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舞踏会も滞りなくーー

『これは失礼』

『とんでもありません、私の方の不注意でございます』


 離れている私には聞き取ることは出来なかったが、第二王子とシンデレラの会話が透けて聞こえるようだった……!

 ーーこれは流れが変わりそう。私は機を見るに敏というわけではないが、シンデレラの行為が第二王子とウーフお姉様の雰囲気に水を差したのは感じ取れた。

 それに、なんだかシンデレラから怪しげなオーラが漂う。


(なにか、起こりそう)


 私は、無駄にドキドキしている壁の花の令嬢たちと横目で様子を窺う。

 そのままの流れでシンデレラは第二王子にエスコートされ王家の使用人とともに大広間から退出する。


「あらあ、デリシアちゃん。来たのね」


 ふいっと、マツコ……じゃなかった、お母様が来て、声をかけてくる。先程まで巨体を軽やかに動かし、ダンスを踊っていたようだった。

 私は『王家主催の舞踏会に参加してみたくて』と返す。お母様は手をヒラヒラとさせ、仲の良い婦人のもとへ向かう。お母様も顔が大き……広いため、様々な人たちと交流を深めている。


「そのドレスもいいわぁ。似合ってる」


 と、去り際に大きなウインクをひとつ落としていくのを忘れない。

 お母様の茶目っ気タップリな態度に、私は心強さを覚えた。



 ーーさて、その後は間を置かずに第二王子が大広間に戻ってきた。年配のおじさまや令嬢たちと談笑をしたり時折ダンスを楽しみ始めた。


(あと数曲すれば舞踏会も終わりそう)


 私がそんなことを考えつつ、気を抜いたところだった。

 大広間の扉が静かに開き、シンデレラが身体を滑り込ませて来た。目立たず戻ってきたのだが、私はギョっとした。シンデレラの装飾品が増えている。

 ドレスにはワインの染みもないし、新しい羽織りものも染みを隠す位置に羽織っており、それがまたシンデレラの儚さを際立たせていた。


(王家から装飾品を借りた? もしくは下賜されたーー?) 


 そうだったら、あんまり良くなさそう……。

 シンデレラに気がついた第二王子は迷わずシンデレラに話しかける。どうやら、ダンスに誘っているようだ。

 しかも、楽団の演奏がガラリと変わる。スロータイムである。


(スロータイム!? このタイミングで!?)


 ダンスに疲れた参加者が一息ついたり、親密な会話をするためにスローな曲が流れる時間になった。男女は身体を密着させ、会話や雰囲気を楽しむ。……チークタイムとも言う。

 当然、シンデレラと第二王子は身体を密着させ優雅に踊る。口元が動きを見せているため、何か会話をしているようだ。

 楽団の指揮者が『俺、いい仕事した』みたいにドヤ顔してるのが気に障る。とんでもないタイミングなのである。

 他の令嬢方から立ち昇る殺っき……オーラがわからないのか、あの指揮者は。



 それはさておき、タップリと二人だけの時間を過ごした第二王子とシンデレラが離れた頃、舞踏会が終了とあいなった。

 この後の流れとして、数日後に第二王子主催のサロンが開かれる。第二王子の婚約者を選ぶための第二次審査という意味合いが強いものだ。

 うちの家からは、お姉様とシンデレラが招待されそうだが、私には悪い予感しかしないーー。



「ーーはっ!?」


 ……そういえば、私ったら今夜ここに来た意味はあったのかしら。


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