ヒトトセの街
【ヒトトセ】
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この小説はフィクションです。
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『ここはどこ…?』
晴れない霧に曇りの空、朝露が付く葉…
突然目が覚めたイザナはこの世界を何も理解できていないが、
一つ理解できた事があった。
『亡霊の森……?』
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そう、亡霊の森とは「未練を残したまま死んでいった者の留置所」。
成仏するまでを何もない虚空で暮らす場所。
イザナはたまたま生前に聞いた事があった。
僕はそんなもの信じてないけど、事実だから信じるしかない。
『それとも…夢なの?』
『…夢じゃなかったら死んだって事?』
『死ぬ前のことはほとんど思い出せない…』
『それこそ、この亡霊の森という言葉の記憶くらいしか』
『自分はなんでこんな事になったの?生前のことすらほとんどわかんないよ』
『お願いだから誰かいない…?』
そう呟いてもここには何もない。誰もいない。この場所はただ不規則に並ぶ木々と霧に覆われた場所。
誰もいないし記憶もない、ここはほんとになんなの?
しかも体は球体関節人形のような感じで…しっぽもある?
なぜだろう、身体も変化していて理解ができないのに僕は何故かここが
わかるような気がする。
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この森に来て数ヶ月が経過した。少しずつ僕は受け入れている。
でも慣れないな。いつになったら僕はここから出て成仏できるのかな。
心では分かった気がしているけど、僕の奥底の感情では
理解より諦めの方が強い気がした。
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この森に来てから数年が経過した。
もう諦めの境地に達している。
一番仲が良かった亡霊の友達はこの前成仏してしまった。
永遠という時間を贖罪するの?誰のため?
生前の記憶がないのに 僕が何かをしたの?
考えたらダメ。だから気が狂うんだ。
考えるな。考えるな。考えるな。考えるな。
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この森に来てからかなりの時間が経過した。
あれはどれくらい前の出来事だったかな.
もう友達を作るのはやめたよ、何年前に決めたんだっけ?
どうせ友達は成仏するか、どこかに行ってしまうから…
毎日毎日毎日同じ事をして記憶がないまま揺蕩っている…
でも、その日だけは違った。
『……!!』
森の中に異質な街が広がっている。
そこは暖かな香りがし、人の気配があり、
まるで楽園だと僕は思った。
看板には「ヒトトセの街」と書かれている。
限界の境地に達した結果の幻覚か?それともただの夢か?
それか…
神様が与えてくれた救い…と捉えてもいいのか?
どうせ無限に続くなら、夢や幻覚だとしてもいいか…休もう…
そのまま、僕は街へ足を運んだ。
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入ってすぐに出会ったのはフードのような物を被り
ヤギの角が付いている人間…?だった。
『あの、あなたは…?』
いや、よく見たらこの人には口がない。
どうするんだろう…と思った瞬間
その人はすらすらと字を書いた。
【僕はレイジと言います。この街の案内役です。】
『筆談なんですね。よ、よろしくお願いします…レイジさん
僕はイザナです。』
【はい、このノートとペンはお気に入りで…前から使ってる僕の大事な物なんです。】
『そうなんですね…』
【あ、よろしくお願いします。この街は初めてですよね】
『多分…?』
【ここはヒトトセの街、かつて楽園と呼ばれていた亡霊の憩いの場です。
あそこに丸くて白い床がありますよね、あれが広場です。
その奥には街があり、あそこが僕たちの住む場所なんです。】
『へぇ…すごい』
そのままイザナとレイジは街の方へ足を運んだ。
『そろそろお腹が減ってきた…食べ物ってどうするんですか?』
【あぁ…食べ物はですね、】
レイジは何かをつぶやき、他の住人へ近づいた。
その瞬間…
イザナは一瞬理解を拒むような情景を見た。
体をつんざく寒気にこの一瞬で僕以外の誰かの視界が暗闇になった事。
『…これがこの世界の掟……』
【どうかしましたか?】
『あ、あぁごめん…なんでもない。』
『ちなみにこの世界に王とか…いたりするんですか?』
【そうですね…僕たちは辿り着けないような領域ですが
フィリムという名前の王様が存在するそうです。】
『…少し建物の影の方に行かない?』
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【どうしたんですか?こんな所まで来て…】
イザナは小さな声で話した。
『そのフィルム?フィリムだっけ…って人、おかしいと思う。』
【なっ…反逆者ですか?】
【容赦しませんよ!そんな事を言うなら!】
レイジは様子が豹変し、拳を握りしめた。
『ま、待って…』
『よく考えてみてよ、あんな風な世界なのに誰も文句を言わずに
戦いあってる世界なんか…』
『それに、僕たちは生前の記憶がないのもおかしい』
迷いながらもレイジは文字を綴った。
【……確かにそうかもしれません…】
『その、よかったら』
『フィリムという奴を倒しに行かない…?』
迷いながらも、レイジはノートに字を書いた。
【わかりました。協力しましょう。】
その時、奥から大きな何かの姿が見えた。
『聞かれてた…!?』
レイジはだらんとした表情でそれを見つめている。
『し、しってるんですか?』
【まあ…この人はそうですね…】
よく見たらにこにことした表情でツインテールのかわいい姿をしている。
【よくこの街を放浪している人で…】
【天真爛漫な性格をしているソラと言うそうです。】
『よかった…とりあえずは一安心。』
『この子も口がないけど…』
【ええ、この子は基本ジェスチャーで行動を示してるんです。】
【一応言語もわかるので安心してください】
「みんな筆談でいいのに」とイザナは思ったがグッと堪えた。
(きらきらとしたジェスチャー)
『あ…君がソラ?よろしく…』
【何があったのか知りたそうですね】
『実は…えーっと…
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(びっくりとしたジェスチャー)
『そりゃ驚くよね。』
『君は…着いていく?この旅に』
(首を縦に振っている)
『…!よかった、もし王に密告するとかだったら僕たち終わりだったよ。』
『それじゃあ行こうか。』
イザナはレイジ、ソラと共にいろんな建物を周り、
食べ物や水を集めた。狭いようで広い街にはいろんな区間がある…
『いやあ…安心したよ、一応普通の食べ物もこの世界にはあるんだね』
【基本はあれですがたまに普通のも食べますよ】
【この辺りは崇拝者の場所とも言われる建物です】
【フィリム王をとにかく信じている使徒が多いですね。まあ僕も前、いや…さっきまで似たような物でしたが…】
そのまま三人は少し歩き、さらにすごい使徒の集まりの建物を見つけ、窓を覗く…
イザナ、ソラは見た途端驚いた。とても閉鎖的な空間で
風の靡く音さえ爆発音に聞こえるほど静かで小気味が悪い人の集まりに。
『うわぁ…すごいね…』
【特に過激な崇拝者が多いですからねここは】
(怖がっているジェスチャー)
三人は急いでそこから離れ、草むらに行き
出発する最後の確認をした。
『みんな、水筒とバック、あと食べ物は持った?』
