新当主、立つーー!
シンデレラが、第二王子の婚約者として発表されたーー。
第二王子の口から、はっきりとお茶会の参加者たちに告げられた言葉は、正式なものとなる。王室の者は、公の場で虚偽の発言などできない。
このお茶会の名目は舞踏会でのささやかなお礼。しかし、実質は第二王子の婚約者を決めるための第二次試験の意味合いが強かったはず……。
それが、いきなり『婚約者』の発表、とは……。
ーーというか、シンデレラが『婚約者』って、お母様やお姉様は知ってたのかしら?
「……」
黙り込むお姉様を見るが、その表情からは窺えない。どうなっているんだろう……。
第二王子とシンデレラが参加者たちに挨拶をし、正式には新たに発表の場を設ける、みたいなことをにこやかに喋っているが、他人事のように頭に入って来ない。
居並ぶ令嬢たちもショックなのか放心状態のように見受けられる。この集まり、なんだったんだよ、てね。
「それと、もうひとつ皆に伝えておきたい」
第二王子は、キリッと口調を変えた。
この人、無駄に顔が整っているから真面目な表情をすると威圧感がある。そこに惚れ込む令嬢たちもいるようだが……。
「レイラと私は結ばれるわけだが、王室とレイラの家の付き合いも深まることになる」
そうだよね、それってうちの伯爵家のことだよね。
ーー憂鬱だな。面倒くさそう。
「しかし、レイラは亡くなった伯爵の実の娘であるが、現伯爵夫人の実の娘ではなく、そのことで辛い思いをしていたようだ」
そんなことはない。
自由気ままに過ごしていた。シンデレラが自作自演して、悲劇のヒロインごっこをしていたが……。
「よって、現伯爵家は爵位剥奪のうえ、追放する! 財産には手を付けないから、王都から速やかに退去処分とする!」
(なんと!? 『王家との付き合いなんて面倒くさそう』とか、要らん心配だったぁぁッ!?)
第二王子の宣言に絶句し、思わず目を見開いて驚いてしまう私。
ーーしかし、なんの落ち度もない伯爵家を独断で御家断絶なんて、横暴すぎる!
「わかったか! 現伯爵家の当主、デリシアよ」
第二王子がキメ顔でこちらを睨んでくる。
「ーーは?」
ーーいや、それはいいけど、なんて??
当主はお母様でしょ?! なんで私??
混乱の極みにある私に、ススッとお姉様が背後に立ち、低くドスの利いた声で、
「……貴様が舞踏会で着用したドレス、あれはお母様が若い頃に着用したドレスよ。あれは、伯爵家の夫人が代々着用する王家から拝領したドレス。しかも、舞踏会では当主専用の馬車で乗り付けておる。貴様は舞踏会より、伯爵家の当主として見られておる」
と耳打ちしてくる。
(はははい?! まったく意味わからんし! どういうことやし!?)
私はさらにメダパニする。もう、なにがなんだか。
「お母様もワシも、事業で財をなしておる。なんの経済活動もしておらぬ、貴様に伯爵家は譲られる予定であった。それが早まっただけよ。ーーもっとも、追放されるかもしれんが」
あ、うん、補足説明ありがとうございます。
もう情報処理能力が、いっぱいいっぱいだから、ヤメテーー。
しかし、舞踏会での我が家の使用人たちの対応や、私がこのお茶会に呼ばれた理由がわかった気がする……。
「ーーお待ち下さい、殿下!」
ここでシンデレラが発言する。
悲壮な表情がわざとらしい。
参加者たちは皆、可憐なシンデレラに目を奪われる。
私もシンデレラに目を向けた。
「我が家の仕打ちは厳しいものでした。ですが、不幸にも私の生家……。寛大な処分をお願いいたします!」
不幸にもって、アンタねえ……。




