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魔法を打ち破るのは

 走り出した私が向かうのは、王の間の出入口ーー!


「……」


 複数の視線が突き刺さるような気がした。

 なにが正しいのかわからない。

 なにをすれば良いのかわからない。

 だけど、私は、やる!


「レイラッ!」


 私はシンデレラの名を叫んだ。

 笑い続けるシンデレラと目が合う。

 ーー私は、そこに落ちていた盾を手に取ると、シンデレラ目掛けて猛ダッシュ!

 もちろん、出入口に走ったのは逃げたわけじゃない。これが目的だ。


(ーーここで逃げたら、令嬢が廃るッ!)


「小賢しいッ!」


 シンデレラが憎々しげにこちらを睨むと、シンデレラからの風圧が強くなる。

 ーーだけじゃなく、ゴツゴツと瓦礫が盾を打つ。

 しかし、構わずにダッシュ!

 そして、タックル!

 盾は直前で捨てたため、ガッと勢いよく私の額とシンデレラの額が当たるが気にしない。

 このまま、


 ーー王の間からシンデレラを押し出す

 ーー短杖を取り上げる

 ーー魔法を封じ込める


 のどれかを!

 王の間からシンデレラを出せば、王の間は助かるかもしれない。短杖を取り上げれば、魔法が止まるかもしれない。私に魔法が効かないのであれば、シンデレラを取り押さえることで魔法を封じることが出来ないかーー。

 ……確たる勝算などない。言ってしまえば、衝動的な行動である。


「あああああーッ!」


 暴れるシンデレラ。


(嫌がってるーー? 効果がある?!)


 シンデレラの様子に、私はシンデレラを掴む手に力を込める。

 お母様やお姉様、アレン殿下を助けたい! 今、それができるのは私だけだ!

 私の額とシンデレラの額が再び勢いよくぶつかる。火花が散る、という表現の通り目の前がチカチカした。

 それと同時に、私の脳裏に記憶の断片が蘇る。いわゆる、走馬灯がよぎる、という状態か。


(感情が高ぶっての現象よね)


 これが死ぬ間際なんて、縁起でもないことは考えない。

 ーーだけど、溢れる記憶の奔流に、気になるものが……。

 自分の記憶以外の、もう一つの記憶……? 

 堰を切ったように、別人の記憶が私に混じる。


(これはーー、シンデレラの記憶?)


 シンデレラの記憶を垣間見る間、私はシンデレラのことを想ってしまっていた。

 というより、憧憬の念を禁じ得ない。


 ーーこんな魔法を使えるなんて、凄いな!


 外見もよく、特別な力を持つ、シンデレラ。なにも持たない私には、眩しい存在だ。これだけ人に迷惑をかけているシンデレラなのに、憎めない。

 溢れる感情は、なぜか称賛や憧れだ。

 私はもともと人と深く関わり合うことをしないーーできないので、シンデレラとも面と向かって語り合ったことはない。一緒になにかをした記憶もない。ただ、同じ屋根の下で生活していただけだ。

 それって、家族とは言えない。

 私はーー、シンデレラのことが嫌いではなかった。

 かと言って、好きなわけでもなく……。何故か、負い目のようなものを感じていた。だからなのか、家族であった筈なのに『シンデレラは変わった子』と深く考えなかった。関わることができなかった。

 ……今考えると、シンデレラの性格が歪んだのは、私にも原因があるのかも。お母様やお姉様はシンデレラに対しても分け隔てなく接していた。私だけ、違ったのかもしれない。


 ーーずっと、見ていただけだった

 ーーもっと、正面から向かい合うことができたはずなのに

 ーー真剣に向き合わないと、きっとこの先も後悔してしまう

 ーーだから、今、シンデレラを止める。シンデレラと向き合う!



 私の頭に、一際大きなシンデレラの記憶が入って来る。


「ーーぐう……っ」


 頭が痛い。

 これ、シンデレラというより、もう一人の記憶みたいだ。もう一人ーー?


 ーーあ!

 ーーえ、これって!?


 ◇◆◇


 私の意識が覚醒した時、シンデレラの身体から白い蒸気のようなものが霧散しているようだった。

 残存していた蒸気が暫く漂っていたが、やがて消えた。

 どうやら私は一瞬だけ気を失っていた……? 膨大な記憶が入り込み、処理できなくなったのかもしれない。

 シンデレラは、座り込み放心状態になっている。

 王の間の崩壊は止まり、その場にいた者たちも動けるようになった。恐る恐る、衛兵たちがシンデレラを取り囲む。貴族たちは遠巻きにし、アレン殿下だけが私とシンデレラの元へ近付いて来た。


「デリシア……」

「ーー終わりました」

「終わった……?」

「はい、レイラを操っていた悪い魔女は、消え去りました」

「レイラを操っていた、魔女? 消えた?」

「はい、もう大丈夫です」


 私のそばに来て声をかけてきたアレン殿下に、私はそう告げた。

 シンデレラから悪い魔女の呪いは消えた。もう大丈夫だろう。多分。


「よし、怪我人を診療所に運びなさい。魔女に操られていたレイラも診療所で手当を」


 アレン殿下が衛兵に指示を出し、王の間の時間が動き出した。レイラと怪我人が運ばれ、残っていた貴族たちも王宮の執事たちに導かれて退室する。

 


 その後、私たちも別室に移動したうえで、駆け付けてきた宰相以下、幕僚たちにシンデレラのことを聞かれる。


「デリシアが知っていることを、ゆっくりでいいから教えてくれるかい」


 ことが事だけに、アレン殿下も同席して事情を聞く構えだ。

 考えようによっては尋問の場でもあるわけだから、第一王子がいるような場ではない。宰相もあまり良い顔はしていない。

 それはそうなんだが、私としてはアレン殿下がいてくれると、なぜか落ち着く。


「……はい、シンデレラは」


 私は、シンデレラの記憶を見て知り得たことを喋り始めたーー。

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