スイカ割りを愛する海の家のじい様は閑古鳥を回避したい
夏といえばスイカ割りだ。
異論は認めない。
俺は海の家を営む親のもとに生まれ、それを継いだ。
そして数十年たち、今は孫に受け継いでもらおうとしている。
「いいかタケオ。スイカ割りだけは残すんだぞ。うちの目玉なんだ」
孫のタケオ、19歳。
砂浜の上にあぐらをかき、めんどくさそうな顔をしてかき氷を食べている。
「じいさんや。うち以外の海の家もみんなスイカ割りをやっているから、スイカ割りを売りにしても勝てねぇぞ」
「う……」
タケオの言うことも一理ある。年々売上が減っている。
「な、なら、逆に考えるんだ。スイカが割る! 今年はそういうスイカ割りをするぞ」
「は? スイカが?」
自分で言っていても意味がわからんが、口から出たからやるしかない。
「スイカ頭の鬼が、ピコピコハンマーを持って客を追いかける。客は叩かれたら負け」
「クレームの嵐になるのが確実だな」
「そう言うなら案を出してくれタケオ」
「仕方ねぇな」
タケオが打ち出したイベントは、逃げるスイカ割り。
客が目隠しするのはこれまで通り。
スイカは台に紐をつけて、常に左右に動く。まわりの指示でスイカのいる場所を特定して叩く。
これが意外と大受けして、今年は例年の3倍スイカ割りの客が来た。
経営手腕はタケオのほうが上らしい。
頼もしい孫で嬉しい。