二人はすぐに頷き、壮大な旅が始まる予感がする。
『それじゃあ行こうか!』
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【にしてもどこに行くんですか?】
『それが…僕も決まってないんだよね』
(びっくりしているジェスチャー)
『まあ、とりあえずあそこに行く?』
イザナは指を指して森の方を見た。
【ただの森じゃないですか、あんなの全方向にありますよ】
(落胆した姿)
『いやいや、さっき準備している時に気づいたんだよね
木々の隙間を見てみたら森の奥が丘になってた事に!』
【それは本当ですか?】
『うん、僕の記憶が正しかったら』
(きらきらとした姿)
【いや、でも一回確認とか…】
『それじゃあ早速あっちに行こうか!』
【ええ…】
イザナは森の隙間を最初に掻い潜り、レイジもそれに続く。
ソラは身体が大きいからか少しふらつくがなんとか渡った。
木の幹の枝が刺さりそうだがなんとか駆け抜けて…
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『意外と早かったね…』
【そうですね、しかもここはポカポカしていていい雰囲気です】
(にこにことしたポーズ)
『日も全然沈んでないし…』
(理解していないジェスチャー)
【日ってなんですか?】
『え、ここには日がないの?』
『それじゃいつになったら寝るのさ』
【寝るって、まあ眠くなったらですが】
(大きく頷く)
『なるほどね…』
【イザナさんはなぜそんな事が分かるんですか?】
『多分だけど、死ぬ前の記憶がほんのちょっとあるから…?』
レイジははっとした表情をした
【…そういえば僕たちって、基本死ぬ前やここに来る前の記憶がないですね、】
(同意している)
『ソラも例外じゃないんだ…』
『それじゃあ僕だけ気づいたって事?』
【多分そうですね.】
【でも、そんなイザナさんに最初に会えたのはよかったです!】
『でもなんでだろう…?』
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『うーん、十分くらい話したけど結局よくわかんないなぁ』
【そうですね…この世界がよくわからなくなってきました】
『あれ、そういえばソラは?』
【ソラはあっちの草原で走り回ってますね】
『さすが自由人…』
【あ、戻ってきましたよ。】
(息を切らしている)
『めっちゃ疲れてる…』
【これだからソラは…水飲みますか?】
(高く頷く)
『僕たちも話してたら疲れたね…』
【そうですね、そろそろ寝ますか?】
『ぽかぽかしてるし、ちょうどよさそう』
(嬉しいポーズ)
『ソラも眠たかったんだね』
【それじゃ、寝ましょうか】
レイジはノートと鉛筆をバックの中にゆっくりと入れ、
木の葉を集めて簡易的な布団にした。
イザナはそれを見て同じく木の葉を収集して寝転ぶ。
レイジ、ソラはいつもの情景と日常だからこそすぐに眠りにつけたが、
イザナはこれからの事が不安であまり眠れなかった。
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『…?』
『知らない人が僕を見てる…?』
レイジは呆れたような顔でノートに字を書いた。
【イザナさん、忘れたんですか?…はぁ、ここはヒトトセの街で僕はレイジです。】
『あ…そうだった…』
『ごめん、ちょっと昨日いろいろありすぎて…』
(ソラの笑う表情)
【それじゃあ行きますか?】
『そうだね、行こう』
(わくわくとした表情)
三人は荷物を持ち、どこに行くかを会話している。
『この後はどうする?』
【そうですね…あっちの方に森があるのでそこを目指しますか?】
(首を縦に振るポーズ)
『ソラもそう言ってるし、僕も賛成。』
三人はすぐに行き先を決め、歩きながら雑談をするそうだ。
『この辺りは本当に他の亡霊がいないね』
【そうですね、本来なら行けないような場所なので…】
(疑問がありそうな表情)
『ソラどうしたの?』
【じゃんけんってグーチョキパー以外に
もっといい組み合わせあるだろ…とかですか?】
『もしそれで合ってたらビックリだよ』
(頷く)
『え、合ってる?レイジ心でも読めるの?』
【えへへ、僕は前からソラの事を見てましたから…】
『なるほど…にしてもだよ!?』
(笑ってる表情)
『ソラ…自分の話なのに笑ってる…』
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(疲れている様子)
『疲れたね、もう三十分は歩いたんじゃ…』
【そういえば昨日から思ってたんですが.】
『どうしたの?』
【その「サンジュプン」ってなんですか?】
(同じく疑問に思う様子)
あぁ…そういえばこの世界には時間の概念がないんだった.
『なんでもないよ、気にしないで!』
【そうですか…それならよかったんですが】
数分後
(気まずそうな表情)
『…』
【あ、えーっと…】
【そういえば旅に出る前に知った話なんですが】
『なになに?教えて!』
(期待に溢れている)
【そ、そんな期待しなくても】
【えーっと、それじゃあ話しますね】
【これはこの前僕が本を読んでた時に見た事なんですが
力の従順という物がこの世界にある事を知りまして…】
『力の従順…』
【それで、その力の従順というものは亡霊世界でのみ使える
強力な力らしくて…その代償に記憶を失う…みたいな話を聞いた事があるんです】
【まあ、これで伝えたいって事も特にないんですが…えーっと…その、】
【とてもロマンチックで…良いですよね】
(興味あふれる表情)
『…それって亡霊世界で有名な言葉じゃないの?』
【え、そうなんですか?】
『あー…もしかしたら僕が記憶を持ってるからかも』
【なるほど、それじゃあ僕たちも使えるんですかね?】
ソラは何かを伝えたそうにしている。
【一回みんなで念じてみたら使えるんじゃないか、って事ですか?】
(頷く)
『だからなんでわかるの??』
『まあ、悪くはないアイデアかも…』
【一度みんなで念じてみましょうよ!】
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『無理だったね。』
【はい。】
(頷く)
『理由…もしかしてこの世界で記憶が無くなるように力も奪われているとか?』
【確かに、そうかもしれませんね】
『力を取り戻すためにも頑張らないと!』
(大きく頷く)
『頷いてばっかりだねソラ』
【ジェスチャーやポーズでできる限界が頷くだけの可能性もありますよ】
『確かに…』
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『いろいろと話してる内にそろそろ着きそうだよ』
(疑問がありそうな様子)
【どうしたんですか?ソラ】
『レイジ、これは理解できないんだ…いや、さっきのがおかしかっただけか。』
(身振り手振りで説明する)
『…下の地面を見ろって事?』
(とても元気に頷く)
『…!?』
【下の地面が凄く腐ってますね】
『まるでゾンビとかいそうな……』
(指を指す)
『な、なんかいる!』
【あれはなんでしょう…何かが動いてる…?】
『ゾンビみたいな見た目…予想が的中した…?』
(怖がっている様子)
『…倒すしかない?』
【僕から行きます…】
(それに合わせてソラは付いていく)
ゾンビに見えた物は生きている気配がなく、ただの
ロボットのようだった。レイジはそこにあった木の棒を
振りかざしており、僕は怖くて目を瞑ってしまった。
だけど叫び声も何も聞こえなかった。
血も何も出ずにただ倒れていく。
『なんだ…よかった…』
僕も戦いに参加した。
木の棒を振りかざした途端に僕は何か気づいた
『記憶…?』
切った途端に何かの記憶の破片が見えたような気がした、これは何だ…?
