表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽暗奇譚――死神遣いのノクターン――  作者: たけのこ
二章 初恋殺しのランデブー
13/96

2―5 放課後デート②

 街のデパートに入るや否や、星宮はお腹が空いたと言い出して、右往左往すること十五分、結局、ファーストフードに落ち着いた。向かいの席に腰を下ろした星宮は美味しそうにハンバーガーを食べている。せっかくのデートで何も食べないでいるのも彼女に気を遣わせてしまいそうなので、彼女と同じものを頼んだが、初めて食べるハンバーガーの味はあまり口には合わなかった。普段和食ばかりであまりジャンキーなものを口にしてこなかったからか、一口食べて全部は食べられないなと食べる手を止めた。


「星宮、残りやるよ。お前ならもっと食べられるだろ」


 既に星宮はハンバーガーをぺろりと平らげていた。


「え、でも一口しか食べてないよ。いいの?」

「ああ。俺は付け合わせのポテトだけでいい」


 ほら、食べろよ、と差し出すと、うん、と頷いて俺の分を食べようとした時、開いた口を閉じた。


「どうした? もうお腹一杯なのか」

「ううん、そういうんじゃないんだけど……」


 何をそんなに顕著に頬を赤らめて、ちらりとこちらを覗き見てくるのか。ああ、そういうことかとようやく理解した。


「お前、こういう時に限って初心うぶだよな。普段なら何事にも頓着しなさそうなのに。……こういうの苦手なら無理して食べなくても――」

「無理なんかしてないっ!」


 言うとパクパク食べ始めた。顔に熱が集中したかのように頬を真っ赤にさせながら。そしてその恥ずかしさを紛らわすように食べ終わると、星宮は一気にジュースを飲み干した。


 昼食を食べ終えた星宮は三度みたび俺の手を掴んで、連れ回す。デパート内には様々な店があって、とにかく色んなところを歩き回った。


 洋服や雑貨、本屋などさまざまな店を見て回る中で、特に彼女は何かを買うわけでもなく、気になった洋服関係の店に入っては出て、また別の店へと入っていくその繰り返し。それの何が楽しいのか、よく分からないが、彼女が楽しそうであれば何でもいいか、と思いながら付き添った。


 3時間近く、ショッピングモールの中をほとんど隈なく見て回った星宮は流石に疲れたのか、デパートを出た近くにある喫茶店で少し休憩を取ることにした。


 ここは彼女の行きつけの店らしくプリン・ア・ラ・モードが美味しくて有名らしい。それをおすすめされたが、一人前にしては量が多いので、二人で分け合うことにした。カスタードプリンを真ん中に、生クリームやアイス、フルーツがたっぷりと盛り付けられたプリン・ア・ラ・モードが運ばれてくる。食べる前からワクワクしている星宮によれば、味も見た目も言うことなしだと言う。


 一口食べて、まあ、おいしいな、とありきたりな感想でもテーブルの向かい側に座っている星宮は嬉しそうに微笑んでくれる。にしても量が多すぎやしないか。金魚鉢のような大きなガラス容器に盛られたでかいプリンと色んな種類のフルーツと容器からこぼれそうな生クリーム。これを一人で食べられる奴なんているんだろうか、現に俺は六口目でもう十分だった。残りは全部、星宮に託して、俺は彼女の小さな口に残りのすべてが収まっていくのをぼんやりと眺めていた。


「お前、よく食うのな」

「うんっ、食べるの好きだもん」

「その割には……ほっそりしている。筋トレでもしてんのか」


 パクパク食べ進めていた星宮の手が止まる。細長いスプーンがぴたりと止まった。


「し、してるけど、なんか悪い?」

「いや……可愛いな、お前」

「な、な、何言ってんの?」


 デートに誘っておいて、そんな驚くことなのだろうか。


「……今日はデートなんだろ? 恋人ならそれくらいのこと、言うだろ」

「恋人……」

「ああ」

「…………私は別に……恋人じゃなくても……言ってほしい」

「……」


 思わぬ反応にこちらが黙り込んで星宮を見つめると、彼女はその沈黙に耐えきれなくなったのか、残っているプリン・ア・ラ・モードを掻き込むようにして食べる。あ~あ、そんなに急いで食べて、女の子なんだからもう少し綺麗な食べ方をしてもらいたいものだが、それも全部彼女なりの照れ隠しなのだろう。


「星宮」

「な、なに?」

「ほっぺに生クリームついてるぞ」


 言って、前かがみになりながら星宮の頬についた生クリームを指先で掬い取ると、彼女はぽかんとした顔をした。


「おい、どうした」

「あぅ、ううん、ありがとぅ……」

「ああ」


 指先についた生クリームを紙ナプキンで拭こうとした時、「ま、待って」と星宮がぐいっと前のめりになって呼び止めた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