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幽暗奇譚――死神遣いのノクターン――  作者: たけのこ
二章 初恋殺しのランデブー
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2―8 星に願いを②

 すっかり真っ暗になった道を歩く。電車に乗ればすぐ家に着くそうだが、星宮は俺と一緒に歩きたい気分らしく、三十分ほどかけて彼女の家に辿り着いた。


「星宮……そういえば家には誰かいるのか」

「いないよ。今は叔父夫婦のところに預けられているけど、今日は二人ともデートで帰ってこないらしいから、心配しなくても大丈夫だよ」

「そうか……ならいいんだが」


 叔父夫婦の家にお邪魔する。星宮も他人行儀みたいに居心地悪くしながら玄関を上がった。


「へへ、何だか慣れないんだよね。他人の家みたいで。……こっち来て」


 星宮に案内されて二階に上がる。彼女の部屋は生活に必要なものしかなく、良くも悪くもシンプルだった。おそらく預けられる時に必要のないものをすべて処分したのだろう。俺は星宮に促される形で机の椅子に腰を下ろした。彼女は壁際に立ったまま、座ろうとはしない。


「お腹、空いてない?」

「空いてないよ」

「そっか……じゃあ、私、ささっとシャワー浴びちゃうね。……クローゼットの中、勝手に覗いちゃダメだからね?」

「覗かねえよ。早く浴びてこい」

「はぁ~い。えへへ」


 はにかみながら返事して、星宮は部屋を後にし、一階の浴室へと向かった。彼女がシャワーを浴びている間、俺は学ランを背もたれにかけて、周りを見渡す。ベッドと机にクローゼット。窓際にはドレープをとった薄墨色のカーテンが掛けられている。両親と暮らしていた彼女の家に訪れたことはないが、きっとこんなに殺風景な部屋ではなかったはずだと彼女の性格からしてそう思う。この部屋の侘しさはまるで一人取り残された彼女の心情に似通っていて、らしくない感情だが、悲しくなってくる。こんな部屋なら、ショッピングモールを回っている時にくまのぬいぐるみくらい買ってやれば良かった。本当にらしくないかもしれないが。


 彼女が戻ってくるのをしばらくぼんやりと待っていると、白いパジャマを着た彼女がマグカップを両手に持ってやってきた。


「ふぅー、さっぱり。……はい、ホットココアだよ」

「どうも」


 差し出されたマグカップに口をつけて、一口すする。


「夜月くんはお風呂、入らなくていいの?」

「俺はいい。このまま椅子に座って眠るから」

「そんな寝方したら、身体、痛めるよ。……こっちおいでよ。二人じゃ狭いかもだけど、ベッドで眠った方がいいよ」

「馬鹿言え、その方が余計眠れないだろ」

「えー、そうかな?」

「俺はここでお前がしっかり眠るのを見守っているから、お前は安心して眠ればいい。それだけだ」

「……うん。でも添い寝の方が……」

「あ? なんか言ったか?」

「何でもない、です……」


 マグカップに顔を埋めながら言うので、声は小さく籠ってうやむやになる。それからしばらく長い沈黙が続いた。時計の針は十時半を差している。お互い、何を言うわけでもなく、ただ座っているだけで緩やかに時間だけが過ぎていく。

 流石にずっと同じ体勢だと眠くなってくるのは否めない。星宮の方はまだ眠くはないようでホットココアをゆっくりと飲んでいる。


「星宮……眠くないのか?」

「うん、だって眠っちゃったら夜月くんと一緒にいられる時間がなくなっちゃうもん」

「……はあ、そうかよ」


 呆れた。この流れは寝落ちするまで起き続ける感じだろう。十一時を回っても彼女は眠る素振りを一切見せない。まるで大晦日に夜更かしを許されて、翌朝まで起きようとする子どもみたいだ。まあ、実際、翌朝まで起きることなんてできず、鐘の音を聞く前に寝てしまうのが……幼い頃の俺だったりするのだが。


「もしかして夜月くん、眠いの?」

「……別にそんなんじゃない。退屈なだけだ」


 それに星宮の口元が微かに吊り上がったのを見て、「なに、笑ってんだよ」と別に腹なんかこれっぽっちも立てていないが、あえてそう反応することで目を覚させた。


「じゃあ、退屈な夜月くんのために、ここはひとつ、眠気が覚めるようなお話してあげる」


 そう切り出した星宮が口にしたのは自身の身の上話だった。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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