考えてるうちに、ゾンビのような物は追いかけてきた。
【イザナさん、モタモタしてないで早く行きますよ!】
レイジは急いでノートに文を書き、手を差し伸べられる
『わ、わかった!急ごう…』
『う…あと少しだけど……手が届かない…』
レイジに文章を書く隙も与えてくれずにゾンビ達は二人の間を狙いイザナを囲む。
『ど、どうしよう…』
『バックはあっちに置いてきたから攻撃手段もない…』
レイジは必死に手を差し伸べるが、あと数センチだけ足りない。
その時レイジは…
『!?』
レイジは愛用をしていて大事と聞いていたはずのノートを手に持ち、
「これをつかんで」と言わんばかりに引っ張る。
『え、でも…それは大事なノートじゃ…』
そっか、レイジは筆談だから今は話せないんだ
レイジがそうしようと言ったから…行くしかない!
⿻ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⿻
ノートには傷が付いてボロボロになったが、なんとかイザナ達は
助かった…そしてイザナは一つ疑問に思った。
『ありがとう、でも…
なんでノートを使ったの?他のものがあるかもしれないし、
それにレイジの大事なノートだから傷つけたくない
怪我したとしても僕は頑張って行けるかもしれないから…』
【はい、ですが大事なノートでしたが…
物より仲間の方が大事だと思って、】
【バックはあっちに皆で置いて戦いに行きましたし、
木の枝は耐久性が低い。】
『なるほど…でも本当にありがとう、自分の大事な物を犠牲にしてまで
人を助けるなんか僕には到底無理だと思うな…』
『レイジは本当にすごいよ…!』
【ありがとうございます。】
レイジは少し照れ臭そうな表情をした
『それじゃあバックを取りに戻ろうか、』
【そうですね、】
二人はバックを取りに戻り、帰り道で談笑をしている。
『って事があってさ〜』
【面白い話ですね】
『でしょ?』
『あれ、そういえばソラはどこに行ったの?』
【イザナさん、流石に仲間の居場所を忘れるって…】
【ソラは勿論…ソラは…あれ?】
【ソラ…どこ行ったんですか!?】
『レイジも忘れてるじゃん…』
『って待って、それよりソラが居ないの?!』
⿻ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⿻
イザナ達は数分間、ソラを探したが…
『ソラ、どこ?いるなら返事して!』
『あ…そういえばここの住人って喋れないんだった…』
【ソラさん、本当に見つかりませんね…】
『大丈夫かな、ソラ…』
その時、何かを叩く音が聞こえた。
『…もしかしてソラ?』
【そうかもしれません、】
『行くしかないね』
【それにしても音の方向…あまりわからなかったし、どこに行けば?】
『こっちの方にも居ないし…向かい側は…』
『あ、あっちの方にソラの影が!』
【良かったです…】
『すぐに走って向かおう』
イザナはバックを急いで肩に掛け、レイジを引っ張り
そのまま腐った草原から森までを駆け抜けていく。
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『いた!ソラだ!』
(もがいている様子)
『ソラ、大丈夫!?』
【急ぎましょう】
『ソラの周りにアリみたいなのが…しかも大量に…』
『囲まれてる…』
ソラにアリのような物が襲いかかっており、ソラは必死にアリを退けているが
増える一方である。
『た、戦って助けないと!』
イザナは木の棒をさっきのように拾い、倒そうとするがレイジに腕を掴まれ…
『え…?』
レイジは腕を引っ張って安全な場所に戻した後、何かを考えている。
『レイジ、どうしたの?早く助けないと!』
そのままレイジは何も言わずに少し考え、
ハッとした様子になると
カバンを思い切り向こうに投げた後に少し手を頭に当て考えており、
カバンの所へすぐさま行き「イザナはここで待ってて」と言わんばかりのスピードだった。
そして、その先でレイジはなぜか走り回った。
『レイジ?ちょっと!』
(向こうで理解ができない様子をしている)
『ソラも多分わかってないっぽい…?見えにくいけど』
『あ…』
『アリがバックに向かって方向を変えた?』
そのままレイジはバックを持って二人の所に行き、安全な場所まで引っ張っていった。
⿻ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⿻
『な、なんとか助かった…』
(疑問を持っている様子)
『うん、僕とソラも思ったけど』
『さっきの、どういう事…?』
【無茶な事をしてしまいましたが、これには訳があって…】
『わけ?』
【この状況、さっきのイザナさんと似てると思ったんですよ】
【その時はノートを犠牲にして助けましたが…】
【でも、僕あそこで振り返ってみたら気づいたんです】
【二人で逃げた時に別の方向に向かい始めた事】
『それって、ソラがいる所?』
【いいえ、風が強く吹いている方向です。】
【風が強く吹いている方向なんて…普通敵だとしても行かないと僕は考えて、なぜかがわかったんです】
【この世界の敵のようなものは姿より匂いよりも「音」に群がってると】
『音…』
【そう、音です】
【だから僕はカバンを投げてアリをそっちの方向に寄せつけたんです】
『なるほど…』
『レイジは本当に頭がいいね』
【えへへ…褒めても何も出ませんよ?】
(怒ってる様子)
『僕たちだけで話しててごめんごめん〜』
『それじゃあ行こうか、ソラとレイジ。』
(喜んでいる様子)
⿻ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⿻
『アリがさっきまで居たところはもう何にもないね…レイジの言ってた通りだ』
『というか、また森…進むの大変だ〜』
【というか、このまま先に進んでいいんでしょうか…?】
(同じように怖がっている)
『確かに、森が何回も続いてるから不安だよね』
『そういえば、ノートは一応書けてるみたいだけど…他のページとか大丈夫?』
【はい、ギリギリ傷が付いてない数ページでなんとか持ちこたえてます…】
『それ大丈夫じゃないでしょ』
(笑っている)
『ソラ、笑い事じゃないって』
『でも……森しかないから』
……
『進むしかないね。』
………なんだか変な気分だ、僕ことイザナはなぜか記憶があるままここに来て…
断片的な記憶をあのゾンビみたいな奴で思い出したりとか
本当にここで進んで大丈夫なんだろうか…?
