暗示
もう夜更けーー。
私が就寝前にお手洗いに行った帰り道。
前方にシンデレラがーー。
(シンデレラもお手洗いかしら?)
今夜はなんとなく、気まずい。
私が就寝前の挨拶をしてやり過ごそうとすると、ガッと手を取られる。
「……デリシアちゃん」
「な、なにかしら」
私はあなたのお姉様なんだけど、という言葉は呑み込んだ。シンデレラの熟れた瞳が私を射る。
「何か、見てしまいました?」
ドキッ!
「……何か、聞いてしまいました?」
ギクッ!!
私はシンデレラの言葉に身を固くする。
(ヤバい! シンデレラの本性見たのがバレてる!)
私が言葉に詰まったところ、シンデレラは
「あああっ! ごめんなさい、デリシアちゃん! 私って、妄想癖があるからぁ〜!」
などと言って抱きついてきた。
涙と鼻水で汚いんだけど……。
「わかった、わかったから!」
「あああっ、デリシアちゃん〜!」
その後もシンデレラは、しつこくて何だか有耶無耶にされた感じ……。
◇◆◇
その後、自室に戻った私はハムハムに話しかける。
シンデレラのこと、お姉様のこと、お母様のことーー。
ハムハムは興味深げに聞いてくれた。
シンデレラのことなんか、さっき有耶無耶にされたけど、大丈夫なのかしら。
妄想癖って……。
「まあ、考えても仕方ないか」
私は舞踏会の準備をするだけ、だもんね。
それ以外にも、同年代の令嬢たちとの情報交換や私が担当する事業の報告書に目を通したり、やることは多いのだ。
事業は家の執事たちが運用してくれるが、自分の名前で行うものは報告書くらいは目を通す。お母様やお姉様は手広く運用をしており、利益を上げている。年金以外の副収入がそれなりにあるようだ。
それを考えると、私はいまいち存在意義を感じない。自信を喪ってしまう。
私だけの特性ってないんだろうか……。
ただ、お茶会に精を出して嫁いで行くか、お姉様の代わりに婿を取るか……。
なんだか、とても怖く感じた。
カラカラ……
ハムハムが回り車で遊びだす。いつもは可愛いはずのその仕草が、私の未来を暗示しているかのように感じた。




