本性
私が、自分の存在感の薄さを悶えつつも、これで一段落したのかと胸を撫で下ろした時、視界の隅に引っかかるものが。
(あ、シンデレラーー?)
怒涛の展開の中、ひっそりと目立たなかったシンデレラの表情が歪んでいた。
笑っているーー?
(なにか、やる!?)
私がそう直感し、身構える。
すると、
「クスクスクス……」
静かな王の間にシンデレラの笑い声が低く響く。
王が退室し、自分たちも場を辞するべく動き出そうとしていた貴族たちが、怪訝そうにシンデレラに視線を向けた。
「アハハハハ!」
シンデレラが狂ったかのように哄笑した。
(あ、これはさっきの第二王子と同じく追い詰められた状態?!)
私がギョッとすると、シンデレラはかスカートを捲って脚に付けていた短杖を取り出した。
「みんな、城に潰されてしまえェーッ!」
そして、シンデレラがそう叫ぶと、ゴウッと風が吹いた。私はあまりの風の強さに怯んだ。さらに、誰かが私に体当たりをしてきて、私は吹き飛ばされる。
轟音ーー。
天井が崩れたのか、雷が鳴ったような音と共に瓦礫が落ちてきた。更に風は吹き続ける。
ビキ、ビキ……
と軋む音がして、壁や天井に亀裂が生じる。
辺りを見渡せば、みんな、うずくまったり瓦礫が当たって呻いている。
瓦礫と言っても、今落ちてきたのは天井を装飾している木片や軽金属だ。例え直撃しても軽傷を負うくらいで、行動に支障が出るとは思えない。
(これって……、みんな、動けないーー?)
瓦礫で重傷を負うとは考えにくく、瓦礫が当たった人以外も動けない。
私の中で警鐘がガンガン鳴り響く。
(風のせいーー?)
シンデレラの不思議な力ーー風を起こしてみんなの動きを封じている。それと同時に、建物を軋ませる強い魔法を使ってるーー!?
私はそこまで思い、ゾワリと薄ら寒いものを感じる。
シンデレラを見ると、瓦礫が舞う中、笑いながら短杖を振り回している。やがてシンデレラの視線がこちらに向けられーー、
「運良く、私が飛ばした瓦礫を避けたわねーッ!」
私の背後を見据える。
(えーー!?)
私がシンデレラの視線を追うと、誰かが倒れてるーー!
よく見ると、それは先程急に現れたアレン殿下!
しかも、すぐ脇に落ちているのはリンゴくらいの大きさの瓦礫がいくつも?!
さっき押し倒されたと思ったら、アレン殿下に助けてもらった!?
「殿下!? お怪我は!?」
私が慌てて駆けつけると、優しげな顔を歪めたアレン殿下は倒れたまま『大丈夫』と唸る。
全然大丈夫じゃなさそう……。動けないでいるみたいだし……。
「レイラは普通に動けるんだね」
「ーー?」
「シンデレラは『魔法』を使っているみたいだ。みんなはその不思議な力で、動けなくなっている。レイラ、君だけでも逃げなさい」
「なーー!?」
私はアレン殿下の言葉に驚愕した。
確かに、みんな倒れたまま動けない。みんなが動けない原因なのか、シンデレラから風が吹いて来るが、逃げようと思えば私は動ける。でも、一人で逃げるなんて……。
「そんな……。私を、かばってくれた殿下を置いて逃げるなどと……」
お母様もお姉様も動けないでいる。なんとかしないと……。
「私は夢をみていた……」
「……??」
こんな時に、なにをーー!?
「私は王になるのが嫌で、ある魔女に依頼した。リスにでもなってね、自由気ままに暮らしたいって。そしたら、魔女は怪しげな薬をくれた。それを飲んだら、私はリスになって……、ある女性と楽しく過ごすことができた」
「ーーえ?」
「でも、その女性を助けたくて、人間に戻りたいと思った。ただ、元に戻る方法がわからなかったんだ。結局はその女性が魔女の魔法を解いてくれた」
「それって……」
「君を助けたいんだ……! 逃げなさい!」
「ーー!!」
一瞬の逡巡ーー、私はシンデレラを見る。
「キャハハハ!」
シンデレラは哄笑い続ける。
その間にも、天井や壁の亀裂が広がる。ビシッ、という嫌な音も響く。
「ーーッ!」
ーー私は走り出した。




