支度を……
「ひ、ヒィィィ……」
変な声がーー。
ーーいざ、敵は宮殿にあり!
なんて意気込んで来たものの、宮殿を見て、思わず変な声出たし!
なにしろ、一人で宮殿に来るのなんて初めて!
家の使用人がうまく出入口に馬車をつけてくれるが、勝手がわからない。
間髪おかず、ピシリ、とした宮殿の執事たちが出迎えてくれる。
『ようこそいらっしゃいました。こちらは……、ロワール伯爵家のご当主様?』
『いえ、ご令嬢の……。諸事情で舞踏会に後から参加させていただきます。速やかに用意できましたのが、この馬車でして……』
『さすがロワール家の方々……。ご当主様の馬車は常時、支度を怠らず……』
なんだか、宮殿の執事と我が家の使用人の会話が聞こえてくるが、平静にして待つーー。
(てか、宮殿こわッ!)
……早くも『やっぱ家にいれば良かった』と後悔。
なお、他の家も令嬢たちだけなのに当主専用馬車で乗り付けてくる家が相当数あるようで、一安心。馬車溜まりにチラホラと当主専用馬車が見える。
あまり目立つのは緊張するので、私は安堵の溜息を漏らす。
「ーーでは、こちらへ」
と馬車をどうにか降りた私は個室へ案内された。
令嬢に用意された控室である。家から付き添ってきた使用人に髪などを手直ししてもらう。
ーーどうやら、舞踏会が始まる大広間に来客が移動中で、まだ始まってはないらしい。ただ、私の順番は後の方になるとのこと。
先に到着していた、お母様やお姉様とは別。
「ふぅ……」
そっと息を漏らした先に鏡がある。
ーーそこに映るのは、薄っぺらい自分。顔も華やかさに欠け、内心はビクビクオドオドしている。家を出るときの勢いは何処へやら……。
なにしに来たんだっけ?
……それはさておき、大広間へ行く順番になった。
よし、こうなれば、なるようにしかならん! 行くぞ!
あ、でも、ちょっと待てよ……。
「すみませんが……」
ふと、あることを思いついた私は髪型の変更を申し出る。若干の変更なので、時間は要しない。
「ーー行ってらっしゃいませ。ご武運を」
家の使用人へ見送られ、私は大広間へ。
(ーーあれ? 家を出る時も言われたけど、なぜ『ご武運』なのかしら??)
とりあえずスルー。まずは大広間でお母様とお姉様を探さないと……。




