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暗闇輪舞

 ーー進行役が第二王子の到着を告げ、第二王子が大広間に姿を見せると、喧噪が嘘のように静まった。

 柔らかな蜂蜜色の髪をした、にこやかな第二王子に視線が集中する。優しげな顔貌だが、引き締まった身体に颯爽とした身のこなし。親しみやすい笑顔を浮かべて、視線を周りに返す。

 無言で、第二王子が軽く右手を上げる。

 それを合図に、ある公爵様が進行台に登壇して優雅に一礼をした。本日の進行役は王家の執事ではなく、王家の血筋に連なる公爵様。


『ーー堅苦しいものではなく、楽しみましょう』


 と言った内容のことを喋りだし、砕けた口調で公爵様が挨拶を始める。

 公爵様が話に交えるジョークとは反比例するように、令嬢方々の緊張は否が応でも高まる……。

 そして改めて舞踏会の始まりが宣言されると、あらかじめ決められている年若いご令息とご令嬢たち数組による初々しいダンスが始まった。

 二組目は妙齢の方々で、婚約者同士の参加となっている。



 そしてーー三組目は第二王子が、踊る。

 ただし一回目のお相手は決まっている。本日の参加で一番爵位が高い、由緒ある公爵家のご令嬢が相手を務める。たしか、第二王子と同い年の二十二歳。ちなみに、ウーフお姉様も同い年である。

 ……そこからが、バトルロワイヤルの始まりなのだ。



 粛々と、予定調和のとれた時間が過ぎた。大広間にヒリつく緊張感が漲る。

『壁の花の令嬢たち』も固唾を呑む。誰が一番に第二王子の相手をするのか……。逸る令嬢たちが、今にも飛び出しそう。さしずめウマ令嬢とか?



 ーーと、その時だった。

 ーー私がそんなウマ……馬鹿なことを考えた、その時、である。

 ーーそう、私が呑気に壁に貼り付いていた、その時なのである。

 フッと大広間の照明が消えた。一斉に。

 ザワつく大広間に、


「おや、これは申し訳ありません。すぐに照明を点けましょう。しかし、たまには暗闇の舞踏会も素敵な……」


 などと機転を利かせた公爵様のアドリブが入った。


 ポッ


 と点いたのは大広間の真ん中の照明。

 そこに照らし出されたのは薄い藤色のドレスを身にまとい佇む一人の女性。

 儚げな美貌の主はーーお姉様!


 ポッ


 と点いたのは第二王子の上の照明。

 お姉様がいる場所の照明と合わさり、少しだけスペースができる。


 一瞬の間ーー。


 それから流れ出す楽団の演奏。見ると、薄明かりの下、指揮者が直近の演者と演奏を開始している。シンプルな音源は、二人を引き立てる。


 ーーそう、王子様とご令嬢。


 二人は自然な動作で歩み寄り、一礼。手を取り合い、優雅な足取りでゆったりと動き始める。

 美男美女の、満面の笑顔が様になる。そこには、まるで絵本の中から迷いでて来た、絵に描いたような王子様とお姫様がいた。

 薄暗い中、他の照明が点滅を繰り返して煌めきを残す。楽団の演者が空間に合わせたシンプルでいて儚げな音を紡ぎ出しーー。

 二人だけの世界が構築されている。


(ヒイィーッ! 完璧な猫かぶりモード発動!)


 ホゥ、と周囲が憧憬と羨望の眼差しを向けるなか、私だけは薄ら寒いものを感じた。

 お姉様が家にいるときとの差が激し過ぎるのだ。

 正直、『誰だよ!』と声に出して叫びたくなる。

 ーー楽団の指揮者の『俺、いい仕事した』というドヤ顔が恨めしい……。



 しかし……まあ、考えようによってはお姉様が目立つことにより私は頑張らなくていいから気が楽なのかな……。

 ま、まあそういうことにしておこう。これで心置きなく壁の花してられるってこと。

 大広間に全ての照明が灯る頃、二人だけのダンスはフィニッシュを迎えた。満場の拍手を受け、二人は一礼を残して中央から退いた。


 ーー今宵の主役はこの二人だ。


 誰もがそう感じた筈だ。

 次第に、第二王子に意識を向けていた他のご令嬢たちが、近くのご令息たちに視線を向け始める。第二王子からターゲットを切り替えたのだ。

 ……ご令息たちもその視線に気付き始め、徐々に動きを見せ始めた。

 楽団は一転、明るく楽しげな演奏を始めていた。雰囲気も変わっている。

 大広間に談笑が広がる。王都で行われている、いつもの舞踏会の様相だ。さっきの幻想的な光景は、余韻を残しつつ薄れている。

 私が目でお姉様を追うが、第二王子と親しげに談笑していた。バトルロワイヤル開始とか一人で盛り上がってしまったが、バトル、なーんもなし。

 その時ーー、第二王子が飲み物のトレイを運んできた執事から、グラスを取ろうという仕草を見せた。軽くグラスが揺れ、中身がこぼれそうになる。いや、中身のワインがこぼれたーー?

 こぼれた先には白いドレスのーー、シンデレラ!?

 ()()()()()()()()()()()()

 私は数メートル離れていて、シンデレラの表情を見落としてしまった。良く見えなかった。俯き加減で、誰にも見えない角度。

 だが、私にはシンデレラがほくそ笑んだように見えた。そんな気がしてならなかったーー。

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