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いざ大広間

 大広間までの廊下にてーー。

 私は様々なことを考えてしまう。



 ーー私は、シンデレラとは違う。シンデレラのように華やかさがない。肌は白く、輝くような髪、濡れた瞳に、ふっくらと愛らしい唇。仕草には、たおやかさを感じさせる……。見たものはその可憐さに心を打たれ、愛さずにはいられない。まるで、太陽のよう。



 ーー私は、お姉様とも違う。怖いくらいに整っていて、触れなば切れそうなくらいの美貌。切れ長な瞳はゾクゾクするような妖艶さをはらみ、細いうなじは殿方の視線を集める。小柄な肢体なのにプロポーションは良く、他を圧するオーラを放つ……。暴力的な魅力に惹きつけられ、気がついたら時には虜になっており、逃れるすべはない。



 ーー私は、なんだ?

 ーー私は、なんでここにいる?

 ーー私は、なにをしているんだーー!?


 ◇◆◇


 ものの数分ーー。

 私は大広間に辿り着いた。

 どうやら大広間に入る順番は最後の方だったようで、既に談笑の華が咲き乱れていた。

 ーー私が大広間へ入ると、複数の意識がこちらへ向く。

 誰しもが談笑に花を咲かせているが、周囲へと目を配り、抜け目なく大広間に出入りする人物をチェックしているのだ。

 ……さながら、戦場みたいである。


(ヒィィー……)


 なんか、怖い。

 使用人たちの『ご武運を』という言葉がようやく理解できる……。

 それぞれ談笑するお母様とお姉様に目を向けると、笑顔が返ってきた。


「……ほっ」


 ……まずは二人の姿を見て安心した。

 さらに周りを見渡すと、顔見知りの令嬢たちの他、その母親たちが圧倒的に多く、公爵様や侯爵様方は隅っこで呑んだくれている。今日は、第二王子のハートをどの家の令嬢が射止めるのか見物気分で来たのだ。

 ーー幾人か真剣な顔をしている侯爵様などもいるが、妙齢のご令嬢が参加しているのだろう。気が気でないご様子……。

 また、公爵家や侯爵家のご令息も参加しており、令嬢たちへのアプローチが行われている。

 ーー伏魔殿だな、ここ。


「うーん……」


 思わず遠い目になる。場違い感、半端ない。

 私は周囲に顔見知りを見つけ、いそいそと挨拶へ向かう。とりあえず、仲間を見つけねば……。いつものとおり、壁の花となろう……。

 私は顔見知りの令嬢たちと合流し、コミュニティを形成する。


(落ち着くわ〜)


 私はチーム『壁の花の令嬢たち』を形成し、互いに身を寄せ合った。

 ーーしかし、本当に私ったらなにしに来たんだっけ。まあ、いいか。



 もう、いつもの通りにして会が終わるのを静かに待とうと思っていたところ、ドレスがモゾモゾしているのに気がついた。


(何か引っかかったのかしら?)


 とドレスを然りげ無くチェックすると柔らかいフワフワが……?


 キュッ……


と小さく鳴く声。


(ハムハム!?)


 チラッとドレスの中を覗くとハムハムがいた。器用にドレスの裾に入り込んでいる。


(これはマズイ。こんなとこにハムハムを連れてきたら顰蹙を買う)


 私はどうしようかと焦るが、ハムハムは静かにしている。控室に戻る時間はない。舞踏会が始まり、雰囲気がもっと砕けてから中座したほうがよさそうだ……。


 ザワリ……


 その時、大広間の雰囲気が変わる。

 ーーどうやら、今夜の主役である第二王子がお出ましのようだ。



 ーー今宵、第二王子の婚約者が決まる。かも知れない。

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