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楽しい、ワルツーー

『不幸にも』って……。

 しかも『寛大な処分』ときたか。つまり、処分はしてほしいんだな。


「ーーなんと、レイラは慈愛の心に厚いのだな。……わかった。レイラの美しい心に免じて、ロワール伯爵家の爵位剥奪は取り消そう。ただし、王都からは追放だ! 王都の屋敷は王家が接収するため、速やかに退去するように!」


 第二王子が下手な芝居を打つように、声を張り上げた。

 ーーしかし、屋敷を接収!? 王都の屋敷は伯爵家で買ったものだ。それを接収するとは……。

 我が家は取り潰しは免れたが、領地に引き籠もることになりそう。

 しかも王家から追放なんぞされたら、家業の取引先が激減するため、領地経営に苦労しそうだ。ーーお母様やお姉様の事業にも影響してくるだろう。



 そんなことを考えて暗くなっていると、シンデレラは公爵家の養女として迎えられ、そこから王家に嫁ぐことになる、などと第二王子が説明していた。

 やがて第二王子が話を締め、会を終わらせようとする。


「ーー!」


 私はーー、

 黙って指を咥えて見てるだけではいられないーー!


「ーー失礼ながら、殿下。レイラに対する接遇について申し開きをしたく……」

「ーーならん! それに、まずは謝罪が先だ!」


 取り付く島もないとはこのことだ。


「……まずは殿下をご不快にさせたこと、謝罪いたします。……レイラも不自由させました。ごめんなさいね。ですが、私たち家の者はレイラに対しても分け隔てなく接してきたつもりでございます。これは私たちの不徳の致すところ……」

「分け隔てなく、と言うが使用人のように家の仕事をさせ、ボロを装い、食卓も共にせず、満足な教育も受けさせない……。これが分け隔てなく、ということか。ロワールの家は心が貧しいのだな」


(それ、シンデレラが勝手にやってたことやん)


 ……シンデレラが自分でそのような行動を取っていたとは言え、確かに間違ってはいない。正解ではないが。

 これは、くどくど喋らずに縋りつくしかないか……。


「殿下、それとレイラ……。我が家は閉門の上、謹慎いたします。御慈悲を」


 私は頭を下げる。

 ーー『追放』より『謹慎』のほうが幾分ましである。貴族世界にもなんとか生き残れる。それに、レイラが結婚まで行き着けば恩赦があるかもしれない。

 私はーー、

 私はーー!

 お父様が遺した家を潰したくないのだーー!


「……ふむ」


 意味ありげに思案する第二王子。

 含む笑顔に、残忍性が滲み出ている。こんな人だったのか。甚振ろうという、思惑が透けて見えそうだった。


 キュッ、キュッ!


 ん?

 んんん?!

 私にしては頑張って、第二王子と渡り合っていたその場に乱入者が! 私の服から飛び出たハムハムだ!


(ヒイィィ、これは申し開きできない〜!)


「これはこれは? 招待した覚えのない参加者が?」

「も、申し訳ございません。我が家で飼育しているリスが……。私のドレスに潜り込んでいたようで……」


 一瞬、知らぬ存ぜぬで通すことも考えたが、ハムハムがなにをされるかわからない。私は素直に謝罪する。

 しかし、これでまたひとつ攻めどころを与えたかーー?


「ふむ、それは仕方がないな。気をつけて連れ帰りなさい」


 おや? 特にハムハムのことは突っ込まれない。スルーしてくれるーー?


「しかし、良く動く元気なハムスターではないか! ダンスをしているのか? ……そうだ! デリシアは先の舞踏会ではダンスをしていなかったようだな。よし、この場でこのハムスターとダンスをして、皆を楽しませてくれ。そうすれば追放は撤回、謹慎処分としよう!」


 高笑いをする第二王子。性格の悪さが顔に滲み出て、秀麗な顔が歪んでいる。

 こいつ……! お茶会などの場にペットを連れていけば顰蹙を買うくらいだが、お茶会の場でペットとダンスをさせられれば、『ペットとダンスを踊った令嬢』として奇異の目で見られるようになるーー。

 これまで『壁の花ーズ』を結成していたお友達と、付き合いがなくなるかも知れない。貴族家の令嬢たちにとって、マイナスイメージの評判は死活問題である。婚活に差し障りがありまくるから。令嬢本人が友情を優先したくとも、家がそれを許さないだろう。

 私は、ボッチになるかもーー。


(まあ、いいか)


 お母様やお姉様にも影響が及ぶが、追放よりマシだろう。

 ーーしかし、内気な私にしては、なんだろう……、不思議な力が出る。行動力も湧いてくる。原動力は第二王子の理不尽に対する反発か、お父様が遺した家のことを考えてか……。

 ーー第二王子が、音楽を頼む、とシフォン様にも無茶振りをしている。

 私はシフォン様に軽く会釈をして、笑顔を見せる。シフォン様は芯のある方だ。私が困惑した様子を見せれば、助けようとするかもしれない。

 ーーそんなシフォン様にも迷惑をかけれないし、場の雰囲気をこれ以上悪くできない。


「お願いしますーー」


 誰に向けるわけでもないが、私は呟く。

 ダンスの前のポーズを取り、笑顔でおどけて見せる。


「はははは」


 第二王子の笑い声が気に障る。


 〜〜♪

 〜〜♪


 シフォン様のピアノが始まる。コミカルで軽快なリズムが楽しげな雰囲気を作る。これは踊りやすい。

 ハムハムが固まっていたので、優しく微笑み頭をツンと撫でてやる。

 あ、ちなみに第二王子が『ハムスター』とか言ってたが、ハムハムはれっきとした『リス』である。間違えんなし。

 私は軽快なステップを踏む。自分では軽やかに、楽しげに動いているつもりで。

 ーーすると、なんだか、ハムハムも合わせてコミカルに跳ね出す。

 周りの雰囲気が和やかになるのがわかった。これはこれで楽しいのかも。



 ーー一曲踊り終え、私はゆっくりと礼をする。会の参加者たちが拍手をしてくれる。笑顔の人もいた。

 会の雰囲気も良くなった気がする。


「はははは! いいぞ、いいぞ」


 一人悦に入る第二王子。

 ーー雰囲気を悪くするな。


「楽しい時間をありがとうございました」

「うむ、では約束通り、追放は撤回だ。ただ、沙汰あるまで謹慎しておくがいい」


 満足そうな第二王子。


(ーーこれで良かった。なんとか最低限、踏みとどまれた)


 私は、ささやかな達成感を胸にしまい込み、会を辞する。



 しかし、このあと、どうなるんだろうーー。



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