二人に迷惑を掛けたくないから今まで和やかに話していたけど。
『……』
【イザナさん、大丈夫ですか?】
『いや、なんでも… 僕のことなんかにページなんか使わなくていいから。』
レイジは静かになったけど…今ついキツイ話し方になっちゃったな…
『ご、ごめんね!行こう!』
レイジ、ソラと手を繋いで先に行こうとしたが、その瞬間に
ソラの隣に何者かの影が来て、そのままソラをとても早い速度で連れ去った。
『ソ、ソラ!?』
レイジは追いかけようとしたが、こちらに戻ってきて
静かに僕の顔を見ている
『さ、さっきのはごめ……
【良いんですよ。】
少し食い気味に、用意してきたかばかりにペンで書いたページを見せてきた。
『あ…』
レイジには口がないはずなのに、なぜかニコッと笑っている気がした。
『ソラは…どうしよう、』
『……僕は追いかけるよ、レイジは…』
【僕も…頑張りますよ!】
『レイジはもう頑張ったんだから…』
いや、待って、ここは……
『わかった、それなら早く行かないと!』
「…!」
喜んだ表情で二人はバックを持ち、すぐさま向かった。
⿻ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⿻
『ソラ、大丈夫?』
【さすがにソラを助けるのも二回目なので大体は覚えましたよ】
『もしかしてまたバックを投げるの?』
【ご名答!】
『え、ちょっと待って知らない敵だし危
【もう投げちゃいました。】
『あー…』
【何かが倒れたような、あるいはソラが帰ってきてるような気配はないですね】
『もう向かうしかないかぁ』
【今の行動に意味がなかったんですか…はあ…】
『そんな落ち込まなくていいから、ほら行こう!』
二人は少し長い道を全力で駆け抜け、いつの間にか床もタイル状になり綺麗な泉が見え始めた。
だが綺麗なものにはやはり棘があるようで…敵の予感は的中した。
『いた、ソラと…あれは?』
【敵に見えますが…よく見たら同じ僕たちのような体格ですね】
『フィリムと何か関係がありそうかも…!』
やっと…ゴールが見えてきた!
レイジと共にソラを助けて、フィリムを討伐できるのもあと少しだ、
あれは…女性みたいな見た目をしていて…口にレース?が付いている…
片目が隠れてるのか、隠れてる方に秘密があるかも…
シスターみたいな格好をしているが、これはなにか意味がある…?
そうイザナが相手を警戒しながら考えていたら突如…
相手がレイジのノートを奪い、
『なっ、レイジのノートを取る気か!?』
そう言っても聞く耳を持たず文字を書き始めた
【私は泉の番人でありフィリム様の右腕をしているイスタと申します。】
『……なあ………!』
イスタは煽っているような表情をしながら首を傾げた。
『それはレイジの大事なものなんだ、お前に取らせてみせるか!!』
『それに…お前はソラまでどこかにやった!居場所を言え…!』
【イザナさん、レイジさん…そんなこと言うなら…容赦しませんよ。】
【フィリム様のために…二人はここで滅ぶべきです。】
イスタは透き通った氷のような見た目をしている剣を持ちながら追いかける。
『レイジ、よけて!』ギリギリで二人は避けたが、イスタの剣が
振り下ろされた途端に地面が氷に覆われ始め、イザナとレイジはそれを避ける。
『レイジ、どうしよう…?あいつ、ただの人間じゃない!』
レイジは床に手で文字を書いた。
《もしかしたら、あの宝石に何かあるかもしれません。》
『あの三つ付いてるやつ?』
《はい、よく見たらあれが心臓のように動いてるんです…》
「ということは、あれはコアのような物なのでは?」
《なるほど…でもどうやって取りに行けば…》
《…それは…うーん…》
『…仕方ない、正面突破だ!』 僕はレイジの手を引っ張りイスタの前に二人で立ちはだかる。
【あなたたち…何をす
『隙あり!』そう言いイザナはさらにイスタの近くに行く。
イザナの身体能力は上がりだし、イスタに付いている宝石を早速一つ取りに行った。
『書くのが遅いね、イスタさん。』イスタはノートで何かを伝えたそうにしているが
「また奪われる」と思い、書くことができない。
イスタは怒ったような様子を見せ、剣を振りレイジに当てようとする。
『レイジ…また来る、避けて!!』
レイジは足をくじいて、痛そうにしている。『レイジ?大丈夫?』
そんな会話をしている中、「会話する暇なんか持たせるものか」と言わんばかりに
またイスタは剣を振りかざし、レイジにまた攻撃する。
『だ、ダメだ…このままじゃレイジが…!』
…!! 何かがレイジとイスタの間に入り込む。
『…ソラ!?』 ソラは息を切らしながら走ってきて、すぐさまレイジを守った。
『…ソラ、そこだと危な…
そう言いかけた時、ソラは上手に守りながら攻撃を避け、
ほとんど傷が付かずに済んだ。
ソラ、いつの間にそんな俊敏な動きができるように……
『二人とも、急いで宝石を取って逃げよう!』
イザナが先頭に行き、二人を引っ張る。レイジが宝石を取り
「こうするんだ」と動きで伝え、ソラもそれに応じる形で
急いで宝石をイスタから奪った。
⿻ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⿻
『逃げ切れてよかった…』
『ソラ、本当にありがとう。』
(喜んでいる様子)
レイジは地面に文字を書いた。
《よく見てください、イスタが何かもがいている様子です。》
『本当だ…!それに、やっと倒れた……』
『よかった!それじゃあ進もう!』
『そう言えばソラ、イスタにやられて捕まったんじゃないの?』
(首を横に振る)
(指を指す)
イザナはソラが指した方向を見た。
『あの少し見えてるお城…?』
(首を縦に振る)
《あそこに真犯人が居るということですかね?》
『ということは、あのお城がフィリムの場所なんだ!』
『それじゃあ早速出発…する前に、作戦会議をしよう。』
《そうですね》
『まず、あの宝石は多分コア…』
『だから、僕たちがあれを持てばイスタの力を僕たちも持てるんじゃない?』
《確かに、ちょうど三つありますし…
そう話していると、さっき嫌ほど見た姿が目を覚まして近づいてくる
《イザナさん!後ろ》
『え?後ろ…?』
【あれがコアなわけないじゃないですか…演技ですよ、演技。】『…!?』 イスタ…?倒れたはずじゃ!
