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魔女

 『魔法使い』は存在する。

 現に、シンデレラも魔法を使ってみせた。


 ◇◆◇


 国家は、こぞって『魔法使い』を囲う。

 強力な魔法使いがいれば、他国よりも優位に立てるからだ。

 ……ただ、一口に『魔法使い』と言っても様々な『魔法使い』がいる。簡単な着火魔法を仕える者、占いができる者、気象予報士、祈祷師など……。

 ーーある国に、突如として広域殲滅魔法を使える魔法使いが現れると、急に国家間のバランスが崩れることもある。なんだか、前の記憶で言うと核兵器みたいだ。

 国家によっては、他国を牽制するために偽の『魔法使い』を仕立て上げた例もあるらしい。



 ーーかつて、フランシア王国には、ある『魔法使い』がいた。

 それは、他国から恐れられる、強力な魔女だった。

 彼女は、他国との争いでは兵士を薙ぎ倒し、武威を示した。一方で、自国で災害が発生すれば人命を救助し復興に尽力するーー。

 フランシア王国にとって、守り神のような存在であった。

 だが、その魔女にも寿命が存在した。魔女に依存していたフランシア王国は、魔女に後継者育成を要請するも、後継者は育たなかった。

 フランシア王国の未来を憂う魔女は、己の責任だと嘆いた。

 ーーそして魔女は、死に瀕して『外法』を試みる。追い込まれた魔女が使ったのは『死生転生』という魔法……。

 ーー『死生転生』とは、自らの魂を新しい生命に移し替えるという非人道的な術で、使ってはならない『外法』とされているもの。

 なぜならば、新しい生命に宿るはずの魂は消滅してしまうからーー。



 結果、魔女が行使した『外法』は、半分、成功した。魔女は『デリシア』という胎児に転生できたのだ。

 ……だが、あろうことか『デリシア』には、本来の人格以外にも、もうひとつの『人格』が存在した。

 ーーいや、もうひとつの人格も同じタイミングで転生してきたのだった。

 なんと『デリシア』には、三人分の魂が宿ることとなった。いや、正確に言えば、1人分とその半分……。元のデリシアの魂は消滅し、魔女の魂は半分が引き裂かれ、弾き飛ばされた。

 ーー弾き出される形となった、魔女の半分の魂は、消えたくない一心で憑代を求めた。

 なお、この時既に魔女の元の肉体はない。『外法』を行使するに当たって、肉体は朽ちたからだ。

 ……そして、年月が過ぎ、狂おしい時が流れて魔女の魂は憑代を見つけることができた。というより、消滅寸前になって、新しい生命に潜り込むことができたと言うべきか……。


 ーーその、新しい生命の名前は『レイラ』


 『デリシア』とは異なり、魔女の記憶と力を残した『レイラ』はそのまま成長してゆく。

 ーー皮肉にも『デリシア』の妹として。

 『レイラ』は成長とともに魔力が高まるが、一方の『デリシア』は一向に魔力の片鱗も見えない。

 『レイラ』が魔女としての使命に囚われても『デリシア』は何も知らぬ娘のようだった。


 ーー半身であるはずなのに、何も縛られず自由を謳歌するのは何故か?


 『レイラ』は疑問が大きくなり『デリシア』のことを考えるのが辛くなった。

 ……それでいて、衝撃の事実を知ることになる。偶然にわかったことだがーー、


 『デリシア』には、魔法が効かない。


 『レイラ』は苦々しく思う。魔女の半身が『デリシア』に特殊能力を授けたのだろう。それは、わかる。わかるが、釈然としない。

 ーー魔女は、もともと普通の女性として生きたかった。恋をし、子を産み、老い、死んでいきたかった。

 だが、現在、魔女としての記憶や人格は『レイラ』にしか顕在していない。ーーとすると『レイラ』は、フランシア王国の『魔法使い』として生きなければならない。

 選択肢の一つとして『逃げる』というものもあったはずなのだが、なにかに縛られたようにそれができず、魂が膿んでいくのを自覚した。

 魂の記憶に引きずられた『レイラ』は日々、魔法使いとしての技能を磨くだけが、自分に許された生き方となのだと思い込んだ。

 そんな『レイラ』が『デリシア』のことを疎ましく感じていくのは、自然の成り行きだった。

 やがて『レイラ』を絶望が襲う。魔力の成長が止まってしまったのだ。想定より、遥かに低い限界値であった。

 これでは、転生した意味がない。他国の『魔法使い』に知られれば、フランシア王国は侵略を受けることも考えられた。

 悩む『レイラ』が思い至ったのは『デリシア』から力を奪うことだった。

 ーーこれは『レイラ』の心を満たした。心底、震えるほどの歓喜が身を包んだ。

 力を奪う方法はわからない。わからないが、魂を傷付け、魂の力を弱めれば無理やり力だけを引き剥がすことも可能だと思われた。

 あとはーー、残り滓のような魂には用はない。どうなろうと、知ったことかーー。

 『レイラ』の心はーー、もう、限界だった。

 ただ感じたことは『これで、苦しみから開放されるーー』ということだけであった。



 『レイラ』は、行動を開始した。

 ーー国王に病を与えた

 ーー第一王子を小動物に変えた

 ーー第二王子を洗脳した

 ーー貴族たちの記憶を改竄した

 ーー『デリシア』を陥れる舞台を整えた

 これで、『デリシア』の魂を傷付けて魂を弱めるーー。


 ……けれども、結果は『レイラ』の思惑の通りにいかず、失敗した。

 『レイラ』には訳がわからず、慟哭した。


 ーー報われない

 ーー救われない


 追い詰められたことにより、自暴自棄になった。

 魂の存在全てを消費し、城を崩壊させることで全てを無にしようと思った。

 だが、それすらも阻止されてしまった……。

 もう、どうでも良いーー。

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