お姉様ーー!?
お母様は、マツコ=デ○ックスにしか見えない巨体を揺すりながら私に話しかけてきます。
「今日は風が気持ちいいわぁ。そうだ、午後のお茶はお庭でいたしましょう」
なにやらご機嫌のお母様は、窓の外を見てお茶の提案します。
「ええ、そうしましょう」
私もそれに賛同しつつ、
「なにか良いことでもあったのかしら? とてもご機嫌で……」
とお母様の顔色を窺います。
「フフ、後で話すわ。それにしても、今日は風が気持ち良いわぁ」
お母様は終始ご機嫌です。
おそらく、高位貴族の家で開催されるお茶会にでも招かれたのでしょう。
《侯爵家》などのお茶会は伯爵家では滅多に招待されず、ましてや《公爵家》ともなると余程のことがない限り情報すら入って来ません。
――それにしても、昼下がりの風が気持ちいい。
五月のうららかな陽射しに、心地好いそよ風。
お庭でのお茶は心を弾ませます。
思わず頬を緩ませたところ、
「で、あるか」
と低い声が異様に響きます。
――こ、この声は。
「あらぁ、ウーフちゃん」
と、お母様が一際嬉しそうな声をあげます。
現れたのは、ウーフお姉様。
小柄な美女ですが、やや痩けた頬と神経質そうな表情で、やや近寄りがたい雰囲気です。
そのお姉様、口ぐせは『で、あるか』なんです。
額に青筋を立てている時は迂闊に近寄れません。
なにか粗相があれば、手打ちにされそう。
「……」
なんとなく、ソワソワしてしまいます。
「デリシア、なにを浮き足立っておる? 淑女たる者、まずは落ち着けい!」
すると早速、お姉様の厳しい叱責が。
青筋ピキピキ怖い。
「は、はい、ノブナガ様! じゃなかった、お姉様!」
思わず、直立不動になる私。
「ノブナガ……? なにを言っておる!?」
言い間違いに、怪訝な表情を見せるお姉様。
「ひ、ひぃっ」
「……身に付かぬのなら、身に付かせてみせよう淑女作法」
ヤバい! 目がマジだ!
「まあまあ、お茶を始めましょう」
お母様が、とりなしてくれます。
ありがとう! マツコ様! ……じゃなかった、お母様!
お母様が使用人にお茶の準備を頼み、手際よく支度が整います。
用意されたお茶は、香りが薄いものです。
いつもと違うもの?
私はゆっくりとカップに口をつけます。
「……!?」
このお茶は砂糖とミルクを入れていないのに、まろやかで甘味があります。
しかも、口に含んでから良い香りが立ちます。
お茶が美味しい……。
「ふむ。美味、である」
お姉様も唸ります。
「そうでしょう」
お母様がにっこり微笑みます。
あら、お母様の機嫌が良かったのは、このせいだったのかしら。
「あなたたちに、良いお話があるの」
ニコニコ顔のお母様が話を切り出します。
なんの話でしょう。
「このお茶は王家から頂いたものなのよ」
「王家、であるか?」
お姉様が聞き返します。
私も思わずビックリ。
王家からお茶をもらえるなんて?
「ええ、これは招待状に添えられていたもの……」
お母様が言葉を区切ります。
招待状?
グッと両手を握り締めたお母様がピカッと目を光らせます。
ま、眩しいッ!
「今年の収穫祭に合わせて、舞踏会が開かれるの! そこでは伯爵家以上の令嬢が集められ、第二王子様の結婚相手が探されることになっているのよ!」
鼻息荒く、立ち上がるお母様。