【あなたたち二人が物陰で話していたの…見ましたから。】
【それじゃあ私は待っていますね。城の奥で…】
そのままイスタは城の方に行ってしまい、姿を消した。
《どうしましょう…》
《わナ二Jか '' たおJ/二いく》
『…!!……ソラ、字を書くことができるの?』
『文字が疎いけど、多分これは「わたしがたおしにいく」なのかな…?』
『…ソラ、それじゃあ僕も行くよ!』
《ソラさんがそう言うなら…僕も行きますよ!》
三人はイスタをまた見つけるために走り出した。
数分経ったが…
『こっちにもいない…それじゃあ次はあっちの扉だ!』
イザナは血眼になりながら息を切らし続けてイスタを探しに行く…
『なかなか居ない…どこだ?』
ソラは記憶を辿ったあと、奥の方に指を指した。
『そっち!?わかった、みんなで走るよ!』
⿻ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⿻
『はぁ…はぁ…あっちに見えてきた!』
イスタは息を切らし手を膝に当てて一瞬休むが、また走り出す。
『う…あと少しだけど…体力が…!』
レイジとソラはイスタの方へ全速力で走り、イスタの前に行った。
『なるほど…挟み撃ちしたいってことね!』
僕たちは急いでイスタを取り囲み、戦いがまた始まった。
「容赦しないよ」という様な力でいきなり剣が振られる。
『さっきより…かなり強い威力!?』
三人は驚き、それぞれ慌ててしまい別々の方向に逃げた。
『ダメだ、耳の一部が凍っちゃった…』
『う…でも合流はできそうにないな…』
イスタはさっきの戦いでは使ってこなかったような技を使い始めた。
『またあの攻撃か…とりあえず避け…
『剣の先から氷の弾を…!? まるで銃みたいに、あんなの避けられるわけが!』
『でも、二発に一回くらいしかこっちに来てない感じがするな…
とりあえず合流しないとこのままじゃ全滅だ、レイジの所へ行こう!
氷の玉を避けながら、少しずつレイジの方へ回り込んで走る。
『氷の弾、なかなか避けにくい…』
『あっ、また当たりそうに…!』
氷の弾がスレスレで当たりそうになりつつも、華麗に避けていく。
『やっとレイジの所に合流できた…』
(喜んでいる)
どうやら周りを見てなかったが実はソラも同じ考えでレイジのところに行きたかったようで、
無事に三人で同時に合流できた。
『ここからどうしよう…コアを取る手は無くなったし…
そう考えるのも束の間、イスタが三人を全速力で追いかけてくる。
『うわっ、また来てる!?』
三人で逃げつつもイスタは容赦せず、崖の方に向かって追いかけてくる。
『ここここのままだと落ちるよ!二人とも!』
(焦っている)
もうこのままだとどうせここから落ちるし、今まで僕が何してたかでも思い出そう…
確か僕は、ただの亡霊でずっと彷徨ってて…そこから不思議な街へ入ったんだ
そこで僕は確か記憶が残っていて、それはなんでかわからなくて…
うん?記憶も残ってるし、口も残ってる…?
それにここで初めて戦いを見たし……初めて…?あ…
『……いや、待てよ!』
そういうことか!
『二人とも、僕の手を掴んで!』
二人は言われるがまま手を掴み、イザナは勝負に出た。
『多分…いや、絶対に成功するって決めたから!』
イザナは崖から突然飛び降り、二人は驚く時間もないまま手を繋ぎ落ちていく。
⿻ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⿻
『痛った…くない!やっぱり、そういうことか…!』
レイジ、ソラは驚きと焦りと疑問で立ち止まっている。
『二人とも、ちゃんと僕の手掴んでくれててありがとう!』
レイジは土に文字を書いた。
《…どういうことですか!?しかも僕たち、生きてるし…》
『えへへ、僕気づいたんだよね!』
『イスタがあそこから先に追いかけることができてないって!』
『だから、多分あの崖はヒトトセの街と亡霊の森の境界線。』
『僕はなぜか口もあるし記憶も残ってるから、もしかしたら突破できるかなって!』
《でも、だとしてもそこから飛び降りるのは危険ですって!》
『実は亡霊の森でのこと最後に思い出してたら、戦った記憶がないってことに気が付いてさ!』
《なるほど…でもなんであそこだけ攻撃の力が影響するんですかね…》
《…もしかして、力の従順ですかね?》
『なるほど…フィリムが力の従順で亡霊の森にこんなのを作ったと…』
《あらためて、イザナさんありがとうございますね!》
『さっきのレイジみたいに、カッコいい救世主になれたかな…』
(疑問に持っている)
『ああ…ごめんソラ、どうしたの?』
《と''こ力らし=どろの》
『どこからもどるの…あー…』
《なんか…驚きと凄さに勝ってその辺り忘れてましたね》
『とりあえずまた歩こうか、ここだとイスタは来ないし!』
(首を縦に振ってる)
《本当にここは初めて見る場所ですね》
『そうだね、まあ僕は結構見慣れてるんだけど…』
『もう数メートル左側に行くだけで森だもんね、ここ』
(驚いている)
《境界線的な場所なんでしょうかね》
『…にしても、歩きながら土に文字書くの難しくない?』
《一回走って距離を空けてから急いで書いて見てもらう必要があるので、かなり難しいですね》
『だろうね…』
(笑っている)
《あ、早速何か見えてきましたよ》
『ボート…なのかなあれ?』
(指を指して何かを伝えたそうにしている)
『あ、ソラが指してる先に紐が付いてる』
『ボートに紐があって崖の上まであるってことは…紐を引っ張ってボートを上げる感じかな?』
《つまりこれ、正規ではない出入り口なんですかね?》
『誰かが作ったのかな…』
《乗り込んでみましょうか》
(わくわくしている)
⿻ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⿻
『それじゃ引っ張るよ』
古びた音が大きくなっている
(怖がっている)
『ガタガタ音すごいね…でも多分壊れたとしても
ここなら怪我しないよ』
『それにしても、落ちる時はわからなかったけど上から見た
森ってこんな感じなんだね…』
(キラキラとした目をしている)
『うんうん、凄くいい景色…』
レイジは肩を叩いて指を指した
『おお、もう崖についたんだね』
三人は急いで崖に上がり、
ロープから落ちてボロボロになっているボートを上から見た。
『うわ…このまま乗ってたら大変なことになってたね…』
『それじゃ二人ともイスタのところいくよ、来て!』
レイジは少し立ち止まって何かを考えようとしたが、
二人が待っているのに気づいてすぐに一緒に歩き出した。
