ。貴方の髪と瞳の色じゃない!身に付けたらなんて言われるか…。」
すると遮るようにサイラスが言う。
「付けなくてもいい。お守りとして、ずっと肌身離さず持っていてくれればいいから。」
そう言われて、『私』は泣きそうな顔で髪飾りを受け取った。
「…サイラスっ、私っ、」
「――受け取ってくれてありがとう。何かあったら絶対に力になるから。」
そう言ってサイラスが『私』の額に触れると、『私』はいつの間にかお城の中に転移していた。
――そして、また場面が変わった。
『私』はセレスタで牢に閉じ込められているらしい。
(ど、どうして?!)
本来であれば他国の王女にこんなこと出来るはずがない。
どうやら、学園のパーティーでセレスタの王と王妃がいない間を見計らって『セリナを虐めた』という濡れ衣で牢屋に入れられたらしい。
婚約者のカミル王子は牢屋で私を反省させた後、クロノスに送り返すつもりだったらしい。
仕方なく私は『それで気が済んで国に帰れるのなら』と牢に大人しく入ったようだ。
――すると、深くマントのフードを被った誰かが牢屋に訪れた。
「…誰?」
『私』が驚いた顔で目を見開くとその人物がフードを脱いだ。――その正体はセリナだった。
「うふふ、貴女、悪役王女のくせに全然私の事を虐めて来ないし、ムカつくのよね。せっかく攻略したカミル王子も何故か貴女に気がありそうだし。
シナリオでは貴女は牢に閉じ込められて、クロノスに帰される時に事故死するだけだけど…。そんなのつまんないわ。
だから“本当の地獄”を味わわせてあげるの。
何人か街で声をかけた男達にお金を渡して今夜貴女の初めてをここで奪うように言っておいたわ。
王女様が街の男たちに犯されるなんて、想像しただけでゾクゾクするでしょう?
牢番にもお金を渡しておいたから。」
その言葉に『私』は恐怖でガクガクと震える。
「う、嘘よね?…ど、どうしてこんなこと…。」
すると、セリナはニイッと笑う。
「さあ、嘘だといいわね。」
真偽を測りかねて『私』が牢で震えていたら、30分もしないうちに本当に男達が牢の目の前までやって来た。
「へっへっへ。王女様だってよ。」
「めっちゃ美人じゃねえか!」
「これで金まで貰えるなんてツイてるぜ!」
『私』は絶望して叫ぶ。
「誰かっ!誰か助けて!!」
だが、無情にもドアは開けられてしまった。
『私』は襲われる前に、隠し持っていた短剣を自らの胸に突き立て、クロノス王家に伝わる魔力を解放した。
――その瞬間、私と夢の中の『私』の感覚が融合した。
(…痛い!熱いっ!!し、死んじゃう!!)
「……アイリーン!」
意識が闇に沈む直前。確かに、サイラスの声が聞こえた気がした。
――その日、私の命と引き換えに、時が6歳のときにもどった。