『イスタは多分僕たちのことを探してると思うんだよね』
(同意する)
『だから後ろから不意打ちでイスタを攻撃するとかどう?』
レイジは急いでまた地面に字を書いた。
《だとしてもどう攻撃しますか?》
『うーん…隙を突いて剣を奪うとか?』
《なるほど…》
(自分に指を指す)
『ん、ソラ奪う役やりたいの?』
(首を縦に振る)
『じゃあ…僕はソラが奪った剣で凍らせるよ』
《それでは最初に囮になりますね、僕は》
『それじゃその作戦で行ってみようか!』
『三度目の正直、今度こそ倒しに行こう!』
⿻ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⿻
レイジは堂々とイスタの目の前に立ち上がり、注意を引いた…
その途端にイスタはレイジを睨みだし、イスタの手には剣が現れていた。
イスタは即座に剣を振り下ろしレイジを一生懸命攻撃するが
レイジは風のように攻撃を華麗に避けて、攻撃をかわすたびイスタは苛立ちが始まる。
そう奮闘していると、少し離れた場所からソラが急いで動き出した。レイジが注意を引きつけている間に
ソラはイスタの背後へと行く…少しイスタが隙を見せた瞬間を狙い、ソラは全力の力を出しイスタの剣を
あっという間に奪い取ってしまう。しかし、剣を取った反動でイスタは浅い傷を負ってしまい、一瞬の間に
あれだけ動いたせいか大きく体力を消耗してしまった。だとしてもソラが剣を奪えた事実はそこにあり、すぐさまその場から離れる。
剣を失い、それかつ二人の敵が別の場所にいるイスタはどう動けばいいかわからず何をすればいいかわからず動けない。
その隙をソラに続いてまた戦いに現れたのが「イザナ」だ。イザナは声を荒らげイスタに一言を話した。
『今度こそ決着をつけに来た!』
イザナはソラから剣を受け取り、手に力を込めその冷たい刃を持ち少しだけ後ろを向き短く指示を出す。
『後ろで二人は休んでて、ここは僕に任せてよ!』
そう言い終わった瞬間一気にイスタの目では追えないほど…尋常じゃない速度で走りだした。
動揺しているイスタに向かいイザナはさらに巧妙な術を使い、少しの無駄もなかった。
まるで、最初にヒトトセの街に来た時が別人だったかのように…
イザナがイスタを動揺させている時、二人は作戦に無かったがすぐさま同じことを考えだし
イスタを左右から囲み押さえ込む。イスタはもうどうすればいいか分からなくなってしまって
全力でもがいているが、それすら二人は許さない。イスタは恨みや熱を剣ひとつに込めて、
凍りつく一撃をイスタへと放った。氷の力は瞬時に広がりイスタをその場で凍り付かせる。
二人は目の前の敵が凍りついたことを確認すると手を離し、もう一人も剣を下ろした。
『これで…』
『イスタを…倒せたんだ…!』
⿻ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⿻
『はぁ…はぁ…』
イザナは疲れて言葉も出ない。
レイジは凍りついたイスタの手にあったノートを引っ張って取り出し、
ノートを取り返すことができた。
ソラはレイジの取り返したノートを興味津々で見ている。
『疲れたね…』
【そうですね、いろんなことがありました…】
(首を縦に振る)
【それにしても】
『…眠い……』
【ですよね。】
【そろそろ寝ますか?】
『その前に…お腹もすいたね。』
【一度ご飯を食べてから寝ますか】
『そういえば忘れてたね、バックにあるおにぎりのこと。』
【あ、そうでしたね…さっそく食べましょう食べましょう!】
(うきうきしている)
三人はバックから持ってきたおにぎりを取り出し、その時少し疑問が浮かんだ。
『ところで…二人とも口がないのにどうやって食べるの?』
【街に来た時、最初に食べるところ見たじゃないですか】
『最初のあれは衝撃すぎて記憶があんまりなくて…』
【あー…なぜかわからないですが口がない種でも念じればなぜか食べられるんですよね】
『何その能力!?まるで「誰かが適当に考えた」みたいな…』
(同意する)
【あはは、でも不思議ですよね】
『うんうん…』
三人はただのおにぎりだがとても美味しそうに食べている。
『美味しかった!』
【そうですね】
(にこにこしている)
【それでは…ご飯も食べましたし改めて寝ましょうか】
『そうだね、イスタも倒したしまずはみんなで寝よう』
【今日は本当いろいろなことがありましたね。】
『うんうん、イスタを倒すところまで行ったし』
『明日フィリムを倒してハッピーな終わり方にしよう!』
【そうですね】
(首を元気に縦振る)
レイジはノートを抱きしめながら草むらで眠りにつき、
ソラもレイジの近くに行き寝転ぶ。
僕も少し昨日よりかはほっとして眠れそうだが、眠る前に少し考え事が頭に浮かぶ…
『なんでだろうなぁ…』何故かモヤモヤが離れないんだ。
この短い時間でここまで来られて、それに…
本当にいろんなことがありすぎて中々鮮明に思い出せない……
でも、明日も早いから眠るしか…でもよく考えてみれば……
イザナはそのまま考えているうち眠りについた。
⿻ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⿻
[…ちょうど''百五十年前''か。]
誰かの声、三人が寝ている場所の少し遠くから聞こえたかすかな声だった。
[俺は悪くない…はず…だって……]
百五十年前、ヒトトセの街は輝いていた。
亡霊たちは過去の傷や後悔、未練から解放され穏やかな時間を過ごしていて
そんな中フィリムもまた、この世界を作った物として亡霊たちを見守っていた。
[八つ当たりの標的が俺…ってだけだったけど。]
『やあ、お前の事は他の亡霊から聞いたよ、フィリム。』
亡霊の森では力を持っている物が集まり、戦いにまみれていて…
[まだ頭からこびりついて離れないな…あの声…]
俺はただ、力を持つ人も持たない人も過ごせる世界を作りたかっただけだったのに。
「どうせ誰からも相手にされないなら最後に一矢放つ」だったかな…
そのせいで世界は…だって……
でも、あと少しで目的を果たせる。この長い長い時間、ずっと力をつけてきたのだから。
⿻ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⿻
いつもと変わらないような薄暗い空にかすかな光が差し込む時、
イザナ達は同じような時間に目を覚ました…
【イザナさん、起きましたか?】
『んー…あ、おはようレイジ』
『結構寝たはずだけど眠いなぁ…』
【まだ眠っててもよかってよかったんですよ、イザナさん】
『いや、大丈夫だよレイジ』
『あ、そういえばおにぎりの残りがまだあったんだ』
【あと二つありますね…イザナさん食べますか?】
『ソラとレイジで食べていいよ』
【それではお言葉に甘えて】
レイジは先におにぎりを食べ始め、ソラが起きるまで話をしていた。
【フィリムを倒すとこの旅が終わるんですね…】
『数日間だったけど長かったね』
【数日…?】
『あ、いや…なんでもないよ』
『それよりソラそろそろ起こす?』
【そうですね、おにぎりも食べ終えそうですし】
『ソラ起きて そろそろ戦いに出るよ』
ソラは目を覚まして、少し寝ぼけつつも起き上がった。
『おはよう、ソラ 余ってたおにぎりがあるから食べな』
寝ぼけていたが食欲には従順なのか
すぐにソラは目を輝かせ、おにぎりをイザナから貰った。
『すごい食いつきだね…』
【いつもこんなのですよ、ソラさんは…】
『それにしても…少し思ったんだけど』
【どうしましたか?】
『なんというか、いつもより世界が静かじゃない?』
【イスタと戦っている時は気づいてなかったですが…確かにこの辺りはかなり静かですね】
『僕たちこんなところまで来たんだね』
《まナニ''おれつて†よいl†と''》
『「まだおわってないけど」…まあ確かにね……』
『って、昨日に続いて今日も文字書けてるじゃん!』
【すごい…!ソラがこんな連続で文字を書けるなんて…!】
『それはそれで煽りみたいだよレイジ』
ソラは怒りそうになりつつも食欲に勝てずそのまま
おにぎりを食べながら黙っている。
『あの…ソラ?』
(首を傾げる)
『それもう食べ終わってるけど…ソラ空気にかぶりついてるよ』
ソラは少しハッとし、恥ずかしそうに座っている。
『え、えーと…それじゃそろそろ出発しよっか』
【…そうですね】
⿻ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⿻
『こ、この城の中にフィリムがいるんだね』
【イスタとの戦いの時に既に見ていましたが、まじまじと見ると迫力がすごいですね】
(怖がっている)
『だ、大丈夫…きっと成功するから』
ソラとイザナはぎゅっと手を握り、少し手に汗をかいた。
【それでは、扉を開けますよ…】
三人はゆっくりと扉を開け、忍び足で石の床を歩く…
『薄暗い雰囲気…本当に大丈夫だよね?』
【ま、まあ…ここから引き返してもどうしようもできませんから…】
(首をゆっくり縦に振る)
『うわっ!幽霊っ…!?』
【幽霊は僕たちですよイザナさん。】
(笑っている目をしている)
『あ、そっか…』
『かなり暗くなってきたね…』
【ここから先は少し暗すぎて文字が書けないので話せないかもしれないです…】
『わ、わかった…』
(怖がりつつも了承する)
『ソラも怖いよね…』
全員何かリアクションをする暇もないほど怖がりながら歩いている。
イザナは手に汗をかきながらも二人を守ろうと引っ張って前に導く。
レイジは正面をイザナに任せて、下を向きながら何かないかと目を凝らし、
イザナに導かれながら前に進んでいる。ソラはレイジのように後ろから何かが
来ないかどうかの様子を見ている…
『あ、ドアだ…しかもドアの隙間から光が出てる…』
『二人とも、多分フィリムの部屋かもしれないよ!』
三人は期待と希望を持ち、ドアを開ける。
⿻ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⿻
[………待っていたよ。]
落ち着いた男性の声がとても静かに聞こえる、だが一人も聞き逃すことはなかった。
イザナは少し疑問を持ちつつもすぐにフィリムと気づき、質問をした。
『…君がフィリム?』
[ああ、俺がフィリムだ]
[俺の城まで来たか、三人とも。]
[ここまで来たんだから何か褒美でもやろうか…]
『はあ?そんなのいらない、適当な事を言って仲間だと思わせようとしないで。』
[いや、二人にとっては良い褒美だと思うがな。]
『…それは?』
[………………………]
フィリムは何かをとても小さい声で唱え始め、二人に変化が発生した。
〈えっ…これは?〉
《な、なんですかこれ?》
少し子供に近い男性の声と、溌剌とした中性的な声がした。
『…これはどういうこと?』
[…二人に口を与えただけだが。]
『僕たちを舐めてるのか?そんなハンデなくても僕たちは戦える。』
[それじゃあ口が無くてもいいのか?]
『そ、それは…』
『だとしてもフィリムにメリットなってないはずだ!』
[…まあ、それはどうだろうな。]
『こんな話どうでもいい、戦おうみんな!』
《はい…準備はできてますよ!》
〈う、うん!〉
フィリムは三人が戦おうとする手を止める。
[別に、俺は直接戦う気はない…]
『どうせさっきの呪文みたいなので手下を呼ぶんだろ…!』
『…わかってるんだからな!』
[予想が的中した所でなんだ?]
『……』
《イザナさん、図星になってる暇はありません!》
、《もう少しでおそらく「敵が召喚される」ということですよ…!》
〈うん、じゃあ戦おう!〉
再度フィリムはレイジの予想通り呪文を唱え始める。
[…朽ちし船よ、魂の流れとなれ。]
『そんなカッコつけたような事を言ってもどうせただの敵だ、みんな急いで戦うよ!』
〈……〉
『……』
《……》
『あれ、何も起きてないよ?』
《本当ですね…》
〈そうだね〉
フィリムは少し考え、発言をした。
[…まあ、イザナ''さん''のことだからそのような手は使うとわかっていた。]
《どういうことですか?適当な事言わないでください。》
『な、なんの話だよ…? それに''さん''って…』
[…忘れたのか?]
『そ…そうだ、…レイジの言う通り、何かをわかったような適当な事言うなよ!』
《その通りです!》
《今のうちに戦いますよ、イザナさん!》
〈ソラも頑張るよ!〉
三人はすぐさま手に力を宿し、フィリムに向けて攻撃をしようとするが…
[…]
フィリムは攻撃を守ることもしようとせず、ただ座って何かを考えている。
『こ、今度はなにをする…?』
フィリムが手を動かした途端、天井の裂け目から入り込む光が一瞬にして掻き消される。
代わりに城全体が薄い紫色の不気味な霧に包まれ、耳をつんざくような音が響き、この城そのものが震える。
三人には痛みが走り出し、強力な力ですぐさま全員が瀕死になった。
『こんなの卑怯じゃないか!』
《痛い…しかも意識が朦朧とします…》
『一度逃げた方がいいかも!』
イザナは急いでソラとレイジを抱き抱え、扉から出ようとした。が…
『扉から出られなくなってる!?』
〈えっ〉
《ど、どうしましょう…》
『僕たち、このままここで…』
[成仏できるんだ、別にこうしてもいいことだろ?]
『…あ……』
そうフィリムが言った瞬間、イザナは何かを少しだけ思い出しかけた。
《な、何をする気ですか!》
⿻ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⿻
[…いいや、別に……俺はこれ以上の攻撃はしないが。]
少しの間黙り込んだあと、フィリムがひとこと呟いた。
『…え?』
《は、はい?》
『……どうせ嘘だろう、フィリム!』
イザナが剣を構えても、フィリムは微動だにせずただ冷たい瞳でイザナを見つめた。
[…ここに来た目的はなんだ?]
『お前の暴走を止めるためだ!』
イザナは強く言い放つが、その声には少し躊躇いと焦りが混じっていた。
[止める、それはどういう意味でだ?]
フィリムは動じずに、静かに返答をする。
彼の話し声が城に響くたびに空気が重くのしかかるようだった。
[お前はこの街がなぜ、どうしてこうなっているのか知っているのか?]
『そ、それは…』
《知らなくてもフィリムさんが悪人なのは事実ですよ!》
[つまり、知らないということか?]
[それとも……忘れたのか?]
冷ややかに笑いながら淡々と質問を続ける。
[…お前たちはそれが本当に正しいと思い込んでいるのか]
フィリムがそうぽつりと言うとゆっくり三人を取り囲むよう歩き始める。
レイジ、ソラは少し考えつつも、返す言葉が出ない…
『正しいかどうかは関係ない!』イザナが声を荒らげる。しかし、その叫びは
不気味な城の静けさに飲み込まれる…
[そうか…なら、あと一つだけ質問をさせてくれ。]
[イザナ、お前はこの街を''悪夢''にしたのは誰だと思う?]
『悪夢って…?』イザナの表情に困惑が浮かぶ。
[そうだ、このヒトトセの街は悪夢ではなかった。
それがどうしてこのような惨状になったと思っている?]
イザナは答えられない…曖昧で霧のかかった頭を
ひねるが、答えを掴むには霧が濃すぎた。
彼は一歩イザナに近づき、その声をさらに低くした。
[この街を地獄に変えたのは…お前だ。]
《ど、どういうことですか…?》
〈イザナ、なにをしたの?〉
『何を言っているんだ!』イザナは焦りと怒りでフィリムに詰め寄り、
イスタから奪った剣を振り上げるも、手が震えているのが分かった。
[信じたくないのか?だが…それが事実だ。]
フィリムの目には冷たさと底知れぬ怒りが宿っていた。
[…では、少し昔の話をしよう。]
⿻ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⿻
[亡霊の森。それは静かで薄気味悪く…二極化した世界だった。]
[一つは力の従順を持つ者たちの世界。
そこでは闘いが永遠に続いており、誰もが力の従順という能力を残している。]
[二つは力の従順を失った者の世界。
皆、力を使った事で記憶を失ったせいか闘いすらも起こらず、静かで何もない場所。]
[そもそも、亡霊の森という世界、力の従順という能力…それらが何かわかるか?]
[力の従順は…亡霊の世界で一度だけ使える「相手より自分の方が強ければ相手を操れる力」とでも言えばいいか。]
[亡霊の森は現世で未練を残し、なんらかの多大な悲しみがあった者達が行き着く世界だ。]
[だから…報われない者の現状がこんなものだという事実を信じられず、俺は何か救える方法がないかを探した]
[そこで、唯一自分から戦おうとせず、心の優しい友達からとある話を聞いたんだ。]
[「この世界には幻の街がある」ということをな。]
『心の優しい友達…あ……』
《イザナさん…何か知っているんですか?》
[そして、二人で旅をしてやっとその幻の街を見つけたんだ。]
[そこで「力を持つ者も持たない者も全員が救いを受けられるような街」を作ろうとした。]
[春も夏も秋も冬も、ただ楽園で過ごせるように「ヒトトセの街」と名付けたんだ]
[だが、光ある所には闇があるようで…]
[''イザナ、お前が全てをめちゃくちゃにしたんだ'']
『…だから、それは証拠がない出鱈目だと言っているだろ!』
『僕がそんなことをするはずがない!』
[信じたくなければ好きにしろ、だが事実は消えないままだ。]
《…》
〈イザナ、フィリム、どっちが本当…?〉
[お前はその時、そこで俺に命令した。]
[『この街をめちゃくちゃにしろ』と力の従順で言われたんだ。]
[どうせ、力をまだ持っていてそんな命令をしたということは…現世で何かがあった腹いせとかか?]
『……俺が…そんなことを?』
[力の従順をされた側は全てを失ったような状態になり、従うしかなくなる。]
[だがした側は記憶を全て失い、まだのうのうと裏で生きているんだ。]
『…ちがう……』
[何がだ?]
[お前が記憶を失い、ここに来るまで…百五十年間の時をただ過ごした。]
[イザナが戻ってきたとイスタから報告を受けると、復讐ができるまで秒読みであったから…]
[お前はこの街すら戦いに明け暮れた世界にしたのをずっとずっと恨んでいた。]
『な、何をする気だよ!』
[…「力の従順」を。]
『力の従順って、まさか僕をこの世界から追放するとかか?』
[…別にお前を直接攻撃するようなことはしない。]
〈何が始まるの?〉
[イザナに力の従順を発動する。「ヒトトセの街」の王となれ。]
その瞬間、フィリムの手が一瞬光りだし周りは煌めきと振動に包まれる。
『…は?』
《どういうことですか?》
『僕が…王に?』
[ああ、そうだ。お前が次の王になれと命令をした。]
[この街は全てお前の指示した事でできている。俺はずっとお前の命令を恨んできた。
昔自分自身がやった事を後悔しながら、強制的に王となり全てを司れ。]
[昔、お前が望んでいたことだろう?]
その時、フィリムが粒子のように消え、三人はフィリムが消えた世界で…
そしてイザナが王となった世界で残された三人は気まずそうに話を始める。
⿻ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⿻
《……》
〈えっと…うん…〉
レイジは当然、天真爛漫なソラでさえも複雑な感情でうつむいている。
『違う…
《…何がですか?》
いつもは温厚だったレイジが、低い声で話し出した。
《…僕たちは行きますね、イザナさん。》
『………』
三人はフィリムが消えてすぐに関係性が壊れて
イザナは静かに王座へと座る…
『思い返したら、全部の糸が繋がったね。』
そうして、イザナは人と静かな世界を経験した。
「ヒトトセの街」 終
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
どうもこんにちは、作者の音符菜ちゃめと申します。
ヒトトセの街という世界観やフィリム王の謎、話の展開などお楽しみいただけましたでしょうか?
よければ感想や評価など頂けるととても助かります!それでは!